第31話 タクミたちとぶらありす。
「あら、そこにいるのはもしかして!」
昼ご飯を食べ終え、繁華街を散歩していた俺たちの耳に、聞き覚えのある声が届いた。
「アリス?」
振り返ると金髪の少女がぶんぶんと右手を振っている。
キラキラと輝きを放つ赤と緑のヘテロクロミア。
間違いない、彼女だ。
「やっぱり、だんきちさん!
それに……ゆゆ?」
「うえっ!?」
今のユウナは黒髪で、髪の毛はお団子にしている。
少し色の入った眼鏡をかけているので、ゆゆとは全然違う見た目なのだがアリスには速攻バレてしまったようだ。
「……って、ちょっと待った!」
現在の時刻は15時過ぎ。
繁華街は人でごった返している。
アリスは全く変装していないし、ユウナが”ゆゆ”だとばれたら騒ぎになるかもしれない。
「あ、アリスちゃん!
……って、あれ?」
街行く人たちは俺たちやアリスに興味を示さない。
ちらり、と視線を向ける人はいるが、そのまま興味なさそうに人ごみに紛れていく。
「ご心配なく。
認識疎外の魔法を使っていますので」
アリスの背後から現れたのは、スーツをびしりと着込んだダークエルフの女性。
アリスのプロデューサーを務めるレイニさんだ。
「た、助かります」
間接系の魔法とはいえ、街中で躊躇なく魔法を使うレイニさんに少々驚いてしまう。
「ゆゆの姿も素敵だけれど。
ガーリーな今のあなたもカワイイわね」
「へへ~、そう?」
にへらっ、と笑うゆゆ。
そういうアリスはピンクのワンピースに足元はひまわりのアクセサリがついたサンダル。
清楚かつカワイイコーディネートだ。
「そうだ、せっかくだし……」
何かを思いついたらしいアリスがにっこりと笑う。
「『ぶらありす。』コラボをしない?」
思わぬ申し出が彼女からあったのだった。
*** ***
『ゆゆとアリスの~』
『ぶらありす。はっじまるよ~!』
お互いの左手と右手でハートマークを作ったゆゆとアリスがファインダーの中でにっこりと笑う。
急遽決まった二人のコラボ配信。
近くのダンススタジオの更衣室を借り、いつもの衣装に着替えたふたり。
「今日は特別に、ゆゆとだんきちが来てくれたわ!
Enjoy!」
”え、マジ!? ダンジョン配信だけじゃなくてぶらありす。でもコラボ!?”
”ここ三ノ宮じゃん! 今から行って見れるかな?”
”仲良しゆゆアリすこすこ!”
湧き上がる公式ちゃんねるのコメント欄。
「え、あれって有名ダンジョン配信者のゆゆとアリス?」
「うそ、ホンモノ!?」
「だんきちもいるじゃん!」
「マジかわいいな」
突然繁華街に出現したアイドル配信者ふたり。
あっという間に人垣ができる。
「もふもふ」
「あまり近づきすぎないようにお願いします」
俺とレイニさんで押し寄せる人波を押さえる。
ゆゆの衣装とだんきちの着ぐるみ?
車で通りかかったマサトさんが渡してくれたのだ。
大きな案件があるらしく、打ち合わせに行く途中に偶然通りかかったらしいのだが……。
(マサトさんのことだから、絶対たまたまじゃないよな……)
多分俺たちやアリスの動きを把握していて、計画的に行動しているのだろう。
(……ちらっ)
思わず苦笑していると、レイニさんが視線を投げてくる。
仕事に集中しろという事だろう。
俺は観衆を押さえる事に集中するのだった。
*** ***
(……なるほど)
横目でだんきちを観察するレイニ。
何故アリスはダンジョンで不完全なカオスキャストしか出来なかったのか。
疑問に思っていた。
ブワッ
僅かに全身に力を入れ、
目には見えないそれをアリスの方に飛ばすのだが。
ばしゅん!
魔力は何者かの力に吹き散らされる。
「…………」
間違いない。
聖属性の”浄化”の力。
この着ぐるみに入っているタクミという男。
彼が無意識にレイニの仕込みを打ち消していたのだ。
(やはり、あの手を使うべきか)
「つーことでさ、アリスっぴ!
今日はニッポンの温泉文化を体験に行こうぜ☆」
「じゃぱにーず・ほっとすぷりんぐす!?」
「そしてフルーツ牛乳を飲むのじゃ!」
「なんなのその魅惑の言葉は!?」
じゃれ合うふたりを醒めた目で見つめながら、レイニは静かに思考を巡らせるのだった。
*** ***
同日深夜。
アリスが滞在している高級ホテル。
みきゅん?
アリスの部屋を守るようにドアの前で寝ていたピンクの毛を持つカーバンクルのマジェが、不思議そうな鳴き声を上げる。
こんな夜中にレイニがやって来たからだ。
「……カオス・ティム」
!!
レイニの双眸が怪しく光り、マジェの全身が総毛だつ。
(よし)
みきゅん……
一瞬反応したマジェだが、そのまま眠りに落ちる。
マジェの首輪に小さなアクセサリを取り付けるレイニ。
(次の対決では、必ず)
そのまま音もなく、レイニはアリスの部屋の前から離れるのだった。
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