第30話 タクミとユウナのまちかどデート
「ねえねえタクミおにいちゃん、これはどう?」
「そうだな~」
アリスとの配信対決が終わってから数日後、俺とユウナは街に買い物に出ていた。
「あーでも、こっちもかわいいなぁ」
ユウナが選んでいるのはホワくん用の首輪。
神獣系モンスターを飼う事は合法だが、中には魔法の力を持つ個体もいるので
能力を抑える首輪を装着することが義務付けられていた。
「あ、やば!
これめっちゃ可愛い!!」
ユウナが取り出したのは、肉球型のアップリケがあしらわれたピンク色の首輪。
飾り付けられた同色のリボンがオシャレだ。
「ホワくんは男の子だぞ?」
「そこがカワイイんじゃないですか~」
今日のユウナは星とハートがデコられた白いインナーにブラウンのアウターを合わせ、グレーのショートパンツからすらりと伸びた足元はコ○バースのローカットスニーカー。
お嬢っぽい服装が多いオフモードのユウナにしては活発な印象のJKファッションだ。
「えへ♪」
俺の視線に気づいたのか、くるりと一回転するユウナ。
しっかりと鍛えられたふくらはぎときゅっと締まった足首に目を惹かれてしまう。
「もう~、タクミおにいちゃんは脚フェチなんだから~」
「……胸もおおきいんだぞ?」
少し前かがみになり、胸の前で手を合わせるユウナ。
二の腕に挟まれ、むにゅんと歪むシャツ。
「うっ……!」
相変わらず可愛すぎる。
清楚な制服モードに活発なゆゆモード。
そのどちらでもない等身大JKっぽい私服のユウナはなんというか……心にグッとくる。
「……その服、とても似合っててかわいいぞ。
それに、ちょっとセクシーだ」
何かを期待する上目遣いに負け、ユウナを褒めてやる。
「へへっ、やたっ♪」
ぱああっ、と満面の笑みを浮かべるとくるくる回るユウナ。
ああもう可愛いな!
だから俺はこの子を甘やかしてしまうのである。
*** ***
「魔王リアンさんかぁ……」
ホワくん用の買い物を終え、ユウナの買い物に付き合った後、俺たちは昼飯を食うために海の見える個室レストランに入店していた。
どうしても高くなってしまうが、気兼ねなく会話するにはこういう店の方が都合がいいし、それだけの給料は貰っている。
「少し前まで、ヴァナランドでは人間族と魔族が争っていたらしいからな」
「ふ~ん」
キラキラと光るリアンさんの名刺を右手に持ちつつ、ユウナの視線は俺の皿に1つ残された大好物の唐揚げを追っている。
「……ほら」
「ありがと! タクミおにいちゃん!」
ぱくっ
「んん~♡」
「まったく」
だから胸だけでなくお腹もぷにるのである。
家に帰ったらプールトレーニングだな。
「こちらと繋がる数年前に現魔王であるリアンさんが人間族と和解、日本の技術がもたらされたこともあって、ヴァナランドも大きく発展しているらしい」
「平和の立役者さんなんだね。
ゲームみたい!」
「まーな」
自分で話していてなんだが、ユウナの感覚に同意である。
協定によりこちらからヴァナランドへの旅行は大きく制限されており、ダンジョンの向こうの世界は俺たちにとって近くて遠い世界だ。
「ただ、現魔王が全権大使として赴任したという事は……」
「ふえ?」
何か政策に変更があるのかもしれない。
うららかな昼下がり、俺は向こうの世界に思いをはせるのだった。
*** ***
同時刻。
ミウス・プロモーションのミーティングルーム。
「アリス、配信は大成功でしたが……もう少し過激な迷惑行為を心がけてください」
「なぜ? フォロワーの皆様は喜んでいたわよ?」
きょとんとした表情を浮かべるアリス。
先日の配信対決から2週間ほど。
アリス公式ちゃんねるの登録者は150万人を超え、ゆゆに次ぐ若手アイドルダンジョン配信者の地位を確固たるものにしていた。
「それは、”人の目”があるからです。
皆、心の奥底には抑えきれない欲望を飼っているもの……それを上手に解放してあげるのもアリス、貴方の仕事なのです」
「ん~?」
力説するレイニだが、アリスはピンと来ていないようで……。
「でもやっぱり、行き過ぎた迷惑行為は良くないことだわ。
それより、『ぶらありす。』の収録があるのでしょう? はやく街に行きましょう」
ぶんぶんと首を横に振るとにっこりと笑い、部屋の外へ駆け出すアリス。
「…………」
その後を追いながらわずかに眉間にしわを寄せるレイニ。
(使途を増やすだけではデルゴ様の目的をかなえるには至らない……どうにかしてカオス・キャストを。そうだ、アリスが拾ってきたあのモンスター、夢幻の力を持っていたはず。上手く使えば)
「ねえレイニ、早く!!」
このいう事を聞かない子供を上手く操れるかもしれない。
内心の陰謀はおくびにも出さず、レイニはアリスを追うのだった。
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