はりこみ
………シ、スター?
霧のかかった向こう側にシスターがいる。後ろを向いている。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
伝わらない。この思いは、伝わらない。
後ろ姿が怒っているように見える。苦しい。今更、謝れない。自分勝手に謝ろうとする自分がいる。謝るだけじゃ伝わらない事分かっている。
なぜこんな事してしまったのだろう。もう二度と会うことも、謝ることも、許されない。もし、シスターに会えたとしてもどんな顔して会えばいいのか分からない。
今の僕にできることは、あの頃の自分を改心させ、変わっていく事だと思う。心の中で汚い自分が
もし、マァがついてなかったら、僕は、本来の自分でいられるのか? シスターを心の中で傷つけずいられるのか?
自問自答したって、いつもたどり着く答えは同じ。マァが付くはじまりを作ったのは、僕だ。僕の心の穢れだ。
僕は、許されたくて、モヤの向こう側のシスターに必死に訴えるけど、届かない。シスターは、聞きたくないんだと思う。言い訳ばかりの僕の言葉なんて聞きたくないんだと思う。
『反省してはじめて
シスターが前に教えて下さった言葉を思い出す。そして、僕が謝る意味がない事を思い出す。もう二度と許される事がない事をまた、認識する。生まれ変わったら、いつか、なんてないって分かってるのに、許されようとする。もう二度と許される事は、ない。
自分に言い聞かせているのに、反省ができてない。
霧の向こう側のシスターが歪んでいく。言いたくもないシスターへの罵声と、汚いイメージ、
頭が乗っ取られたように引っ張られ、シスターをお守りして下さっている神様にさえ、汚い言葉が浮かぶ…。
あり得ない。苦しい。悪い獣が付いた人は、気づいても反省ができない…。
僕は崖からまた転げ落ちる。僕は死んでもいい。
「ゆっくん! ゆっくん! ゆっくん起きてよ!」
揺さぶられている。ヒロが隣にいる。夢? ヒロを触る。触れる。良かった。
そうだ。僕たちは、今、工藤歩武を尾行してたんだ。
工藤歩武は、家電製品店から出た後、タクシーに乗った。僕たちは慌てて、タクシーに乗り、ドラマみたいに『あのタクシーを追いかけて下さい』と、工藤歩武の動向をおった。すると、工藤歩武は高級住宅街へ行き、高級マンションへ入って行った。僕たちはごめんなさいと、タクシー運転手に謝り、タクシーの運転と共に工藤歩武の自宅らしきマンションの前で張り込んだ。工藤歩武は30分後くらいにジャケットに着替えて出てきて、またタクシーに乗った。そして、高級イタリアレストランへ入って行った。僕たちは、高級イタリアレストランの入り口がよく見えるカフェで現在待機していた。
「あぁ…」
自分のおでこを触る。手が濡れるくらいのすごい汗だ。
「あぁ、じゃないよ。こんな所でよく寝れるね。俺はおしゃれすぎて寝れないよ」
高校生男子2人が行くには、少し不釣り合いなカフェにいた。
「ごめん」
「張り込み中だってのに」
「今、何時?」
「20時」
「もう2時間も経ったの?」
「そうだ。そのうち半分の時間、ゆっくんは寝ていた」
「ごめん、自分でも気づかぬうちに」
「この1000円もするカプチーノは、もう飲み干してしまった」
「そうだね」
僕は、レモン水550円を飲んでいる。普通の水との違いは、水がいつもより透明な気がするという事だけ。
「そろそろお腹がすいたが、1番安いサラダでさえ、1300円はする」
「1300円するねぇ」
「俺は悩んでいる」
「何を?」
「これを食べようか、諦めようか」
「食べれば?」
「だが、ゲーム代にカプチーノ代出費が重なり、俺の残金は、800円。あと、500円足りない。タクシー代をゆっくんに支払ってもらった手前、奢ってとはとても言えない」
「遠回しに奢れと?」
「その通り!」
ヒロの目が輝く。しょうがない奴だ。
「何がいいの?」
「何でもいいの?」
「3000円以内で」
「デミグラスオムライス」
ヒロが熱々のデミグラスオムライス2800円を食べている。ボリュームがあって、大きな牛肉がゴロゴロしている。一方僕は、お手頃価格1500円のミートドリア野菜付きを食べている。本当は、マルゲリータピザも食べたいし、牛タン入りビーフシチューを頼みたかった。でも、またタクシーに乗るだろうし、僕のお小遣いを思うと、少し我慢だ。
なんとなく今日は、お小遣いを多めに持ってきていた。ヒロがゲームや、洋服を買おうと言い出して、最終的にお金足りないから貸してと、騒ぎ始める気がしたから。いつもは、多くて1万円。なのに今日は、5万円も持ってきていた。いつもと違うことをすると、何かが起こる。
僕たちは、待ち続ける。
僕は、工藤歩武を見た時のゾワゾワを思い出していた。僕の直感が当たらない事を願いながら、僕は張り込みを続けている。
獣には、色々な種類の獣がいる。どの獣も人を騙したり、陥れようとしている。獣がついた人間が獣を外すことは困難だ。お祓いをしてもらっても、お祓いをする側の力量も必要になる。欲にまみれた現代の世の中だと、ちゃんと力がある人は少ない。そして、お祓いをする側も命がけでお祓いをして下さっている。
危険な獣だらけの世の中なのに、正しく獣を理解した人が少ない世の中。
今は本当に生きづらい世の中だ。だけど、希望もある。今の僕たちの年代の子たちは、ヒロのようにスレた子が少ない。そういう人がきっと、世の中に正しい事を伝えてくれると思う。
獣がついた僕にはもうできない事だけど、心の綺麗な人達が人として大事なことを伝えてくれるはずだ。
きっと、大事な事は残っていくはずだ。
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