第5話 困った人は困っている状態にあるのかもしれない

 おじさんは、アイスコーヒーをストローで飲み始めた。

「君も、早く飲みなさい。ここの珈琲、香りがよくて美味しいよ。

 氷が溶けて、香りが飛んでしまわないうちに」

 僕は、ジュリー氏と同年代の実年男性を見ると、思わず身構えてしまうのであるが、どうしたわけはおじさんに限ってはそうならなかった。

 このことが原因で、バイトを解雇されそうになったこともあったので、僕は実年男性にはバカ丁寧な敬語を使うことにしていた。

 僕はおじさんに、救いの光を見出しそうな気がした。

 おじさんと出会ったことで、僕は実年男性と普通に接することができるようになるかもしれない。

 アイスコーヒーの香りで、僕の心に癒された。

 おじさんは言った。

「世の中は、自分が真面目に生きていても、思わぬ罠が潜んでいるが、それに引っかかちゃいけないよ。大抵はお金かエロという、人間の本能が原因であるケースが多いがね。

 今、若い子がお金目当てで、オレオレ詐欺の片棒を担いだ挙句、悪党から逃れられなくなってしまうというケースが多い。

 まあ、家族との仲がうまくいかなくなると、刺激を求めるために酒やギャンブルに走るケースが多いが、それには金が必要だ。

 だからまず、家族との仲を整えることが先決だな」

 僕はジュリー氏からの性被害を家族にも言えないでいた。

 ジュリー事務所の先輩もこの性被害に触れようとはしなかった。

 ただ、無言のなぐさめにハンバーガーを奢ってくれたりはしたが、結局それは、我関せずというサインだったのだろう。

 僕はスターになるためには、ジュリー氏の性被害を受け入れるしかないと思っていた矢先、ジュリーJRの同輩が、なんと性器を口淫(フェラチオ)されたというのを聞いて鳥肌が立ち、それがきっかけでジュリー事務所を退所することになった。

 後に、彼はこのことをマスコミに発表した。


 おじさんは僕の表情を読み取って言った。

「君には誰にも言えないような、秘密を抱えていたんじゃないかな。

 僕と同じ匂いがするよ。それが何なのか、口には出さない、いや僕も出したくなかったけどね。

 でも、君と一緒にいると、隠蔽し封印していた過去を語りたくなった。

 まあ、独り言の半分フィクションだと思って、僕の話を聞いてほしい」

 僕は一瞬、ドキリとしたが、その動揺を悟られないように、背筋を伸ばし、アイドル時代、ファンから好評を頂いた笑顔をつくってみせた。

「君の笑顔は美しいが、商売用の造られたものだという感じがする。

 ムリもないさ。僕も君と同類の笑顔で、世間を乗り切ってきたんだから」

 僕は、うつむいてストローでアイスコーヒーをすすった。

 今は、香りよりも苦みが際立つ。

「芸能界は、とりあえず何があっても、愛想よくし、笑顔を浮かべていればなんとか道は開けるなんて母の言葉ですよ。

 でも相手は、自分の都合に利用しようとするケースもあるから、笑顔を浮かべながらも相手がどういう人で、何が目的なのか、善意なのか悪意なのかを判断する洞察力を身につけることも必要だよ。

 もちろん愛想よくして、相手の心を開かせることから始まるけどね」

 僕は思わずため息をついた。

「そうですね。人間関係は結局は、愛想と都合ですね。

 僕はお恥ずかしいことに愛想に弱い。まあ愛を求めている人ほど、愛想よくされたら相手を信用してしまうともいいますけどね。

 でもその信用していた人から裏切られると、自分の信じていた愛が根こそぎ引き抜かれ、まるで今までの世界がどんでん返しのように変わってしまい、何を信用したらいいのかわからなくなってしまうんですよ」

 おじさんは、納得して言った。

「ほんとその通りだね。今から僕の身の上話をするよ。かなりショッキングな内容だから覚悟して聞いてほしい」

 僕は心臓ドキドキ状態なのが、心拍数バクバク破裂寸前に変わっていくのを意識していた。


「僕はね、三歳のとき、ある中流家庭の養子として迎えらえた。

 義理の両親は僕を可愛がってくれた。しかし、十歳年上の義理の兄からいわゆる性被害を受けていたのだったが、誰にも言えなかった。

 だって、義理の兄は義理の両親の実の息子。僕は養子という名の血のつながりのない他人。言えるわけがなかった」

 僕は思わず目を丸くした。

 似た者同志、類は友を呼ぶというが、やはり僕とおじさんが巡り合ったのは、運命なのだろうか?!


 おじさんは話を続けた。

「僕が十歳年上の義理の兄から、性被害を受けたのは、今でも忘れやしない小学校五年のときだった。

 僕に勉強を教えてくれたり、お菓子をくれたりしていたやさしい面倒見のいいお兄ちゃんが、僕がトイレで用を足しているとき、後ろから肩を抱いてきたのだった。

 最初は単なるスキンシップだと思っていた。が、僕が声を上げる前に、僕の陰部を手でまさぐり、あっという間に僕の前に回り、陰部をなめ始めたのだった」

 僕は呆れて聞いていた。

 ジュリー氏はベッドの中だったが、このおじさんはトイレという個室で性被害を受けたのか。

「義理の兄は言った。

「このことは、僕と君との秘密の愛のしるし。スキンシップ以上の愛を僕は君に感じている。いわば秘密の愛、シークレットラブだよ」

 僕は誰にも言えないままに、義理の兄の誘いに応じるしかなかった。

 しかしそれと同時に、僕も兄の二代目になってしまうかもしれない。

 早く自立してこの家を出なければと決心していたんだ。

 だから会計士になるために、必死で勉強したものだよ」

 僕は、ただただポカンを口を開けていた。

 開いた口がふさがらないとはこのことだった。


 おじさんは話を続けた。

「義理の兄は、中学三年の頃からいわゆる化粧をするようになっていた。

 もちろん学校ではそんなことはなかったが、休日には濃いファンデーションを塗り、当時流行っていたオレンジ色の口紅をくっきりとつけるようになっていた。

 服装は肌にぴっちりと貼りついたジーンズとラメの入ったTさんは、アイスコーヒーをストローで飲み始めた。

「君も、早く飲みなさい。ここの珈琲、香りがよくて美味しいよ。

 氷が溶けて、香りが飛んでしまわないうちに」

 僕は、ジュリー氏と同年代の実年男性を見ると、思わず身構えてしまうのであるが、どうしたわけはおじさんに限ってはそうならなかった。

 このことが原因で、バイトを解雇されそうになったこともあったので、僕は実年男性にはバカ丁寧な敬語を使うことにしていた。

 僕はおじさんに、救いの光を見出しそうな気がした。

 おじさんと出会ったことで、僕は実年男性と普通に接することができるようになるかもしれない。

 アイスコーヒーの香りで、僕の心に癒された。

 おじさんは言った。

「世の中は、自分が真面目に生きていても、思わぬ罠が潜んでいるが、それに引っかかちゃいけないよ。大抵はお金かエロという、人間の本能が原因であるケースが多いがね。

 今、若い子がお金目当てで、オレオレ詐欺の片棒を担いだ挙句、悪党から逃れられなくなってしまうというケースが多い。

 まあ、家族との仲がうまくいかなくなると、刺激を求めるために酒やギャンブルに走るケースが多いが、それには金が必要だ。

 だからまず、家族との仲を整えることが先決だな」

 僕はジュリー氏からの性被害を家族にも言えないでいた。

 ジュリー事務所の先輩もこの性被害に触れようとはしなかった。

 ただ、無言のなぐさめにハンバーガーを奢ってくれたりはしたが、結局それは、我関せずというサインだったのだろう。

 僕はスターになるためには、ジュリー氏の性被害を受け入れるしかないと思っていた矢先、ジュリーJRの同輩が、なんと性器を口淫(フェラチオ)されたというのを聞いて鳥肌が立ち、それがきっかけでジュリー事務所を退所することになった。

 後に、彼はこのことをマスコミに発表した。


 おじさんは僕の表情を読み取って言った。

「君には誰にも言えないような、秘密を抱えていたんじゃないかな。

 僕と同じ匂いがするよ。それが何なのか、口には出さない、いや僕も出したくなかったけどね。

 でも、君と一緒にいると、隠蔽し封印していた過去を語りたくなった。

 まあ、独り言の半分フィクションだと思って、僕の話を聞いてほしい」

 僕は一瞬、ドキリとしたが、その動揺を悟られないように、背筋を伸ばし、アイドル時代、ファンから好評を頂いた笑顔をつくってみせた。

「君の笑顔は美しいが、商売用の造られたものだという感じがする。

 ムリもないさ。僕も君と同類の笑顔で、世間を乗り切ってきたんだから」

 僕は、うつむいてストローでアイスコーヒーをすすった。

 今は、香りよりも苦みが際立つ。

「芸能界は、とりあえず何があっても、愛想よくし、笑顔を浮かべていればなんとか道は開けるなんて母の言葉ですよ。

 でも相手は、自分の都合に利用しようとするケースもあるから、笑顔を浮かべながらも相手がどういう人で、何が目的なのか、善意なのか悪意なのかを判断する洞察力を身につけることも必要だよ。

 もちろん愛想よくして、相手の心を開かせることから始まるけどね」

 僕は思わずため息をついた。

「そうですね。人間関係は結局は、愛想と都合ですね。

 僕はお恥ずかしいことに愛想に弱い。まあ愛を求めている人ほど、愛想よくされたら相手を信用してしまうともいいますけどね。

 でもその信用していた人から裏切られると、自分の信じていた愛が根こそぎ引き抜かれ、まるで今までの世界がどんでん返しのように変わってしまい、何を信用したらいいのかわからなくなってしまうんですよ」

 おじさんは、納得して言った。

「ほんとその通りだね。今から僕の身の上話をするよ。かなりショッキングな内容だから覚悟して聞いてほしい」

 僕は心臓ドキドキ状態なのが、心拍数バクバク破裂寸前に変わっていくのを意識していた。


「僕はね、三歳のとき、ある中流家庭の養子として迎えらえた。

 義理の両親は僕を可愛がってくれた。しかし、十歳年上の義理の兄からいわゆる性被害を受けていたのだったが、誰にも言えなかった。

 だって、義理の兄は義理の両親の実の息子。僕は養子という名の血のつながりのない他人。言えるわけがなかった」

 僕は思わず目を丸くした。

 似た者同志、類は友を呼ぶというが、やはり僕とおじさんが巡り合ったのは、運命なのだろうか?!


 おじさんは話を続けた。

「僕が十歳年上の義理の兄から、性被害を受けたのは、今でも忘れやしない小学校五年のときだった。

 僕に勉強を教えてくれたり、お菓子をくれたりしていたやさしい面倒見のいいお兄ちゃんが、僕がトイレで用を足しているとき、後ろから肩を抱いてきたのだった。

 最初は単なるスキンシップだと思っていた。が、僕が声を上げる前に、僕の陰部を手でまさぐり、あっという間に僕の前に回り、陰部をなめ始めたのだった」

 僕は呆れて聞いていた。

 ジュリー氏はベッドの中だったが、このおじさんはトイレという個室で性被害を受けたのか。

「義理の兄は言った。

「このことは、僕と君との秘密の愛のしるし。スキンシップ以上の愛を僕は君に感じている。いわば秘密の愛、シークレットラブだよ」

 僕は誰にも言えないままに、義理の兄の誘いに応じるしかなかった。

 しかしそれと同時に、僕も兄の二代目になってしまうかもしれない。

 早く自立してこの家を出なければと決心していたんだ。

 だから会計士になるために、必死で勉強したものだよ」

 僕は、ただただポカンを口を開けていた。

 開いた口がふさがらないとはこのことだった。


 おじさんは話を続けた。

「義理の兄は、中学三年の頃からいわゆる化粧をするようになっていた。

 もちろん学校ではそんなことはなかったが、休日には濃いファンデーションを塗り、当時流行っていたオレンジ色の口紅をくっきりとつけるようになっていた。

 服装は肌にぴっちりと貼りついたジーンズとラメの入ったTシャツ姿で、繁華街のいわゆる夕日のたまり場と呼ばれるところに出かけていくようになった」

 

 

 

 

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