第49話 小説賞に応募してみようかな……<14>



 思い出したくもない、私の青春ならぬ中年期を捧げた純文学系同人誌時代ですが。


『小説賞に応募してみようかな……』というエッセイを書き始めた以上は、やはりその時にいろいろと経験した賞応募ということについて、書いておかないと完結にはならないと、じくじくと思い悩んだ末に、やっと書こうという気になりました。



 結論から言いますと、所属していた同人誌の主催者の先生が、賞応募については嫌っておられましたので、あまり経験していません。



 賞応募しなくて、当時の同人誌で書くものが、どうのようにして世間に認められる手段があるのかといいますと。当時は文学界とか海燕とかの純文学系月間雑誌がけっこうありまして、その雑誌の巻末には今月の同人誌評というのが必ずあったのです。


 そこで取り上げられて、そして今月のベスト5とかいうのに選ばれて、そしてそしてそこから本誌への転載。それが同人誌で励む者の通るべき王道でした。しかし、本誌掲載は、年に1作あるかないかの狭き門だったのですけれどね。


 だから、新人賞に自ら応募するというのは、恥ずべき行為だという他からの圧と自分の思いこみがありました。


 もし応募がばれて、(一次予選通過だけでも、名前が載る場合があるじゃないですか)、合評会で、先生に「あの賞を狙うには、まだ早い」と言われるのは、針の蓆に座るのと同じような行為です。


 私も長い同人誌経験の中では、雑誌の同人誌評の今月のベスト5に選ばれたこともあったと記憶しています。でも転載はありませんでした。


 それにしても、なんか『武士は食わねど高楊枝』的プライドですね。今だから言えるのですが、なんと閉鎖的だったのだろうと思います。





 それから、当時の全国新聞でも、同人誌評というコラムがありました。


 合評会では仲間には不評だった作品(妄想の中での妻の夫殺し)が、朝日新聞で好意的に取り上げられた時は嬉しくて、いまだに覚えています。


 地元新聞でも、当時は、県内の同人誌の活動についてはよく取り上げてくれていました。県内の同人誌が集まって協会を作って、そこで年に1度、すぐれた作品を表彰するということもしていました。


 私の作品も表彰されたことがあります。

 新聞に顔写真が載ったのは、あのときが最初で最後です。


 でも、あんなに盛んだったのに、たぶんいまでは純文学系同人誌は、県内には1つもないと思います。ほんとうになんでも栄枯盛衰ですね。




 ……ということで、注目されるような(先生や仲間にばれるような)大きな新人賞には応募した経験がないのですが、新聞や雑誌が応募していたエッセイやショートショートなどには応募して、小遣いを稼いでおりました。


 ところで思い出すのも嫌なある事情があって、50歳を前にして、長い同人誌活動に終止符を打ったわけですが。


 退会して何年か後、退会に至った諸々を忘れる記念にと、私の作品の中で一番純文学らしからぬ作品(百合で謎解き)をあるミステリーの賞に送りましたら、なんとそれが最終選考まで残りました。


 電話の前に座って、発表を待つという得難い経験をしました。


 その作品、中年のおばさんの百合を絡めながらの、日常でもよくありそうな友情に芽生えた小さな不安の謎解きでした。


 ミステリーって、警察や殺人を舞台にしなくても、成り立つもののようです。警察や殺人が苦手な方でも、少しばかり視点を変えて、日常生活ミステリーに仕立てて挑戦するとよいですよ。




 で、落選したそこで、次回こそはと奮起すればよいのでしょうが。


 元々好きであった縫い物と編み物という趣味に、思いっきりよく方向転換しまして。(笑)


 いやあ、これは苦しみなんて縁のない、楽しい20年間でした。孫になにか縫って作ってやると「ばあば、魔法使いみたい」と喜んでくれたし、町内の手芸クラブでは、仲間に頼りにされる存在にまでなれたし。自分の作った作品を売るという経験もしましたし。




 何度も「今回で、終わりです」と言いながら終わらなかった「小説賞に応募してみようかな……」ですが、この14回を持って、本当の幕引きといたします。


 


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