3-13

ショッピングセンターへと入った僕はスマホを片手に考え事をした。


もし息子だと判断してくれなかったら・・・

判断してくれても日本では僕たちはどうなっているのか・・・

そもそもかからなかったら・・・


色々な不安を覚える中、僕は電話帳から母さんを選択し呼出した。


プルルルル・・・・プルルルル・・・


短いようで長く感じる呼び出し音。

何度目か分からない呼び出し音のあとに電話は繫がった。


「・・・・・・・・・」

相手は無言だ。


「か、母さん・・・?」

「その声は・・・蓮司なの?」


「う、うん・・・」

「よかった!無事なのね!?今どこにいるの!?直ぐに迎えに行くから!!」


「ごめん・・・母さん、それはできないと思う」

「どうしてなの!?」


「母さん・・・突拍子もないことを言うけど今から僕のいう事を信じてほしい・・」

「蓮司・・・?」


そして僕は異世界に召喚されたことやその目的、異能のスキルなどやその恩恵により話せることなどを話した。


「そう・・・そんなことがあったのね・・」

「え?・・・信じてくれるの?」


「蓮司が姿を消した直後であればこんな話は信じるつもりはなかったわ。

でも今なら信じられるわ」

「どうして・・・?自分でも全く信じる気が起きない内容を言ってる自覚があるのに・・・」


「それはね・・・今日本も、いいえ、こっちの世界も大変なことになっているからよ」


大変なこと・・・

嫌な予感が襲ってくる。

母さんの携帯に繋がった喜びは一瞬で冷め、あの破壊されつくした光景が頭をよぎる。


「何が起きたの?」

「・・・・どう・・・言えば良いのかしら・・?」


僕は黙って答えを待つことにした。

急かしてもまともな答えは返ってこないと判断したからだ。


「蓮司の学校の高等部の生徒たちが行方不明になってから1年するかしないかの頃、つまり大体1か月ほど前かしらね・・・

見たこともない巨大な怪物が現れて、世界中の人々を襲ったのよ・・・」

「それはどんな怪物なの・・?」


「人間を丸呑みできるような大きなトカゲや、アニメの世界で描かれてるようなゴブリンやオークと呼ばれるもの、果ては翼のある竜までもが現れ始めたわ。

はじめのうちは人里離れた場所に現れたことで遠巻きに眺めているだけで世界中が沸き立っていたわ。

でもそんなのはつかの間の平穏だった。

ある日取材のために近づいた報道関係者を残酷に、無慈悲に食い殺し始めた。

当然、報道関係者は人のいる地域。

即ちある程度治安が保たれている場所に逃げ込もうとした。

でもそれを追いかけて来た怪物たちに街の人諸共食べられてしまったのよ」


「・・・・・・・・」


「そうして80億人ほどいた世界人口は、1か月の間に60億人まで減ったしまったのよ。

もちろん日本もだけど、世界各国は軍隊や軍事組織を出撃させて鎮圧に当たったわ。

だけど物資の問題とか、何よりも砲弾や銃弾が基本的に通用しにくい相手らしくてね・・・

どんどん食い殺されてしまったのよ。

各国はその怪物でも易々とは入れない高く頑丈な壁を作り上げて防衛に専念するしかなかった・・

どうしようもなかったのよ・・・・・」


「そっか・・・大変な時に居られなくてごめん・・・・・・」

「いいのよ、あなたが無事だったのが分かっただけでも大きな収穫だわ。

そっちの世界は危なくないの?」


「確かに危険はあるけど、対応できる範囲だよ。

皆で協力し合って生きてるよ」


一部生徒たちは悪の道へと奔っているがそこは今言うべきことでは無いだろう。


「帰る道筋も見つかってないけれど、手がかりと思われる情報は見つかった。

だからいまその事案に対応している最中なんだ・・・」

「ダメよ!!!こっちに帰ってきては!!」


「どうして・・・?」

「私達、親の願いは、子供たちが少しでも安全に生きていること。

こっちの世界に帰ってきてしまえば、より一層危険な状態になる。

だから帰ってきてはダメよ!!!」


「・・・・・・・母さん、それはできないよ」

「なぜ!?」


「僕たちには、今、日本では使えなかった力が使える。

聞いている限りだとそっちに出ている怪物は、こっちの世界でも魔物として存在するものだと思う。

そして僕らはそれに対抗する手段を持っている。

なら僕らこそが帰って戦うべきだと思う」

「そんなのはどうでもいい!私たちは子供が生きていることを願っているの!

お願いだから危険なことをしようとしないで!!」


「以前の僕ならその通りにしたと思う。

でも、今の僕は以前の僕とは少し違う・・・と思う。

だから必ずそっちに帰るよ」

「蓮司・・・あなたはいつもそうだったわ。

普段は弱気で行動力も無い割には、いざというときには考えるよりも先に動き出すような子だったわ・・

・・・・・・・わかったわ。

たぶんもう、何を言っても無意味なのでしょうからこれ以上は言わないわ。

でもお願いだから死なないでね・・・」


「わかったよ・・・約束する」


そういって電話を切った・・・



いつにもまして弱気な母さんを初めて感じた。

本当のことを言えば、約束するだけの力なんてないのかもしれない。

でも、いまのにはそれに対抗する手段がある。

そして、それらを知った状態で動かないで、日本があった世界が完全に滅び、

自分たちの手の届かないところで家族が魔物に殺されたと知れば、僕たちはきっとこの先死ぬまで一生後悔して生き続けることになると思う。


だから僕は戦いたい・・・

例え他の誰もが闘うことを拒んだとしても。





この知らせを早くみんなに伝えなければ・・・

僕はスマホを仕舞って、急いで戻った。

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