3-11
人間との共同戦線を張るにあたっての穏健派の代表を臨時でアンジェリカさんが勤める形になった。
彼女は単独でここに来ていたそうだが、それでも穏健派の主要メンバーを陰ながらサポートしている家族や身内の者達の中でも、かなり高い発言権を有しているそうだ。
そのため彼女が提案すれば大半のメンバーは頷いてくれるとのことだ。
それも自分たちに協力する勢力であれば、なおのこと。
ここから先どうするか、さらに詳しく話し合う形になった。
結果まとまった内容としては、この崩壊した漁村を僕たちの共同戦線の拠点としようということ。
この拠点から彼女が扱える転移魔法を用いて帝国から少し離れた沖合の小さな島まで移動すること。
そこからの移動は船を用いた移動を行うことなどが盛り込まれた。
そうなるといよいよメンバー集めが必要になる。
今までは全体数でも1/10程度の人員に大まかに事情を話す程度のことしかしていなかった。
だがここから先は
できる限り多くの戦力を集めなくてはいけないし、その戦力に関しても召喚魔法のことに関して積極的に関わっていこうと考えてくれる人たちの協力が必要だ。
勇者召喚による真実が、旧アーガスト王国による軍事利用が目的であり、魔王討伐は偽りの目的。
それゆえ日本への期間方法は基本的に無いものであるということは生徒たちの全員が既に知っている。
元の世界に帰る手立てが無いと知ったときは絶望する生徒たちもいたが、生き残る意思を見せてくれた。
そしてこの世界でどうにかして生きていこうと考える者達がほとんどだ。
そんな彼らに帰還への道筋となる可能性の高い情報が見つかったとなれば、協力的になってくれる可能性は非常に高い。
詳しい事情の説明のために、彼女はそのまま公国に行くことになった。
どのみち今回のことの真相を公国にも知らせる必要があるだろうから・・・
しかし・・・
「悪いけど後1日くらい待ってくれないかしら?」
とアンジェリカさんより要望があった。
「何故か聞いても?」
「答えは簡単よ。一応ポーションで傷は塞がったけど、失った血まで戻っているわけでは無いし、さっきまでの戦闘で大分魔力も消耗してる。
これでは移動も一苦労になるわ」
「そこは安心してください。
僕たちが使っている車は特にそういうのを必要としませんから。
普通ならガソリンと呼ばれる油が必要になるんですけど、なぜかそういうのが無くても動くみたいで。
それに座ってるだけで目的に辿り着くようなものですから」
「・・・・・・・・・それはあなた達全員ができるの?」
「全員が使えるとは言えますが、厳密にそれを用意できるのは僕だけです」
「音も出さずにあいつを殺した物といい、それだけの物を用意することのできる力と言い、あなたも大概ね・・・これからは何を説明されても驚くようなことは無いから安心して頂戴。
レンジと言ったわね。あなたのやることだからと思うことにするから。」
解せぬ。
なぜ存在ややることが大概の悪魔に言われねばならぬ・・・
そうして僕たちは拠点で待つ生徒たちの元へ車で帰還した。
帰還してからは騒動になった。
帝国が悪魔を召喚し、その悪魔によって帝国が滅んだことや、その斥候によって漁村が壊滅したことなどの説明をすると騒ぎになるのは当然と言えたし、
その悪魔の1人?がともに来ているとなると騒ぎはさらに大きなものとなった。
幸いだったのが、話し合いが通じる相手であったため、公国軍に警戒心はあったものの、いきなり敵対行為という形にならなかったことだろう。
途中でお風呂に入ったアンジェリカが普段は汚れを落とす清浄の魔法を使っているのに、お風呂でリラックスできたことで、この戦いが終わった暁には悪魔たちの世界に招待して是非とも風呂やシャワーの設置をしてほしいと懇願があった。
どうにも女性というのは種族問わず美に関することには敏感のようだ。
悪魔だけに今にも人を殺しかねない視線で懇願されたときは正直ちょっとビビってしまったのはご愛敬ということで許してほしい。
そうして僕たちは保護区画に向かった。
大半の生徒たちは行きと同じスピードで帰ったので3日弱かかる形になったが、
僕たちはハン〇ィーは使わなかった物の、ラン〇ルを出して、乗り心地は後回しにしてスピード優先でどこぞのラリーカーのように走りまくったため1日弱で帰還した。
何度も戻しかけたけど・・・
なお運転していたのは僕ではなく、涼音だ。
運動部魂よろしく活発な考えで、ハンドルを握って爆走すると人格が変わった可能様に恐ろしい笑顔をしながら爆走していた。
ちなみにそれを見た明美が「もう二度と涼音にハンドルを握らせない」とこれまた人を殺しかねない表情をしていたのは余談である。
なおその被害を直に受けたのは茜である。
茜はあまりに粗い涼音のドライブに耐え切れず、一度戻してしまっている。
そのためその兼ね合いで一度止まった時には、茜は人を呪い殺せそうな表情で涼音を見ていた。
そうして僕たちは他の生徒たちよりも一足先に保護区画へと帰還した。
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