3-8

そのまま均衡が崩れるのを待っていたがその時がやってくる。


男性と思われる方が女性と思われる方に巨大な日の塊をぶつけたと思ったら、次の瞬間には女性と思われる方の目前に移動しており、その腹を鋭利な刃にも見える爪で串刺しにした。


黒い血と思われる・・・到底人間とは思えない血をまき散らしながら蹲る女性と思われる方。


愛理からの指示が飛ぶ

《蓮司。均衡が崩れたわ。男性側を狙って。》

《分かった》


言われた僕は男性側に照準を定める。

そして僕が狙ったのは男性側の胸部だ。


たしかに急所を狙うというのであれば頭部が良いのだろうと思う。

しかし頭部というのは体の中でもとりわけ狙いづらい部分だ。

反面胸は面積が広く頭よりは狙いやすい。

外れても腹などに命中する可能性も残っているので無駄になりにくいのだ。


そして同時に頭は固い部分でもある。

もちろん銃弾に貫かれれば人間は死ぬ。

だが、あの異形の人型は元々の肉体強度が高いようにも見える。

それならば頭部の堅さも僕が人間のイメージで持っているもの以上になっている可能性は十二分に見込むべきであると思う。

反面胸ならばまだ色々マシな方だと思ったわけだ。


僕が装備しているスナイパーライフルには消音機を装備している。

消音機を装備しているとはいえど、完全に音を消すわけでは無いし、映画やドラマのように「プシュ」という小さな音が立つだけでもない。

とはいえ、何もつけなければ遠慮なしの銃声が轟くわけだし、それに比べればまだマシだろう。


そうして胸を狙い定めて撃つ!

1~2秒の間をおいて、男性と思われる方がわずかにのけ反る。

そして胸のあたりに手を当ててその部位を見つめているようだ。

僕からは背中になっていてその表情や、胸のあたりがどうなっているのかは見えないが、

少なくとも背中のあたりからは女性と同じように黒い血と思われるものが噴出している。


そしてそのまま地面に倒れ伏した。

女性の方は腹を串刺しにされてはいるが、即死する部位では無いのだろう。

必死になり大きな火の塊を生み出し、それを男性と思われる者に放った。

凄まじい爆発音の後に辺りは再び静寂に包まれる。


そして僕はライフルを背中に担ぐようにして、ハンドガンを取り出して女性の方に近寄る。

流石に堂々と接近したことだけあってその存在に気づいた女性と思われる方が


「何者だ!?キサマは一体!・・・グッ!?」


あの深い傷だ。

おそらく即死に至らないだけであって致命傷には変わりないだろう。


「僕はレンジといいます。この村には調査で来たのですが、その最中に戦闘が行われたので様子を見に来ました。

戦を見てましたが、あなたが不利と判断したので貴方に助力することにしました」

「私を助けてキサマになんの得がある?」


「僕はただこの惨状の理由が知りたいだけです。

不意打ちとはいえ貴方が苦戦していた男?のように思えるほうを倒すだけの力が僕にはあります。

それならば・・・」

「私に止めを刺すのも簡単にできるというわけか・・・」


「これは打算になりますが、仮にあなたも敵対する者であったとしても、あなたにとっての敵を倒すのに助力した人物です。

この場限りでも見逃してもらえる可能性はあると考えて接触を図ることにしました」

「それを相手に言っては意味がないと思うが・・・」


「真意を隠して説明した結果、意図したものとは別のかたちで伝わるのは本意ではありません」

「なるほどな・・一理あるな。とりあえずは無暗に敵対する者ではないと信じてみるとしよう。本来ならばそのまま話をしてやりたいところだが、生憎と私ももう長くない。聞きたいことがあるなら手短に頼みたい」


なるほど・・・

とりあえず話だけでも受け付けてもらえたのは嬉しいが、

彼女は見るからに長くない。

ならば僕がするべき最初の質問は簡単だ。


「あなたは人間では無いようですが、回復ポーションは効果が得られますか?」

「ポーションがあるのか?」


「ええ、大した性能は無いですが・・」

「お前・・・と言っていいのか分からないが、お前の言う通り私は人間ではない。

それが理由かは分からないが、ポーションの効きも人間に比べればかなり小さい。

しかし全く意味がないというわけでは無い」


なるほど。それならば上級ポーションを渡してみよう。

この人の言葉を信じるならば、それだけですべてが治るということはなさそうだ。

信じるならば・・・であるが・・

まぁ銃はいつでも撃てるようにしているわけだし、もし変な真似をすればどこでもいいから当たりやすい場所を狙って撃てばいいだけの話だ。


そうして僕は上級ポーションを渡した。

「助かる・・・最初に言っておくが、私はこれでも貴族だ。

故に助けようとしてくれた恩は忘れない。

仮にお前が敵であったとしても、この場では絶対に殺したり危害を加えたりといったことはしないと貴族の誇りに賭けて誓おう」


そういって彼女?は上級ポーションを一気に飲み込んだ。

すると腹部の傷がかなり小さくなる。

効きが悪いと言った通りだからだろうか、完全に塞がる様子はなかった。


「助かったよ。これだけ小さくなれば死ぬようなことは無い。

しかしポーションの効きが悪いのにこれだけの治癒能力・・・

初級ポーションとやらではないのではないか?」

「はい。今渡したのは上級ポーションです」


「見ず知らずの・・・それもついさっきまで派手に戦っていた相手に上級ポーションを渡すのか。

どうやら馬鹿か相当のお人好しのようだな」

「では、その馬鹿かお人好しからもう一本上級ポーションを渡しておきます」


「・・・・・・・・・ありがとう」

そう言ってもう一本上級ポーションを飲み干す。


その2本目で傷は完全に塞がったようだ。

「聞きたいことがあれば何でも言ってくれ。

私に答えられることならば何でも答えよう」




とびきりの笑顔と思える表情を向けた彼女?そう言うのであった。

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