3-6
村に着いた僕たちは、まず仮設テントを組み上げた。
言うまでもなくこの村はあくまでも公国軍が臨時の防衛と状況の変化を首都の司令部に伝えるための拠点として使われている。
そこに公爵様にお願いしたとは言えど、基本的に部外者である僕たちが使うようなスペースは存在しない。
もちろんキャンピングカーも便利であるため何台かは出したままになっている。
しかし危険もかなり高いため、キャンピングカーというある意味平和な目的のための物を中心に展開するのは危険と判断してのことだ。
もちろんこの辺の采配は生徒会長として学園のあるゆるイベントを企画・運営してきた明美の采配によるものだ。
また明美によれば、部外者が、むこうからすればある意味観光気分で来た、と取られてもおかしくない状況である。
それゆえ、ピリピリしたところに納得できないものが追加されてイライラもするだろう。
この村に駐留する兵士を労う必要があるとも言われた。
しかし僕はその辺の知識には疎い。
僕がやってきたのはあくまでもこの世界でも売れるであろう品・・・
それも生活必需品がメインとなっている品を卸していただけであった。
貴族の好みはなんとなく理解できる部分もあるが、兵士たちの好みはいまいちわからない状態だ。
そう思っていると、明美はこの事態を予測していたらしく、この件で屋敷から保護区画へと一度向かう前にヒーレニカに兵士たちを労うのにあたって有効な物を問い合わせていたそうだ。
流石は元とはいえ生徒会長だ。
事前のリサーチに抜かりが無い。
そしてヒーレニカによれば、そういう場所は、基本的に食事は不味いし酒は出ないし、衛生環境は最悪の一言らしい。
ということは
・美味い食事を提供する、あるいはおいしい食材を提供する。
・おいしく飲める酒を用意する。
・衛生環境を少しでもいいので整える。
こんなところだろうか・・・
食事の提供は女子生徒たちに任せることになった。
一部の料理に覚えのある男子生徒も参加することにはなったが、本当に一部だ。
今回の遠征に関しては比率としては女子生徒が多い。
男子4に対して女子6と言ったところだ。
これは旧生徒会によって選抜されたメンバーの中でも、銃器類の訓練を初期から行っていた生徒たちがこの遠征の主力メンバーであるのが起因している。
ある意味当たり前となりがちであるが、女子は女子でグループを形成し、男子は男子でグループを形成する傾向が強く、旧生徒会の主要メンバーが女性メンバーである以上、
どうしても選抜メンバーの初期は女子生徒たちが多めになってしまうのが定めとなるわけだ。
そのため一部料理が不得意な女子生徒はそちらに参加していないが、基本的な料理技能を使える女子生徒は多くいたため、そちらに任せることになった。
そして男子生徒たちは重いものの運搬。
つまるところ風呂の設営だ。
といっても今回の風呂の設営は大した労力にはなっていない。
というのも今回は僕がホームセンターで購入したユニットバスの設置を行ったからである。
王国と戦争をしたときの仮拠点はあくまでも本当に仮でしかなかった。
対してこの村は、漁村が壊滅するという事案が起きたからこそ、公国軍の駐屯地のような扱いになっただけであり、そういう事態が解消されれば元のように一般の村として使われることになるだろうと明美が言っていた。
それにある意味、海に近い街ともいえるわけだし、
こういうことが落ち着けば観光スポットとして運用できるようになるかもしれない。
風呂を本格的に設置するのも悪くないとのことだ。
当然だが、現段階においては男性風呂の方が規模が大きい。
というのも駐留している公国軍の軍人たちはほとんどが男性であるからだ。
一部女性軍人もいることにはいるが、全体の数から見たらかなり少ない。
そこに女子生徒が追加されるとはいえ、そもそもの全体数が100人程度の集団だ。
女子生徒が主軸の集団が増えると言っても、たかが知れている。
それゆえ、前回のようにテントにプールのお湯という、とりあえずの風呂のようなものではなく、
テントというその場しのぎは変わらずとも、僕が使っていいと認められた地にシャワールームの空間と浴槽の空間。
そして近くに全自動洗濯乾燥機を設置して・・・・
そこから少し離れた場所にトイレを設置。
いずれもテントを活用しただけの仮設の物であるが、使用するのは生徒に限定したものではなく、公国の駐留軍も使用していいとした。
その影響もあってか、駐留軍の指揮官からは不躾な目で見たことを謝罪されつつ、感謝されるようになった。
そしてその日の夜にある意味爆弾ともいえる物を投下した。
それは日本にいたころの食材を使用した美味しく、温かな食事。
そしてビールだ。
食事に関しては全員に提供。
ビールは申し訳ないが、今日が見張り番の人は控えてもらった。
酔った状態で見張り番などできるわけがないという、僕たちと駐留軍指揮官の共通認識による判断だ。
そして当たり前であるが、酒にありつけないと知った見張り番の兵士たちは恨めしそうに酒をのむ兵士たちを見ていたが・・・
此方に関してはコーヒーに砂糖をたっぷりと入れたものを用意した。
たっぷり入れるのは邪道かと思いもしたが、これから長い夜を見張るわけだ。
コーヒーは欲しくなるだろうが、初めてコーヒーを飲む人にとっては苦いだけの何かということにもなる。
そこに本来は貴族でないと簡単にありつけない砂糖をたっぷり入れた飲み物だと知らされれば溜飲も少しは下がるだろうという考えの元だ。
案の定というべきか、その代替品で溜飲は少し下がった様子であったし、
一部の酒を飲んでいた兵士たちも欲しがる様子があったが、そこはしっかりと区別してもらった。
『あなたが見張り番の時はアレが出ますから・・・』ということで何とか納得してもらえた。
そうして駐屯地に辿り着いた僕たちは明美の采配により、なんとか表面上だけであっても受け入れてもらえたのだった。
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