第3章 悪魔族戦争と日本

第1部 新たな戦いの気配

3-1

公爵様との面会は急遽中断することになった。


アーガスト王国が宣戦布告をして侵攻してきた時とは事の重大さが違っていた。

そちらに関しても確かに重大事項ではあったが、事前に動きを察知していたこともあるが、少なくとも結果的に見れば住人が大勢犠牲になるようなことは無く、被害は最小限で済んでいる。


しかし今回漁村の一つが完全に消滅・・・といって良いのかは分からないが、

その漁村に住んでいる住民は、ほぼ全員が死亡したとのことだ。

『ほぼ』という表現からわかるはずだが、ほんのごく一部の生き残った・・

というか逃げ延びることができた住人によって、このことが伝えられた。


すでに伝えられた街では厳戒態勢に入るとともに、首都に早馬が走らされ、そのまま公爵様に情報が伝えられた。

それとは別に件の漁村に対しても騎馬兵を主力とした調査隊を編成し、偵察に出撃しているとのことであった。



その頃、僕は久しぶりにファスペル辺境伯に会っていた。

ファスペル辺境伯には情報が伝達されるのも時間の問題だろうから、この大きな事件に関しても話させてもらっている。


当然のことであるが、辺境伯も驚いているようだ。


「もしや・・・また侵攻してきたのか?」

「侵攻?ですか・・・?」


話を聞くと、この大陸と海を挟んだ大陸に【神聖レプラコーン帝国】という巨大国家があるそうだ。


神聖レプラコーン帝国。

神聖とは名ばかりで実際には力こそが全ての軍事国家だそうだ。

軍事力を背景に拡大を続けた国家だけあって、その国との戦争に敗北すると悲惨な末路を辿ることになるそうだ。

敗北した国家は奴隷としてひどい扱いを受けると聞いた。


こちらの大陸には大陸の覇者になりたいと考えたアーガスト王国のような国家は存在していても、世界統一などという大それた野心をもつ国家はない。

しかしレプラコーン帝国は違った。

自分たちの大陸を制覇した彼らの目は、世界統一という大きな目標へと向かった。


しかし海を挟んで攻撃するとなるとどうしても船を拠点とせざるを得ない環境の為、敗北を続けた。

その結果帝国は侵略をとりあえずはあきらめたそうだ。


「ですがその歴史が正しいなら帝国が攻め入ってきたという可能性は低いのでは?」

「何故かね・・・?」


「過去の侵攻においても船を使った侵略で大きな被害を出すことはできなかったのでしょう?

なら一夜にして漁村とはいえど、村人のほぼ全員が死亡するような事案になるでしょうか?」

「確かに・・・」


「それに加えて異形の人型によって滅ぼされたのでしょう?

流石に異形の人型と、軍の人間を見間違えるでしょうか?」

「それもそうであるな・・」


それにしても・・・この一件、嫌な予感がする。


以前にも話し合いで出てきた内容ではあるが、僕のスキルはその状況に合わせて必要な進化をしてきた。

この案件が出てくる直前に、銃器ショップというこれまでとは明らかにレベルの違う武力となりうるテナントが解放されたわけだ。


そのタイミングで公国の村一つが一夜にして滅ぶ。

僕は新たな戦いの気配に怯えながら帰路についた。



当然のことではあるが、連日にわたってではあるが、愛理達を呼び出している。

そして公爵様からもたらされた情報を聞いた一同は当然のことながら僕と同じ警戒を露わにした。


「蓮司の・・・武力に関するテナントが解放されたこのタイミングで新しい戦いの気配か・・・

嫌な予感しかしないわね」


愛理が皆の考えを代表して言う。

皆、同じ考えのようで無言で頷いている。


「これは・・・早急に計画を前倒しする必要がありそうね・・」

と明美が言う。

「というと?」


「蓮司君の武器ショップが解放されて、私と涼音、茜はそのことを伝えても問題のない生徒たちの選抜に入っていたのよ。

ゆくゆくは保護区画の生徒たちほぼ全員がこの武力を持てるようにしておきたいという気持ちがあったわ。

でもいきなり全員に、しかも急いでやるのは危険だと判断して、慎重に事を進めていたのだけれど・・・」


確かにそうだ。

確かに敵・・・なのか分からないが、その情報はあまりにも少ない。

しかし、すでに村一つが滅んでしまっている以上、決して友好的な考えで臨んではあまりに危険だろう。


言うまでもないことではあるが、あの保護区画は僕が主導になって作り上げた代物だ。

そのため僕の決定はある意味保護区画にて保護されている生徒全員を巻き込みかねない事案ともなる。


「もう!次から次へと問題が発生していて流石に処理の限界を超えそうだわ・・・

というか超えてる気がするわ。

日本との繋がりとの可能性についても、まだまだ分からないことだらけだというのに・・」

疲れたように愛理が言った。


「日本との繋がりとの可能性・・・とは?」

疑問に感じたヒーレニカが質問する。


「ああ、ごめんなさい。

あなた達には直接関係してなかったから話し合いには呼ばなかったのよ。

蓮司のスキルが、私たちが召喚前にいた日本と何らかの繋がりがある可能性が出てきたのよ。

現時点で帰ることが確定しているわけでは無いのだけれど、その手段だけでも確保しておきたいからね。

だからそれについて調べることになっていたのだけれど・・・

皆の方は何か進展はあった?」


皆、一様に首を横に振る。


「僕の方でも進展は一切なかったよ。

その繋がりに至るための手がかりの一つとして召喚魔法について公爵様にも聞いてみたけど、どうにも邪法として考えられているみたいで詳しいことは一切わからないってさ」



「その邪法をリーチェは使ったのよね?あなたって人は・・・」

と怒り半分呆れ半分といった様子でリーチェを見る愛理。


「う・・・あの時は王国や世界に対する憎しみしかなかったから、後先なんて考えてなかったのだ・・」

と言い訳するリーチェ。


「しかし、私も召喚魔法の起源に対してそこまで詳しいわけでは無いが・・・

それなら神聖レプラコーン帝国に行ってみたらどうだ?」


!?

その国の名前が何で出てくる!?




驚愕の情報に僕は驚いたのであった。

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