幕章-7
僕が感じた違和感は、テレビの画面だ。
正直なところこの世界でテレビを買ってもほとんど意味が無いと考えていた。
理由は簡単で、日本にいたころであればアンテナにつなげばテレビが映り放映が見れるが、
この世界ではそもそもの電波が飛んでいないのだ。
ならばテレビを買ったところで、大きい液晶画面がそこにあるだけでほとんど意味がない。
仮に用途として使うならばビデオカメラやスマホなどで映像を撮り、その映像の出力先としてテレビを使う程度だろう。
しかしそれならばモニターで事足りる。
だからこそ今までテレビが売られていることは気づいていても、ただ置いてあるということを認識していただけで、大して意味のないものとして考えていた。
しかし僕が感じた違和感は置かれているテレビで放映されているアニメだ。
ロボットで戦うアクションアニメの一つで、僕はその作品が好きだった。
しかし、この世界へ転移させられる少し前に第1期が終了し、第2期の製作自体は決まっていても放映はまだ先という話であった。
この世界に来てからというもの、それが見れなくなったのは楽しみの一つが無くなったと少し残念に思う気持ちがあったのも事実だ。
しかし今僕の目の前で放映されているシーンは第1期で流れていないシーンだ。
全く知らないシーンが流れている。
だが、放映されているものは紛れもなく僕が見知ったアニメ作品だ。
ならば今流れている作品は一体何なのか?
そこまで考えて、一つの可能性に思い至り、そしてその可能性の重大さに気づいた。
今放映されている作品は恐らく2期目の作品。
だが、僕は異世界にいる。
ということは、この「異世界のショッピングセンター」は僕がいた日本と何らかの繋がりを持っている可能性があると考えるべきだ。
そこまで考えが至った時に確かめるべきことに気づいた。
僕はこの世界に来て、電器屋が解放されるとスマホをいつでも使える状態を維持し続けてる。
もっともあくまでもカメラとかそういう機能を使えるようにしているだけで、実用性がある物とは言い難いものだった。
この異空間に入っていないときは当たり前だが、電波が繋がるはずもなく、ただの高性能な機械というだけの話だ。
でもこの異空間の中でスマホの画面を改めてしっかりと確認したことは無い。
そして電波のところを確認したところ・・・
電波が立っている。
驚きと帰れるかもしれない可能性の手がかりを見つけたことで喜びも出てきた。
直ぐに家族へ連絡を取ろうとも考えたが、そこで思いとどまった。
連絡してどうする?
あくまでも日本とこの異空間に何らかのつながりがあるというだけの話だ。
この空間に居れば帰れるというわけでは無い。
それに、高校の校舎の生徒が全員転移させられたということは、平たく言えば高校の生徒全員が謎の失踪をとげたともいえる事案だ。
当然だが、1000人近くの生徒が失踪したとなれば、あらゆるメディアが放映しているはずだ。
そんな中その生徒の一人から・・・異世界から連絡があったとなると、必然的に期待と混乱の両方が起こりかねない。
この発見は恐らく僕一人で対処できない事柄で、愛理や里美に相談したほうがいいだろうと思った。
そう思った僕は一度異空間から出て帰ることにした。
翌日、愛理達を再度呼び出した。
今日に関しては愛美も一緒にいる。
反面、この問題・・・というか案件は異世界に転移させられた者達だけが関与している事柄だ。
それゆえヒーレニカとレミリア、リーチェは参加していない。
なお愛美に関しては体調が悪いのなら休んでいてほしいところだが、
病気とは違うと押し切られた。
無理はしないことを条件に話し合いへの参加を認めることにした。
用件は言うまでもなく、日本にいたころのスマホがショッピングセンターの中でのみ電波が立っているのを確認したことだ。
「今までにも蓮司のスキルには驚かされてきたけれど、ここにきて一番驚きの情報ね。
まさかショッピングセンターであれば電波につながりができるとはね・・・」
驚きを隠すように静かに愛理が述べた。
「それで・・・電話とかしてみたの?」
明美が質問をしてくる。
当然の疑問だろう。
「いえ・・・まだです・・」
「なぜ?」
「高等部の校舎のみでの転移とは言え1000人近くが転移させられたんです。
一人二人が行方不明になるのとは事態の大きさが違いすぎています。
1000人もの高校生が行方不明になったのであれば、それ相応に大きな事件として取り上げられたはずです。
その行方不明者の一人から連絡があったとなると・・・」
「なるほどね・・・確かに何も考えずに連絡をとってみるというは早計ということね」
「はい。それに連絡をするということは事情を説明しろという事になると思います。そうなった際に『異世界に召喚された』と説明して一体どれだけの人が信じてくれるでしょうか?」
「・・・・・・」
「戯言を言っていると怒り出すならまだマシだと思います。大半の人間は現実と空想の区別もつかなくなり頭がおかしくなったのか、と思うはずですから。
それを考えると連絡をするにしても、こちらが異世界に召喚されたという事を証明できる何かが必要になると思います。
メールにしても通信アプリを使うにしても何らかの証明となる写真が存在しなければ到底証明は不可能だと思います。」
僕の意見に対して、涼音が修正を出してくる。
「考え自体は良いと思うけど、写真では難しいのではないかしら?
静止画ならCGの作成とかで素人でもできるだろうし・・・
それを言ったらキリがないのかもしれないけれど、まだ動画とかの方がいいんじゃないかしら?」
ん~・・・そうなると証明はかなり難しそうだ。
確かにこの世界には日本にいたころとは違い、魔物が存在し、魔法が存在する。
しかしあの世界の技術を使えば、そういうCGの作成は割と簡単にできる。
素人にはできないかもしれないが、きちんと学べば割と誰にでも簡単なCGくらいは作り上げることもできるはずだ。
最初に質問して以降黙って聞いていた愛理が発言する。
「確かにCGの可能性を指摘する人はたくさんでてくるでしょうね。
でも私たちは私たちにできるやり方で証明するしかないわ。
基本的には魔物や魔法を映像に残せるかという形でできる限りの材料を揃えていく。
記憶が正しければそういうのを解析できる人たちもいたはずよ?
なら逆に一部からは合成映像では無いという声も上がる可能性はあるわ。」
確かにそういう人たちもいたはずだ。
「他にできることと言えば、私たちが召喚されて、以降あの世界とこの世界のつながりが完全に断たれているのならば、蓮司のスキルはもっと別の形になったでしょうし、電波が立つようなこともなかったはずよ。
だとすれば何らかの形で繋がりはあり続けているはず。
ならまずはそこを探るところから始めてみるのはどうかしら?」
「「「「「「「・・・・・」」」」」」」
少しの無言の時間をおいて、全員が頷きあった。
この世界で生きていくための術を身に着け続ける。
それが僕たちの目標であったが、そこに大きな目標が追加された。
《日本に帰る手段を見つける》
帰るかどうかに関してはその時までに決めればいいだろう。
しかし帰る手段があるのと無いのとでは大きく違う。
ならば手段だけでも見つけておく必要がある。
そうして僕たちは新たな目標へ向けて動き出すのであった。
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