幕章 平和とは如何なるものか?
幕話-1
王国との戦争が終結した。
王国の目的はファスペル辺境伯が示唆した通り、召喚した勇者を軍の戦力に用いて他国へ侵略することであった。
それはデミウルゴス公国をはじめとし、この国と友好関係を結ぶ国家の連合調査団の調べによって徐々に明らかになった。
戦闘が終息したとき、アーガス王国は国・軍・民を問わず疲弊していた。
民はあまりにも厳しい納税義務によって。
軍は度重なる敗北と、それに伴う兵の疲弊によって。
国は戦争の為に国庫を残さないレベルで使用してしまったため。
当然アーガスト王国国内における、王族への反発は想像を超える物になった。
当然のように王族を一族郎党皆殺しにしようという動きが活発化した。
しかしそんなアーガスト王国の国民感情を抜きにしてでも、かの国の王族を全員処刑しなくてはいけない事態になった。
まぁ一人例外がいるにはいるのだが・・・
何にせよ、デミウルゴス公国への侵攻はきっかけに過ぎなかったのだ。
過激派に属する王族や貴族、軍上層部を調べていった結果。
手始めに公国への侵攻を始めたというだけの話であった。
そう手始めに・・・。
つまり公国を占領したのちに次々と他国を侵略しこの大陸の覇者になることを夢見ていたのだ。
他の世界から勇者召喚という古の儀式を用いて召喚したという偽善は、
他国侵略のための軍備強化のために有用な能力をもった別世界の人間を誘拐する犯罪国家という事実に代わってしまったのだ。
過激派に属する王族と書いたが、穏健派に属していた王族やその関係者は、僕たちが召喚されるよりも前の段階で暗殺され根絶やしにされていた。
結果的に王族は過激派のみが存在し、それに追従する一部貴族と軍上層部関係者というものになっており、もはや重要ポストをそのままにして国を建て直す
ということが可能な状態を完全に通り過ぎてしまっていた。
そのため連合国、とりわけ主な被害を被ることになった公国主導でアーガスト王国の過激派の長や幹部を全員処刑することになってしまった。
国自体も公国が面倒を見るという形で併合され、アーガスト王国に残っていた貴族たち。
その中で過激派に属していた貴族の当主は先ほど述べたように処刑された。
家はおとりつぶしとなり、家族の方も細かく調べ上げられ、他国侵略の野心を持った者は例え幼子であろうと容赦なく処刑された。
穏健的な思想だった者たちは公国国内の各貴族に、各家公認の従者や後妻という形、養子という形で迎え入れられた。
そして僕の元同級生たちも主に3つのグループに分かれた。
一つは平和に暮らしたいという考えの集団だ。
こちらに関しては僕も公国首脳部にお願いをして日本でいうところの保護観察処分がもらえている。
2つ目と3つ目は異世界に来たことで日本にいたころの人道的な思想を忘れ去ってしまったものや捨て去ってしまった者たちだ。
所謂アーガスト王国の過激派と同調した者たちで捕まったものは強制労働の刑に処されることになった。
毎日ほぼ無休で国の発展のために尽くさなければならず、それに逆らうようであれば良くてその場で殺され、場合によっては死んだ方がマシと思える結末をたどることになるのだそうだ。
言ってしまえば自ら殺人を行うことを是としたのだ。
召喚されなければ彼ら彼女らがそうなることはなかったのかもしれないが、それもタラレバの話だ。
実際にその思想に染まってない者も多数いる為、異世界召喚は言い訳にしかならない。
もう一つのグループはうまく逃げおおせた者達だ。
重川君・・・いや決別の意味も含めてこう言おう。
重川もこの集団に属することになり、こちらは各地に散り散りになって逃亡している。
といっても公国国内はもちろんのこと友好国内は指名手配がされており、敵対国家で駒のように扱われるか、ひっそりと惨めな生活を送る他方法はないと言われている。
まして重川は左腕を失っており、全身に酷い火傷を持った状態だ。
ロクな生き方はできないだろう。
どちらにせよ王国との戦争は終わった。
これからはこの世界でゆっくりと生きていく方法を探し出すしかないのだ。
それに平和に暮らしたいと素直に謝罪した彼らも今はまだ混乱している。
いや、むしろ今が一番混乱している時期とも言える。
理由は簡単で、今まではなんだかんだ言いつつも、戦争を仕掛けてくる王国の対処に追われ、自身の生活を見つめなおす機会などなかなかなかったからだ。
しかしとりあえずの平和が訪れたとき、彼らは自分たちの・・・この世界での生き方を考えるという問題に直面することになった。
そういう事情ができてしまい、迷いの真っただ中にいる彼らとは違い、
先に生活基盤を築き上げることができた僕は、彼らの支援をしたいと考えていた。
というのも言うまでもないことであるが、王国との戦争に大きく貢献したり、スタンピード防衛に貢献したり、その他、僕でしか入手できない商品の取り扱いだったりと、とにかく資産が増え続けている。
言ってしまえばお金はたくさんあるので彼らの支援には困らない。
しかしいつまでも僕の脛にかじりついて生きていたいと考える生徒はごく少数であったし、そういう生徒たちは僕が何かを言うまでもなく、愛美達が喝を入れに行っていた。
具体的には「今すぐ追い出してやろうか・・・?」的な・・
なので基本的に全ての生徒は迷いながらも冒険者として活動を始める準備をしたり、
学校に通いたいと僕にお願いしてきたりと、それぞれが別々の道を歩み始めていた。
そして僕たちもまた、彼らとは違った生活を歩み続けることになった。
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