2-4-9
(実況者視点での文章になります)
【
ガキィィィン!!!
何度目かもわからないほどの打ち合いの後、彼らはようやくどこかの道に着地する。
これで彼ら2人だけになってしまった。
天神は蓮司のことは良い奴だとは思っているが、キレると何をしでかすか分からない以上不安要素は取り除いでおきたいとも感じていた。
「あーあー、面倒なことしてくれやがってよー。あいつらのもとに行くのが遅れちまうじゃねえか」
「一博・・・いろいろ聞きたいことがある」
「なんだ?野郎に興味があんのか?」
挑発を含めて茶化そうとする重川
「真面目な話だ!」
それに対してキレ気味に反応する天神
「そうかよ・・・んで、聞きたいことってのはなんだ?」
「本当に戻るつもりはないのか?」
天神は自身の願望を含めた質問をする。しかし・・
「戻るってどこにだ?日本に戻れるわけじゃねえ・・・あれが王女の嘘だってきづいてるんだろ?それにだお前らの輪に戻って何になるって言うんだ?」
「何って・・・」
この時点でも天神はまだ重川のことを『友』だと判断していた。
「こないだの説明でわかったと思ったんだけどな~?
俺がてめえら二人に近づいたのは、すべては愛美を俺の女にするためだ」
「・・・・本当に、たったそれだけの理由で近づいたのか!?」
ここで怒りを露わにする天神。
そしてそれをあざ笑うかのように重川が答える。
「当たりめぇだろうがよ?陰険男に優男と友達になって何のメリットがある?
あの女を俺の物にするためだけだっての。
だけど、小学生で何の脈絡もなしに近づいたら、警戒心持たれるだろう?
幼稚園とは違うんだぜ?
なら警戒心を持たれないようにするためには、愛美の友達だったてめえら2人に近づくのが手っ取り早いからよ~
てめえはまだよかったぜ?だけどあんな陰険野郎のために俺が下手にでるのは我慢できなかったが・・・
この世界に来て思わず思っちまったな・・・
これであの女を俺の物にできる!ってなぁ!!!」
「そうか・・・それがお前の想いか・・?」
「だからそうだって言ってんだろうがよ!この
叫びながら切りかかる重川。
確かに剣聖のスキルは強大だ。使い方次第では勇者にも劣らないだろう。
しかし、重川と天神の間には決定的な違いがあった。
重川は自己中心的な考え方の持ち主で、自分が失敗しても他者が悪いと思うような存在だ。
しかし天神は違った。己の力不足を恥じた彼は、暇があれば魔物討伐を行い自分のステータスを上げ続け、時には公国の戦士と修行を行い技術を磨き上げた。
結果、今の天神にとってみれば重川は天敵と言える状態ではなかった。
保護区画で出会ったときは覚悟が決まっていなかったゆえに、大した戦いもできなかった天神だが、
先の戦闘を経て現実を見つめなおすようになった天神は楽に押せるような存在ではなくなっていた。
「ぐっ!てめえ、今までどこにこんな力を隠してやがった!?」
「あの時の俺は、お前を『友』として認識していたから何もできなかっただけだ。
今は『かつて友だった他人』としてしか見ていない!」
「てめぇ・・・殺してやるよ!!」
重川は自己中心的なだけでなく人一倍プライドの高い人物でもあった。
それゆえに天神よりも低い位置にいるのは耐えられない感情を持ち合わせていた。
今までは自分が天神を出し抜けていただけに、策でも実力でも劣っているとなると重川としては許せる要素は一切なかった。
「やれるものならやってみろ!!」
重川が一撃を出すたびに、天神のカウンターが確実に重川を少しずつ傷を作っていく。
重川が王城で悠々と暮らし、適度に魔物狩りをしてステータスを上げていたのに対して、
公国に協力する形で魔物狩りに積極的に参加し、そのうえで修練に励んでいた天神とは戦い方に雲泥の違いが生じていた。
重川が力任せの一撃で天神を一刀両断しようとするスタイルならば、
天神はそれらを躱し、受け流し、そして少しずつダメージを与えていくスタイル。
強い攻撃はそれが当たった時に敵に対するダメージが多いい反面、溜めが大きい分隙を作りやすい上に体力の消耗も激しい。
対して回避も込みで、より最小の動きでいなし、敵に対するダメージが少ない反面、小さな動きで隙が少なく、体力を温存できる戦い方。
もしも重川に圧倒的なスピードがあればどうにかできたのかもしれない。
しかしスピードでも技でも天神の方が上では重川に打つ手はなかった。
「クソが・・・ふざけてんじゃねえぞ・・・・」
重川は今までで一番低い声で、しかしはっきりと呟いた。
その瞬間重川の体から禍々しいと言わざるを得ない黒い魔力が放出され始めた。
そして目は赤く染まっている・・・
「おまえ・・・それは・・・・!?」
「クククク・・・ハハハハハハ!!!どウヤら、おれのチカラもかわっタヨうだゼ?アマガミィー!!!」
重川の言葉が普通ではなくなっていた。
そして突撃してくる重川。
速い!!!
咄嗟に剣の柄を右手で持ち、剣先の峰を左手で持ち防御の形をとる。
ガギィィィィン!!!!ドゴンッ!!!
「あがっ!!!」
スピードだけではない。圧倒的な力に身を任せた暴力は天神を弾き飛ばし住宅の壁に勢いよく激突させた。
瓦礫が舞い砂埃が舞い上がる。
「フフフフ・・・ハハハハハハ!!どうダ?あまがミ?こレがオレノチカラダ」
最早剣聖の名に相応しい姿では無かった。
その時、天神の頭の中でポーン!と明るい音が鳴り、その後ステータスが強制表示された。
『レンジ・ニシカドよりスキルの共有化申請がありました』
『共有化申請、鑑定が届いています。受託しますか?』
―――なるほど、これだけの騒ぎになったなら蓮司にもこの戦闘が俺と重川によるものだと理解しているのだな。そして俺に相手の情報を見せようってわけか・・・
もしかすると、これが本物の友人ってやつなのかもな―――
そして天神はその申請を受諾しながら手早くアイテムボックスを開き、上級ポーションを飲み干す。
たちまち体中の痛みが完全になくなる。
そして鑑定を用いて探ったところ天神は、自分の中に残っていた最後の感情を捨て去ることにした。
【重川 一博】
種族:半魔人
スキル:剣聖
種族の半魔人にも鑑定を当ててみる。
【魔人】
邪悪な心に染まりきった人間が得られる邪悪な力。悪の象徴。
各種ステータスが2倍となるが、理性を完全に失い殺人鬼となる。
半魔人であれば聖なる力を受けることによって人間に戻ることができるが、
完全に魔人となった場合は戻れない。
続いて説明文にも鑑定を当ててみる。
【聖なる力】
この世界の聖なる力。勇者・聖女・剣聖のみがその力を纏うことができる。
―――なるほどな。おあつらえ向きに俺なら重川を人間に戻してやれると・・・だが、人間に戻したところで俺たちはもう完全には元に戻れないだろうけどな―――
天神は既に重川を完全に敵として認めていた。
それゆえ、自分では拾えないものとして判断していた。
それにしても、剣聖である重川が邪悪に染まってしまうとは、なんとも皮肉なことであるだろうか。
「重川。お前はもう人間じゃない。いや厳密に言えば人間に戻れるんだろう。
だが心がもう人間じゃない。お前は・・・あの魔物たちと一緒だ。
本能で人に害悪を与えるだけの存在。
俺はお前の存在を許すことができない!」
「ホザケーーーー!!!!」
叫びながら突っ込んでくる重川。
「オーバーリミット!!!」
オーバーリミット。勇者だけが扱うことのできる力だ。
一時的に戦闘能力を5倍に引き上げることができる、まさに勇者のスキル。
反面そのスキルの効果時間に達した時、天神は激痛に苛まれる。
あくまでも筋力など各種ステータスをドーピングで底上げしているだけだ。
基本的なスペックそのものが変化しているわけでは無いからだ。
車で言えば乗用車とレースカーだ。
日本における乗用車は基本的にリミッターが掛けられており一定速度以上のスピードは出せないように設計されている。
そのため市販されている多くの乗用車のスペックも高速道路の120km/hを走ることを前提にした設計となっている。
対してレースカーはサーキットなどで200~300km/hを出すことを想定した設計となっている。
どちらも負荷のかかり方は同じではあるが、耐久性が違う。
例えば300km/hの負荷がかかるとして考えて、
300km/hの負荷を想定した車と、100km/hまでの負荷を想定した車。
どちらの方が先に壊れるかと聞かれれば、予想できるのは後者だ。
激しいつばぜり合いが起き、そして吹き飛ばされたのは重川の方であった。
「ガアアァァァ!!!!」
そして痛みに蹲る重川に、天神は追撃を仕掛ける。
しかしここで天神に迷いが生じてしまった。
友であったという事などは頭から吹き飛んでいたが、目の前で死に近づく人間。
ましてそれに近づけているのが自分であるということに恐怖した天神は剣をまっすぐに振り下ろすことができなかった。
ブン!!!・・・ボトッ!!!
結果天神にできたのは重川の左腕を切り落とすことまでだった。
しかし聖なる力を受けた重川はなりかけでしかなかった魔人化が解かれてしまった。
邪悪な力の快楽が解け、そして圧倒的な痛みに支配された面川は泣き叫んだ。
「ぎゃああああ!!いてぇ!!いてぇよぉおお!!!!」
止めを刺そうと考えていた天神は、その姿に戸惑ってしまう。しかし、
「うぐっ・・・・あああああああ!!!」
叫びながら重川が残った右手で剣を地面に叩きつける!
その力は魔人化が解かれたとはいえ、流石は剣聖。
圧倒的な破壊力であった。
砂埃に塗れながら石礫を避けるために咄嗟に後ろに飛んで回避する天神。
砂埃が晴れて天神が見たのは、血だまりと、道に点々とのこる血痕。
そして重川の姿は見当たらなかった。
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