2-4-10

【蓮司達 VS ベアトリーチェ】


「ファイアボール!」

先ほどは一切魔法名を唱えずに大きな火球を放ってきたベアトリーチェは、今度は魔法名を詠唱した。

すると直径1mはありそうな大きな火球が僕に向かってきており、愛美と愛理にも僕ほどではないにしても直径30㎝くらいの小さな火球が迫ってくる。


あんなのを小さな盾で受けきれるわけがない!

僕は再度地面を転がるようにして回避する。


愛美は魔法で防御しており、愛理は盾で受けきれるサイズだと判断したのか受け止めている。


「ずいぶんと僕を買ってくれているんだね!?」

「当たり前でしょう?聖女の力は確かに大きいですが、それだけであれば我が王国軍はとっくに公国軍を破っていたでしょうからね?

ならば聖女や勇者以外の何かが働いていると考えるのが普通です。

ですがほとんどの者はよくあるスキルでしたからね・・・

だとすると得体のしれない存在は貴方だけです。

ならばその貴方を倒せばこの戦闘における勝利は揺るがない!!!」


「最初の評価とは違う評価を下すんだね?」

「貴方にスキルが無いのならば最初から聖女を狙っていましたよ。

でもあなたはスキルが無いのではなく、判別ができなかっただけ。

ならばあなたの異能ともいうべき何かが我々の勝利を妨げているのでしょう!?」


言いながら今度は風の魔法を放ってくる。

今度は魔法の名称は唱えていない。

しかしあれは恐らく風の刃だ!

ならば生身で受ければただでは済まない。

とはいえ威力が控えめなのかサイズが小さい!

ならば盾で受け止められる!


少し押し出されるような感じで後ろにずれたが受け止めきれたようだ。


「なぜ公国に攻め入った!?」

「なぜか?ですって?そんなの理由は無いわ。ただ滅べばいい・・・」


「「「なっ!?」」」


「ああ、あなた方はわたくしが公国を我が物にしたくて戦争をしたと思っているのですね?」

「違うのか!?」


「違いますね・・・ただ・・私はこの世界が許せない!!!ファイアボール!!!」

今度は一点集中のようだ。


愛美が指示を出す。

「愛理!レン君のところに急いで!」

指示を出しながら愛理も僕のところへ向かってくる。そして、

「プロテクション!!!」


愛美の出した見えない壁に当たった火球はそのまま無理やり破ろうとする。

「う・・・!ぐぅ・・!ああああああ!!!!」

叫びながら愛美は魔力を一気に込めたようだ。

受け止めることをやめて、受け流すことにした火球は遠くに飛んでいき、着弾した住宅街を一瞬で火の海にした!!


なんて威力だ!!あんなものをまともに喰らえば大きな盾があっても無理だ!

思わず僕は呟いてしまった。

「狂っている・・・」


しかしその呟きがベアトリーチェは気に入らなかったようだ。

「狂っているのはこの世界です!

私はただ、平穏が欲しかった!なのにこの世界はそれを良しとしなかった!

私から愛する物を・・・愛する人を次々と奪っていくこの世界の方が狂っている!

こんな世界が存在する意味などない!!

こんな世界!滅んでしまえばいい!!!」


「何を・・・何を言ってるんだ!?あんたは!?あんたに何があったっていうんだ!?」


「知りたいか?わたしの過去を・・・・・・・?」


そして話されるベアトリーチェの過去・・


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私には兄がいた。

言うまでもなく王位継承権を持つ第一王子だ。

私は第一王女ではあったが、長男では無かった。

王族に生まれた以上、有力貴族に嫁ぐのは最早王族の義務だ。

そこで子を成し、王国の未来を盤石の物にする必要がある。


ただ小さなころはそんなしがらみに縛られることもなく、兄とも笑って過ごした。

しかしそれを私の両親は快く思っていなかった。

王国にも公国同様に公爵家がある。

その公爵家の一つは王家と深い血縁関係がある家だ。


私達の両親は、私たちが気に入らなかった。

ただ『平和を愛していたから・・・』

ここ数百年の間、周辺各国は平和な様子を醸し出しており、戦争など起こりえなかった。

しかし我が王国はそれ以前は侵略を行い国をひたすらに大きく、強くしてきた国でもあった。


世界が平和路線へと走り始める中で、孤立しないようにするために周りに歩調を合わせつつも、いつかは王国のやり方を取り戻そうと王家は考えていた。

だから『私たちが気に入らなかったのだ』


「ベアトリーチェ・・・わかったね?」

「兄さま・・・嫌です、私は、兄さ―――「ベアトリーチェ!」まと・・・」

「無理なんだ・・・それは。何をどうやっても叶わないんだ。

このままでは僕はもちろん君も殺されてしまう。

そして僕らの後釜に公爵家から養子を迎え入れることになるんだ。

だから彼らに対する恭順の意を示すためにも、僕を殺し、僕を貶すんだ。いいね?」


本当は首を横に振りながら『嫌です!』と叫びたかった。

でも兄は優しいだけでなく聡明だった。

ゆえに私が駄々をこねたところで、私が望む未来が来るなんてことはありえないことも、頭で理解することはできなくても、なんとなく両親の・・・国王と王妃の姿を見ていればわかってしまった。


涙が溢れ止まらない・・・


私は・・・許さない!

私と兄さまの世界を壊す全ての者たちを!

私達の絆を壊そうとする者たちを良しとしようとするこの世界を!!

こんな世界は滅んでしまえばいい!!!


そうして私はその時から仮面をかぶり続けた。

冷酷にして無慈悲な王女の仮面を。

その時から第一王子を日和見主義者だと批判し貶し続けた。

そして私の指示によるものだとバレないようにしながら暗殺者を雇い、兄さまを殺した。


復讐を果たすまで、もう泣かない。

そう決めた私だったが兄さまが死んだその日・・・いや、兄さまを殺したその日は誰にも見られていない場所で声を殺しながら泣いてしまった。

目的を果たすまで、今度こそ泣くまい・・

そう心に誓いながら・・


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「そうして私は兄を殺し、兄を殺したこの国を・・・あるいはこの世界を壊そうと考えたのだ」


全てを聞き終えた僕は何も言えなかった。

「そんな・・・」

てっきりこの王女は自分のあまりにも我儘な都合で僕たちを呼出し、そして世界に対して戦争を始めたのだと思った。


でも・・・

これじゃあ、この王女だって被害者じゃないか!!

こんな・・・誰も救われない結果なんか受け入れられるか!!!

「そんなの認めない!!そんな結果・・・そんな世界を僕は認めない!!!」


「お前の感情など聞いていない!それならばこの結果は一体なんだ!?」


「それでも僕は・・・・・諦めたくない!!!」


そう言いながら僕はアイテムボックスを2か所開いた

一つは単に取り出すための扉として小麦を大量に入れた袋を・・・


もう一つは・・・扉だ。

自分の目の届かない範囲まで届かせることができるわけでは無い。

しかし自分の目の届く範囲ならばアイテムボックスのを設定できる。


僕はベアトリーチェの頭上にアイテムボックスの出口を設定して、入り口から大量の小麦が入った袋をぶちまけた。

続いてオイルライターに火をつけて同じように放り込む!



ドガァァァァァァン!!!!



凄まじいほどの爆発が起きた。


そして僕は勇者や聖女をとらえるときと同じように、脱力ポーションを投げつけた。



「・・・・グ・・・ソ・・」





あとに残ったのは無残に破壊された道と、弱り切った状態で横たわる王女だけであった。

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