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王都にはいってみるが、人気が全くもってない。

それに戦争で戦いが起きたのであれば人の死体が転がっていてもおかしくないし、火の手が上がっているはずだがそのような気配も全く感じられない。

まるでゴーストタウンという言葉のように思えた。


斥候によると、先日砦に攻め入った戦力が、王国内において戦争賛成派が国外に動かせる最後の戦力だったようだ。

この先に居るのはあくまでも国外に動かさない戦力であるとのことだが、それでも王城に立てこもる形で、積極的な戦闘は行わない様子とのことだ。


また戦争否定派の戦力もあることはあるらしいが、当然のことながら戦争賛成派の尻拭いの為に戦力を動かすようなことは無く、自分が所属する領地を守るに留まっているとのことだ。


僕は愛美達の最後の説得を試みることにする。

「ねえ、やっぱり愛美と愛理も―――「「嫌よ」」―――さが・・・」

「なんで?」


「蓮司・・・あなたは気づいてないのでしょうけど、私はもうあなた無しでは生きていくことを考えられないの。

愛美が死にかけたあの時も、結果的に何もできない自分をどれだけ呪ったことか。

それにあれは蓮司に向けられた攻撃よ。蓮司があれで死んでいたら・・・

そう考えたらあの日は眠れなかったわ」


「レン君、私は一度どころか二度もレン君と離れた。

二度目に離されたときに、私は今まで離れていた自分を責めないなんて選択肢はなかったよ。

一度目はつかず離れずだったかもしれない。でも二度目は完全に離されて絶望した。

こんな世界で生きる意味なんて無いって。

でも隷属化の首輪で死ぬこともできなかった。

今となってはその存在にも感謝してるけどね?」


「「私は・・・」」


「蓮司が死んだら私も死ぬから」

「レン君が死んだら私も死ぬつもりだから」


同じ言葉、しかしあまりにも重い言葉を放った二人は睨みあっている。

しかしどちらが先かわからないタイミングでため息を吐くと愛美が言ってくる。


「この女と同じ思いなのは凄く不本意ではあるけれど、家族がこの世界にいるわけでもない。あの王女のいう事が嘘であった以上、元の世界に帰れる見込みもない。その状態でレン君を失って、私がこの世界でこれ以上生きる意味なんて無いもの」


「意見が同じなのがすごく腹立たしいけど同じ気持ちよ、蓮司。

私の家は両親ともに仕事最優先の家でね。確かに養ってもらったことには感謝してるわ。けれど私が欲しかったのは裕福な生活ではなく、少し貧しくてもいいから愛情にあふれた生活よ。そしてその甘い生活を一度でも手にしてしまったのであれば、それを手放すなんて考えられないわ。貴方がいなくなれば、それはなくなる。

なら再びあんな孤独に戻ると分かってるなら、生きる意味が無いわ」



僕は元々孤独に近かった。それについ最近になるまでは、それは僕にとっては当たり前そのものだった。だからそれほど気にしないのだろう。

でも彼女たちはずっと前から隣に自分が愛する誰かがいることを知ってしまっている。

そしてそれを失う恐ろしさも。

僕たちは一心同体だったんだな・・・



若干居心地悪そうにしていた勇也君も、今となっては少しニヤニヤしながらが待っている。


「わかったよ。みんなで行こう」



そうして歩き始めようとしたときに声が聞こえた。


「よぉー、西門・・・両手に花でいいご身分じゃねぇか?なぁ?」


そこにいたのは重川と諸悪の根源であるベアトリーチェ王女だった。


「重川、いい加減にあき―――「一博!」―――らめ・・ろ」

途中で勇也君が横やりを入れてきた


「なんだ優男?なんか用事があんのか?手短にしてほしいんだけどな~

俺はその野郎をぶち殺さねえといけねえんだからよぉ!!!」


「蓮司・・・約束は守ってもらうぞ?チャンスを一度くれるって話だ。

それがだめなら俺が責任を取る」

「わかったよ。でも気を付けてね」

「ああ、わかってる。また後でな・・・」


言うなり剣を抜いて斬撃を重川に向けて放っている。

どちらかというと殺傷能力を目的にしたものではなく相手を後ろに吹き飛ばす目的の物・・・

つまり保護区画で重川が僕たちに最初に放った一撃と同類のもののようだ。


相対していた重川も、当たり前だが戦う気満々だったようで、すぐに剣を抜き放って応戦しはじめるが、今のところ勇也君の方が優勢のようだ。

かなり力押しし始めていて重川と勇也君は、戦いながらどこかに行ってしまった。


そして残る僕たちとベアトリーチェ。

しかし王女たる者は僕たちの予想を超えていた。


一見すると護身用の武器しか持ち歩いていないように見えたベアトリーチェは、ファイアボールを放ってきた!


大きい!ただの初心者が放つにしては攻撃力がありすぎる!

だとすればこの王女も何かしらの戦闘訓練を積んでいると見るべきだろう。


そう考えながら僕たちは少し散るように回避行動をとる。


「あんた、魔法を使えたのね!?」

驚きながら愛理が叫ぶ。


「当たり前でしょう?もし襲われたときに何もせずに殺されるほど私は愚かではありませんよ?」



そうして睨みあいながら僕たちの最後の戦いは始まった。

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