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王国軍の侵攻に対して、公国軍は既に防衛陣地の構築や砦の建設を終わらせていた。

小康状態に入ったとはいえ、終戦宣言自体が成されたわけではないし、むしろ小康状態とはいえ戦争は継続していたからだ。


もしこれで、侵攻を一定期間取りやめて、相手が油断しているうちに攻撃軟化されたらたまったものじゃない。

しかし公国も馬鹿ではないようだ。


砦の最前線は公国軍兵士によって固められており、生徒たちは基本的にその後方に控えてる。

理由はあくまでもこの戦争は王国対公国の形だからだ。

とはいえ王国軍に異世界人の集団がいることも把握されているため、公国軍側も対処に積極的な意思を見せている異世界人を後方に控えさせている。


王国軍がこれまで通りに従来の自国戦力のみで戦う場合は、公国軍も従来の自国戦力のみで戦い、

王国軍が異世界人の力を使うようであれば、公国軍も異世界人の力を使うという形になる。


そしてこの戦争は後者の形になった。

公国軍の砦の前に集結した王国軍の後方には異世界人の舞台と思しき、黒髪の人が確認されているそうだ。

さすがに距離がありすぎて瞳の色までは確認できなかったそうだが。



そうしてにらみ合いが続いていたが、王国軍が遂に戦いの火蓋を切った。



といっても王国の作戦は今まで通りにシンプルなものだった。

愚直に突撃をするだけ。

一応後方に扉を破るための攻城兵器のようなものが待機しているのが確認できる。

もちろんそれも少し前線へと上がっているようだ。


公国軍は基本的に砦の内部に臨戦態勢で待機しているだけ。

王国軍が砦に取りつくのを待つ。

それまでは矢やら場合によっては槍が飛んできたりしているが、これは盾で防ぐだけ。

本当に待っているだけだ。


その頃僕らというと・・・・


『ブシャーーーーーー!!!』


放水銃を用いて液体を撒いているだけ。

ただし中身は火気厳禁のスピリタスだ。


少量であればすぐに気化してしまうスピリタスだが、量が多くなれば気化迄の時間稼ぎはできるようになる。

そうしてお酒を大量にばらまいている。

既に純度の高いアルコールを目やらなにやらから摂取してしまった兵士たちはもがき苦しんでいるようだが・・・


その後はファイアボールを投げ入れるだけ。

そして地獄絵図が再び降臨した。


「ぎゃあああああ!」

「熱い!!」

「誰か―!助けてくれー!」


自分でやったことながら、罪悪感に塗れる。

無理もないだろう。

重川の時は過剰かもしれないが一応緊急時のやり方としての選択だ。


しかし今回は予め、たくさんの人を焼き殺すつもりでとった作戦だ。

王国軍兵士がどのような形で戦争をしているのか知っているのか否かはわからないが、

もしあの王女に言葉巧みに騙されて利用されているだけなのだとしたら・・・

そう考えると心が痛む・・・


「蓮司・・・・」

心配になったのか愛理が話しかけてくる。


そうだ・・・

僕にはそれ以上に守るべきものがある。

所詮、僕は一人の人間でしかない。

僕は全員を助けられるわけじゃ無いし、守れるわけじゃ無い。

なら、自分が守るべきは愛すべき彼女たちだ。


僕たちのやった結果に対して、驚きと恐怖に染まる公国軍兵士たち。

無理もない。

彼らと王国軍兵士はどのような命令のもとに戦っているのかは違ったとしても、それでも同じ戦場に身を置く者同士だ。


それなら

『もしあれが自分だったら・・・』

そう思わざるを得なかったのだろう。


しかし戦いはこれからだ。

王国軍兵士たちのいた場所の後ろには、あっと言う間に自軍戦力が減らされたことによって浮足立っている元同級生たちがいる。


ここからは異世界人同士での殺し合いだ。

といっても僕たちのやることは基本無力化して捕縛するのが目的だ。

殺傷はあくまでも最終手段。


砦の内側にて待機していた生徒たちが乗る車が一斉に出撃する。

彼らには睡眠ポーションや脱力ポーションを大量に持たせている。

本来であればポーションで使用する瓶は多少の衝撃であれば破損しない程度の耐久性を持っているが、

今回に至っては、あえて薄めの瓶で耐久力を減らしてある。


そうすることで地面にたたきつけるだけで瓶が割れて一気に利かしたポーション類が彼らを襲うというわけだ。


僕たちが出した、自動車というものがこの世界にあると思っていなかった彼らは浮足立ち同時に慌てふためいていた。


当然だ。

確かにポーションを使ったやり方は非殺傷を目的としている物だが、

日本に居たころを思い出してみても、ほぼ毎日のように交通事故で人が亡くなっている。

ましてラン〇ルはかなりの重量物だ。


ここは日本では無いし、今は戦場だ。

周りにいる人たち・・・それも敵を気遣うような真似をすることはしない。

ただでさえスピードの出た状態の自動車に撥ねられれば、それだけで命を落とす可能性は高い。


彼らはあくまでも残虐性が高いがゆえに王女の戦力として数えられただけの存在。

重川のように一騎当千の戦闘能力を持った存在もいることはいるが、基本的には僕たちが今まで保護してきた生徒たちとそれほど変わらない生徒たちが主力となっている。


慌てふためく彼らの間を縦横無尽に走り抜ける車。

そしてポーション瓶が投げつけられ、瞬く間に力が入らなくなったり、眠ってしまう者たちが続出する。


逃げようにも出そうと思えば100km/hは平気で出せる車だ。

大して一般的な人であれば全力疾走したところ30~40km/hが限界だろう。

当然追い付かれてポーション瓶を投げつけられて無力化されていく。


そうして一方的な蹂躙劇が始まって2時間しないうちに、彼らは捕縛されたのであった。

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