2-3-β
SIDE:勇也
俺たちが蓮司に保護されて大分たった。
保護されるときにかなり手荒なやり方をとられたけど、そこは仕方がない。
俺たちは殺戮を命じられており、俺たちの意思とは関係なく刃を振るってしまう。
捕まった時も驚いたが、それ以上に驚いたのはこの保護の手筈を整えたのが蓮司であるということだ。
蓮司は確かにいい友人だったが、これといって取り柄があるやつでもなかった。
恐らくだが何らかのスキルを手に入れたのだろう。
あの王女も馬鹿なことをしたもんだ。
蓮司を我が物にしていれば、王国はやりたい放題だったろうに
そうして俺たちは蓮司に保護された。
保護された者たちとは別の場所で・・・蓮司の家に住むことになったが、俺は辞退しようと考えた。
蓮司達と一緒に居られるのは正直言えば嬉しい。
だが、蓮司と一時離された九条は、日本に居たころのように蓮司に対する感情を隠さなくなっていた。
それに加えて蓮司のそばには、さらに4人の女子生徒の姿がある。
たぶんハーレムってやつなんだろうな。
それ自体はまぁ異世界なわけだし、仕方がないが。
夜中にあの女子生徒たちや九条の喘ぎ声を聞くのは堪ったものじゃない。
そう考えて俺は保護区画に住もうと考えていたようだが、蓮司は功績によって首都に屋敷をもらったそうだ。
かなり広いらしく、俺が別の部屋でも困らないそうなので、そちらに住むことにした。
蓮司の住む部屋から一番離れた部屋に住むことを条件にして、だ・・・
蓮司は公国の関係各所と商売のやり取りや王国軍への対処をする毎日を送っていた。
九条を含めた先輩たちは保護区画に日本に居たころの食材などを届ける役割を負っていた。
そして俺は蓮司と共有化されたアイテムボックスに九条達が作ってくれた食事を沢山詰め込んで、さらにラン〇ルを蓮司から預かり、魔物討伐の遠征に出ていた。
俺としては預かっただけのつもりだが、蓮司はくれるつもりらしい。
表面上はもらったことにして、いつか何かを返したいな・・・
返せるだろうか・・・・・・・
しかしそんな生活を送っていた俺たちに急報が入った。
どうやら俺たちの最後の幼馴染である重川が保護されたとのことだった。
俺はすぐに保護区画に向けて全速力で車を走らせた。
蓮司達も向かうだろう。
保護区画に着いたのは夕方になってしまった。
いや、夕方に辿り着いてしまう蓮司の車が凄いというべきなんだろう。
一方で蓮司達は夜になるかならないかで到着した。
遅い・・・何をしてるんだ、蓮司は。
大切な友人がようやく保護されたというのに・・
俺は苛立ちを隠しながら重川と再会した。
九条も喜んでいる。
蓮司は・・・何か戸惑っているようだ。
確かに蓮司は重川に対して苦手意識を抱いているようだった。
だがそれでもかけがえのない友人なんだ。
こんな時くらい喜んだら良いだろうに。
あとでちょっと注意してやろう。
そんなことを思いながら会話し始めた。
しかし蓮司が追放された理由が無能の烙印を押されたからだと重川が発した時に、信じられないことが起きた。
蓮司達は喜びに浸っていた俺と九条を突き飛ばし、こともあろうか重川に剣を向けた。
訳が分からない俺と九条は当然抗議する。
「蓮司!?なぜ一博に剣を向ける!?」
「レン君!?一体どうしたの!?」
しかし蓮司から語られた言葉は一瞬意味の分からないものだった。
どうにも蓮司が無能の烙印を押されて追放されたという本当の理由を知る者は極僅かで、ほとんどの者は王女を殺そうとして追放されたということになっていたらしい。
そしてそれはこの区画においてすら機密事項として扱われていると。
重川がどこでそれを知ったのか問いただしている。
そして蓮司は俺たちにもわかる疑問を投げかけた。
なぜ保護されてから2~3日の重川に首輪の痣が無いのかと・・・
確かにそうだ。
あまりに長期間首輪を着けられていた俺と九条ですら痣が消えるのに2週間近くかかった。
まさか?と思いつつも信じたくない俺は茫然と重川を見ていた。
するといきなり剣を抜き俺たちを攻撃してくる重川。
追撃を駆けようとしてくるのを見て、とっさに蓮司が持っていた剣を拾い防御する。
思わず重川を問いただした俺だが、重川の返事は俺が思っていたのとは違った。
【てめえ】とか【馬鹿】など、汚い言葉を平然と友人であるはずの俺たちに放ってくる。
そうこうしているうちに蓮司が手を出し始める。
あれは?水か?
そして小麦粉・・・そうか粉塵爆破で動けないようにするのが目的なんだな!
そしてガスバーナーを投げ入れて爆発が起きる。
しかし重川は、火だるまになっていた。
なぜ!?
蓮司は重川を殺すつもりなのか!?
そうして茫然としていると重川が刃を放ってくる。
マズイ!あれは蓮司への直撃コースだ!
あれが当たれば蓮司は死ぬ!
動かないとと思っていても体は動いてくれなかった。その時、
「レン君!!!!!!!」
九条が蓮司を突き飛ばした。
しかしそのあとの光景は俺が見たくなかった物だった。
蓮司を庇った九条が足を切り飛ばされ、ズタズタに切り裂かれて、血まみれになりながら横たわっている。
蓮司はすぐに我に返り上級ポーションを飲ませていた。
その間に重川は壁を破り逃げたようだ。
九条はなんとか助かった。
でも足を失った・・・
俺が・・・俺がもっと守れていれば・・・
しかし蓮司はすぐにどこかに行こうとしていた。
どうにも九条の足をどうにかする方法があるようだ。
嘘だろ?だって聖女である九条自身にもどうにもできないんだぞ?
それを蓮司がどうにかできるっていうのか?
そうして蓮司は重川を指名手配にする手筈と、九条を看病する手筈を整えるように指示を出してどこかに行った。
戻ってきた蓮司は金色のポーションを手にしていた。
あれは?・・・なんだ?
蓮司は九条にポーションを飲むように言い、言われた九条はすぐに疑わずに飲んだ。
すると眩い光が部屋を覆いつくした後、五体満足の九条がそこに居た。
誰も驚きを隠せなかった。
どうやらエリクサーという物らしく、部位欠損すら治してしまう霊薬だそうだ。
加えてエリクサーの材料は蓮司のスキルで用意ができて、
エリクサー自体も蓮司の知り合いが作れるようだ。
蓮司・・・お前は・・、それに比べて俺は・・・・
少しして蓮司は俺に問いかけた
要約すると何故重川を敵として見ようとせず、そして九条を守ろうとしなかったのかと。
重川は敵じゃない!この世界に理不尽にも呼ばれた被害者で、俺たちの幼馴染だ!
そう俺は返した。
だが、蓮司の答えは
ならばなぜその友人が俺たちを殺そうとするのかという事実を突きつけてきた。
俺はその事実に目を向けたくなかった。
だから逃げた。
蓮司は俺が望む未来を理解はしてくれた。
あくまでも理解は・・・だ。納得してくれはしなかった。
そして望む未来とは別に、俺が何が何でも守りたいものは何かと問いかけてきた。
俺は本当は友人たちを欠かすことなく、笑いあっていたい。
でもその未来はあくまでも俺の理想であり、おそらく敵わない。
ならば俺が本当に、自分の全てをかけてでも守りたいものとは一体・・・?
俺は即答できずに項垂れることしかできなかった。
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