2-3-α

SIDE:重川

俺は王女との取引の後、すぐにそれっぽい恰好をして公国へと向かった。

しかし闇雲に動けばまず間違いなく、破れるだろう。

単純に戦力を注ぎまくって敗北した前例を作った人間がいるのだから。


まずは情報収集だ。

その結果いろいろなことが分かった。

どうにも無能の烙印を押されて即王国から追放された蓮司が生きているようだ。

その蓮司はこの世界では考えられない異能のスキルを使って成功しており、公国にうまく取り入ることができたようだ。


なお公国に攻め入った連中の足取りもある程度つかめた。

どうにも蓮司が手をまわしていたらしく、保護施設みたいなものを作り上げ、隷属化状態を解除していたらしい。

さらに公国は周辺各国に対して王国のやったことを告知しており、このことが原因で王国はかなり厳しい状況に立たされているようだ。


このタイミングで逃げ出したということだけを言っても保護施設には辿り着きにくいだろう。

だが今現在この国の中枢には蓮司の影があるようだ。

ならばそれを利用して近づいてしまえばいい。


蓮司の幼馴染というがある俺ならばそれも可能だろう。

内心は、あのヘタレのモブに愛美が恋をしてるのが気に入らなかったが、

今に至るまで蓮司の友人を甲斐はあったようだ。


そうして保護施設に立ち入ろうとして警備に止められる。

「待て!ここは関係者以外立ち入り禁止だ!すぐに立ち去れ!」

「まってください。俺は王国に召喚された異世界人です。ここに召喚された異世界人が保護されていると聞いて助けを求めに来たんです!」


「!?」


ふふふ、驚いているようだ。狙い通りだ。

今やこの国では異世界人の知識を使った食べ物が流行している。

戦いの道具として呼ばれた連中が、文化の発展に貢献しているのだ。

それだけ、今となっては異世界人に対する見方も変わってきている。


「少し待て。確認する」

「あの、ニシカド・レンジやアマガミ・ユウヤ、クジョウ・マナミはいませんか?」


「!?・・・何故だ」

「幼馴染の友人なんです」


「君の名前は?」

「オモカワ・カズヒロと言います」


「・・・とにかく待ってくれ。そのことも含めて確認する」

施設の中に入った門番はしばらくすると戻ってきた。


「確認が取れた。確かに君はレンジ殿の友人のようだ。

君の元くらすめいとなる者が教えてくれた。

だが、悪いがまずはその隷属化の首輪を外させてもらおう。

仮に殺戮が指示されていは困る」


「わかりました。お願いします。こんなものは早く外したいです」


それに関しては嘘偽りがない。

なぜ支配者たる俺が、被支配者の証である隷属化の首輪なんぞつけねばならん。

確かに怪しまれないようにするためには必要だが、納得はいかない。


それにしてもクラスでも表向き蓮司の味方をしておいて正解だったな。

じゃなきゃここで門前払いされていただろう。



そうして俺は保護施設に迎え入れられた。

保護施設では驚いた。

まず食事だ。

王国においても支配者たる俺の食事は周りの者と比べて豪華なものだったが、いささか味気が無い。

しかしここでは日本に居たころにしかお目にかかれない食事が沢山並んでいた。


そしてさらに驚いたのが風呂だ。

王国においてはシャワーでさえ、偶に使うのが限界なくらいで、しかも水のシャワーだ。

しかしここではシャワーからお湯が出てるし、熱い浴槽に浸かれる。


誰が何処で見てるか分からない為、俺は表面上は満足そうな安心した表情を取り繕った。

しかし内心は激怒している。

聞けばあの食事の材料も、この設備も蓮司の奴が用意したものらしい。


あの野郎・・・支配者たる俺に黙ってこんな贅沢なものを使いやがって。

勇也勇者愛美聖女だけを連れ帰ればいいはずだったが、あの野郎も一緒に連れて帰ろう。

そして勇也と蓮司の見てる前で愛美を犯してやる。

そうして愛美を支配し、絶望する2人を眺める。


・・・想像しただけワクワクしちまうな。

その感情を表に出さないように注意する。

そして風呂から上がったころに勇也が帰還したらしい。

しかし蓮司と愛美が到着していないらしく、顔合わせはもう少し待ってほしいとのことだ。


愛美は良いさ。

スタイルもいいし、俺の女にするには申し分ない。

だが、蓮司に待たされるのは我慢ならねえ。

なぜあんな奴におれが待たされなきゃいけない。


そうしてさらに2時間ほど待たされて、ようやく蓮司が到着し準備が整ったらしい。

あの野郎、こんなに待たせるなんていい度胸じゃねえか・・・

どんな形で愛美を犯してやろうか・・

そんなことを考えながら案内された部屋に入る。


入ると、勇也、愛美、蓮司の他に女子が4人ほどいる。

まさかあの野郎、愛美の他に女がいるってわけじゃねえよな?

だとしたら許せねえ!


とりあえず蓮司が生きていたことに対して驚いたフリもしとかねえとな。

「・・・・勇也!九条!・・それに蓮司も!生きてたんだな!」


その感情を隠しながら再会の喜びを分かち合うフリをした。

「重川君も無事だったんだね!良かったよ!」

「一博!ようやくまた会えたな!ここはもう安全だ。これからまたよろしくな!」

勇也と愛美がこれ以上とない喜びに浸っているようだ。


馬鹿な奴らだ。俺が王国の手先とも知らずに。

王国に連れ帰った後こいつらはどんな表情をするのやら。


「う・・うん、追放されたけど運よく商人さんに拾ってもらってね・・・

それからいろんな人たちに助けられながらうまくやってるつもりだよ・・」


なるほど、運が良かっただけか。

所詮てめえはそんなもんだろうさ。

そうして話は蓮司が追放された話に移った。

というか移らせた。

その話を俺が疑問に思ってなかったら・・・死んだと思ってた人間が生きていることを知っているというのは不自然だからな。


俺は蓮司を助けられなかったことを謝罪する。

俺につられて勇也も愛美も謝罪している。


「僕としても驚いたよ。まさかあんな理由で王国を追放されるとは思ってなかったから」


そりゃそうだ。無能が原因で追放されるなんざ誰も思わないだろうよ。

そう思って口にした。

「そうさな・・・異世界に召喚されたばかりの俺たちが力が無いのは当たり前だ。なのにで追い出すなんざ普通じゃない」

とりあえず王女のことはこの場だけでも悪くいっとかねえとな・・・


しかしその際の蓮司達の反応は俺の思ってたものじゃなかった。

こいつらは愛美と勇也を後ろに突き飛ばし俺に剣を向けてきた。


何故だ!?どこでバレた!?


蓮司の話した理由は2つ。


俺が話した追放の理由はこの保護区域では機密扱いになっていること。

そして俺の首には長い期間つけていることによってあるはずの痣が無いとのことだった。


しくじった!油断してた!

幼馴染の立場を利用すれば簡単に懐に潜り込める。

そう思ったが甘かった。

思えば蓮司は俺からは一歩距離を置いた場所に立っていた。

おそらく俺の本性を理解してんだろう。


無言で見つめあい俺は瞬時に、差していた剣で衝撃波を作り出す。

俺が本来持っている剣聖用の剣じゃねえが、剣聖のスキルを使えばこんな貧相な剣でも距離を作ることはできる。


そのあと切りかかろうとしたが、勇也の奴が邪魔してきやがった。

どうにも勇也はまだ現状を理解してないみたいだ。

馬鹿な奴だ。しかしこいつを殺すわけにはいかねえ。

まぁ、愛美を人質にとればチェックメイトだ。

蓮司も勇也もおそらく動けなくなるだろう。


そう思っていると蓮司が水の入った瓶を投げつけてきた。

水のような液体だ。

ポーションのように色づいているわけじゃねえ。

どうにも眠り薬だとか脱力薬だとか作ったみたいだが、やっぱり俺が敵だとは思ってなかったみたいだな。

苦し紛れの策だろう。


しかし蓮司は続けて小麦粉とガスバーナーを取り出してきた。

たしか粉塵爆破ってやつを起こしたことがあるらしいな。

それの情報も手に入れてる。

だが剣聖のスキルには体の硬度を高める技もある。

そのやり方は対策済みなんだよ!馬鹿め!


そうして爆発が起きる。

だが結果は俺の予想を超えていた。

次の瞬間俺は火だるまになっていた。

熱い!痛い!

なんなんだ!?これは!?


どっちにしてもこれじゃあ勇也と愛美をどうにか連れていくことはできねえ。

なら一番の厄介要素である蓮司を殺しておくだけでもしねえと。

敵とバレた以上蓮司にはもう二度と静かに近づけない。

ならばこの豪華な装備が手に入らねえのは多少痛いが、背に腹は代えられねえ。


しかし愛美が蓮司を庇い、蓮司は無事。

しかも愛美が見るからに重体になった。


ちくしょおおおお!なんで愛美が死にかける!?

蓮司!てめえが死ねよ!!!


2発目を放ちたかったが、もう限界だ。

俺は壁に向けて剣の刃を拡大させる技をうち外に逃げる。

そして外にあるため池に勢いよく飛び込んだ。

激痛がまだ残る中、俺は体を引きずりながら必死に逃げた。



後日、公国には俺を指名手配するということをやられた。

お陰で俺はこの国の表通りは歩けなくなった。

いいとこ犯罪者の巣窟となっている場所や、スラム街のみ密かに歩くことができる程度だ。

賞金首にもなってるらしく、下手に犯罪者に捕まればそのまま連行されるだろう。


そして俺の体には無残としか言いようがない火傷の痕が残った。

今だって痛みは残ってる。


あの野郎!必ず殺してやる!

目の前で愛美を傷めつけながら犯しつくして、あの野郎の手を足を腹を順番に何度もさしながら殺してやる!!!



復讐の怨嗟に飲み込まれながら、俺は密かに王国へと帰還した。

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