2-3-4

無言で睨みあう僕たち。

次の瞬間、重川は腰に差していた剣を抜き力技のように一気に振りぬいた!


その衝撃は凄まじいもので、僕たちは後ろへと吹き飛ばされる。

「キャッ!!!」

「グッ!!!」

「ガハッ!!!」

僕と先輩たちはその衝撃波の近くにいたため壁にたたきつけられてしまう。


その衝撃で僕は持っていた剣を堕としてしまう。

それを見た重川は一気に距離を詰めようとしてきたが、我に返った天神君が僕の剣を取りそれを防ぐ。


ガキンッ!!!


つばぜり合いになり、大きな音が響く。


「一博!?何をしている!」

「うるせえんだよ、バーカ!!!」


「!?」

「何呆けてやがんだ、てめえはよ?他の連中は全員俺の正体に気づいてるってのに、てめえはまだお友達ゴッコかよ?」


「何を・・・何を言ってるんだ!?一博!?」

訳の分からない怒りなのか天神君が目いっぱいの力で押し返す。


その力で重川は後ろに少し飛ばされた。


「やるじゃねえか、勇也?流石は勇者ってことだな。力は一流。

けどオツムが悪すぎるんじゃねえのかぁ!!!」

「ぐっ!」


再びつばぜり合いになり、今度は天神君が押されるが何とか踏ん張っている。


「だからさっきから何を言っている!!??」

「そこにいる連中は全員気づいてるみたいだが、改めて教えてやるよ」


「俺は初めからてめえらの仲間になった覚えはねえ!

今でも王国の戦力ってわけなんだよ!!!」

「!?」


やはりそうか・・・

それに愛美を見る目が完全に変わっている。

恐らくあれが重川の本性なのだろう。

今の彼が愛美を見る目は幼馴染を見る目ではなく、猛獣な目つきで女性を見る野蛮な目をしている。恐らく性欲の対象としてしか見てないのだろう。

その視線を受けている愛美も完全に怖がっている。


天神君はようやく理解し驚いているようだけど・・・


僕は覚悟を決めた。

彼は僕が拾うべき友人なんかじゃない!

奴は、僕が切り捨て、そして!!!


僕はまず『スピリタス』を取り出し投げつける。

「はっ、眠らせる薬や力を出せなくする薬じゃなくて苦し紛れの水の瓶かよ!」


どうやら僕の手を知っているようだ。

なるほど、何も考えずに友人のフリをして近づいてきたわけでは無いようだ。

徹底した情報収集もしてから来たようだ。

スピリタスを剣でたたき割った彼はそのままお酒を浴びる。


そして次に投げつけたのが小麦が大量に入った袋だ。

「しゃらくせえんだよ!!!いい加減あきらめろ!てめえらの戦力は勇也だけなんだよ!」


確かに僕らの直接的な戦力は勇也だけだ。

だけど直接的じゃない戦い方なら僕にもできる!

僕のやり方を熟知しているというなら粉塵爆破に対する対策もしているのだろう。

しかし今回の僕のやり方は爆発の威力や、酸欠を狙った物では無い。


奴を確実に火だるまにするだけの火種が欲しいだけだ。

小麦を投げ終わった僕はすぐにカセットボンベを付けたガスバーナーを取り出し、火を吐き出させる。


「爆発狙ってるみてえだが、俺がその対策をしてないとでも思ってんのか!?

なめてんじゃねえぞ!?蓮司ぃー!!!」


そして投げつけ、粉塵爆破が引き起こされる。

今までも既に騒ぎが起きていた為、外から慌ただしいような音が聞こえていたが、

今回のこれはその比ではなかった。

明確に爆発が起きたのだ。

それと同時に2つの現象が起きた。


1つは部屋の外から明確な悲鳴のようなものが聞こえてきた。

そしてもう1つは


「ギャアアア!!!熱い!熱い!痛い!!!」

度数96度に引火し火だるまになっている奴が目の前にいた。


「クソガアアァ!!!」

奴は僕に衝撃波を放ってきた。

しかしさっきとはまるで違う!

さっきのが全体に広げた、ただの衝撃波ならば、明確なまでに刃だと感じる風の刃に見える何かだ。


―――ま、まずい!作戦がうまくいったと思って油断した!―――

僕は来たる痛みに目をつぶってしまった。その時


「レン君!!!!!!!」

その叫びと同時に誰かに横へと突き飛ばされる衝撃を感じた。


「う・・・何が???」

突き飛ばされて数秒だろう・・・

その時間の跡にゆっくり目を開けた僕が目にしたのは、壁に穴をあけて外へと逃げる重川と、


床に横たわる愛美だ。

ただし両足を切り裂かれおびただしいほどの血を流す。

それも足が体から離れ壁に吹き飛ばされた状態で・・・

加えて衝撃波の余波だろうか?体中がズタボロにされている。


「愛美!!!!」


「れん・・君・・ぶじなの・・・??」

「僕は愛美が守ってくれたから平気だ!それよりも・・・!!」


「よか・・・・た・・・れん・・・・・くん・・・あの・・ね」

僕は急いで上級ポーションを取り出す。

今は止血が最優先だ。


「愛美!!今はいいからこれを飲め!」

僕を全面的に信用しているのか、愛美はすぐに、ゆっくりとだがポーションを飲み始めた。

そしてまばゆい光と共に愛美の傷は塞がっていく。

ただし、足が無残に切断された状態で・・・


「レン君・・・ありがとう。レン君は本当にすごいね。こんな薬まで持ってるなんて。足は無くしちゃったけど、生きてるだけよかった。

レン君と別れると思ったときどうしようもなく怖かったんだ・・・」

「愛美・・・少し待っててくれ。足も必ず何とかする」


「蓮司君・・・それは流石に無理よ。多分聖女である彼女にも失くしたものをどうにかするだけの力は無いはずよ・・」

愛理は無念そうに言ってくる。

愛美も自分のことなのに申し訳なさそうに頷いている。


その時スキルが解放された。

【親愛の絆・改】

一定以上の愛情で結ばれた者と、この世界の者が取得できる全てのスキルを共有できる。

また別の条件により共有化できる物がある場合は、その共有するスキルの上限を向上させる。

上限の向上条件は、どれだけ強い絆で結ばれるかとなる。

さらに、異性との愛情の前には距離も関係ない。

瞬時に対象のいる地点へと移動することができる。



本当にご都合主義だな・・・

だけど今は助かる。

親愛の絆はヒーレニカさんにもつながっている。

ならば彼女のもとに距離など関係なく移動できるこのスキルは、今のこの状況においてはこれ以上となくありがたいものだった。


「確かに僕ではどうすることもできません。でも心当たりがあるんです。僕は一旦ここを離れます。」


詳しく説明する時間が惜しい僕は簡単に要点だけ伝えた。

でもそれだけで先輩たちは目つきが変わった。

頼もしいし、愛されてるのを感じる。


続けて言う

「明美はここの人たちに事情を説明しつつ、ある程度ことは済んだって形で落ち着かせてください。」

「わかったわ。任せて頂戴。これでも元・生徒会長よ」


里美と絵里奈にお願いをする。

「里美と絵里奈は愛美を頼む。なるべく人の目に触れない形で彼女を別室で保護してくれ。できることならそのあとも付き添いを頼む」

「わかりました。任せてください」

「何ができるか分からないけど、やれるだけやるからね」


愛理にもお願いをする

「愛理は一度商人ギルドにいってエコラックさんに会いつつ、事情を説明しファスペル辺境伯への緊急の面会を頼んでください。」

そう言いながら僕はネットの繋がっていないスマホを渡す。


「これは?」

「これは僕のスマホです。パスワードは無しに変えてあります。

ここを・・・こうして・・・これです。」


「なるほどね。重川・・・といったかしらね。そいつの写真を見せて指名手配するのが目的ね?」

「はい。そして知っての通り辺境伯は僕の事情を知っていますから、いまさらスマホのことを話したとしても特に問題ないと思います」


「わかったわ。愛美ちゃんは恋のライバルだけど、でも大切な仲間よ。仲間を傷つけられたとあっては私も黙ってるつもりはないわ」


愛美以外の全員分の初級ポーションを渡しながら言う

「あとこれを飲んで傷を癒しおいてください。それじゃあ僕は行きます。」




そう言い残して僕は【親愛の絆・改】を頭の中で唱えながらヒーレニカさんを思い浮かべる。

そして出来上がった空間の扉をくぐるのだった。

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