2-3-2
急報が入ったのは保護区画からだ。
僕・愛美・天神君からしたら最後の幼馴染である重川君が保護されたとのことであった。
詳しい事情に関しては分からないが、王国軍から逃げてきたとの知らせであった。
ちなみにこの情報は遠征に出ている天神君のもとへも向かっているそうだ。
天神君も一度、無事な姿を確認するために保護区画へ急いでいるとのことだ。
人目を気にせずに使えるようになったため、1日程度で着くらしい。
愛美は少し焦った様子で言う
「レン君!急いで保護区画に行こう!」
愛理達も僕らの最後の幼馴染が保護されたという事を聞いて急いで準備し始めてくれている。
しかし僕には懸念があった。
確かに重川君は僕らの幼馴染としてのグループに基本的には属していた。
だが、同時に彼は柄の悪い連中との付き合いのあった人物だ。
生徒たちの9割が保護されたことによって、誰が支配階層にいて誰が被支配階層に居るのかも全容が分かってきている。
重川君自身に関する情報自体は無かったが、彼が僕たちのグループの他に属していたグループの情報なら入ってきている。
そしてそれは、命令違反を理由に隷属化の首輪がはめられていることをいいことに、実際に本番行為ありのレイプまでされた生徒から、彼らに犯されたという話が来ている。
加えて、何故このタイミングなんだ?
保護・・・というからには王国の手から逃れて来た、と受け取れる言葉である。
しかし保護された生徒たちからは、僕たちが保護を開始した頃に帰ってこない生徒の結果として『死んだ』という噂と同時に、『王国の魔の手から逃れ脱走できた』という噂も飛び交っていたらしい。
だとすれば、その時期に一縷の望みにかけて、脱走を企てるのが普通なのでは無いか?
何故、最初は勢いづいていた王国軍戦力との戦争が小康状態に入り、王国の敗北が目に見えてきた、このタイミングなんだ?
これではまるで、『今までは何らかのメリットがあったため王国側に属していたのに、何らかの理由で鞍替えした』としか思えなかった。
そして最後は僕自身の勘だ。
僕は所謂モブキャラだった。主人公にはならなかった。
故に、面倒ごとに巻き込まれない為にも人間関係には、より一層の注意を払って生きてきた。
自慢じゃないが、天神君も、愛美も僕のことをどう見ているのかに関しては一応気を配っていたつもりだ。
ヘタレと言われればそうかもしれないが、僕が愛美とは生きる世界が違うと思い、距離を取り始めたころに、愛美も何かを察して僕からつかず離れずの状態を維持してくれているのはわかっていた。
最近になるまではあくまでも友情故だと勘違いしていた部分はあるが、そのこと自体には気づいていた。
そして重川君が天神君や僕をあまり良く思っていないことや、愛美に対して異性に向ける目以上の視線を向けていることも理解していた。
僕が愛美から距離を取っていたのは、僕が劣等感に苛まれただけではない。
僕と天神君・・・二人が愛美と仲良くしすぎることによって、重川君の中に眠る
僕は心の中で重川君に対しての疑心暗鬼を募らせていた。
ならば味方ならば良しとしよう。
しかし想定は最悪の敵という考え方で行動したほうがいいだろう。
唐辛子を使った攻撃や粉塵爆破、眠り薬や脱力薬を使ったやり方。
その全てを・・・僕が今、敵と相対した時に使える手段を全て取れるようにしておく必要がある。
そう判断し、僕は準備してくると言い残しショッピングセンターへと向かい対抗策として買える物を全て買った。
残念ながら油は買わなかった。
というか使えないといった方が正しい。
油は確かに可燃性物質であるが、その引火温度は驚くほど高い。
即ち普通のライター程度では燃え盛るようなことは無いのだ。
あくまでもこの世界にある【ファイアボール】という魔法だからこそ、
引火するほどの温度を持っているというだけの話だ。
そこで思い出したのだ。
確かアルコール・・・すなわちお酒も度数が異常に高いものは、火気厳禁であり直ぐに引火してしまう危険があることに。
そう思って解放されていた、酒屋に向かいアルコール度数が高いものを購入した。
購入したのは『スピリタス』というお酒。
度数は96°。一般的に90を超える度数は火気厳禁だったはずだ。
ネットニュースなどには有名になる前は、タバコや線香などの小さな種火でも引火すると書かれていたはずだ。
あとは火種が必要だ。
本当なら打ち上げ花火とかそういうのがあれば安全だったのだろうけど、そこまでの物を手に入れる店舗は今の僕には無い。
ホームセンターではキャンプ用品も売っている。
といってもキャンプするほどの遠征みたいなことの必要性がないし、ラン〇ルであれば室内でも寝泊まりがある程度はできる広さだ。
必要なのはテントなどではなく、キャンプ用品売り場にあったガスバーナーだ。
本来は薪などに手っ取り早く火をつけるための用具だが、それだけの火力があればスピリタスを掛けたあとに投げつけ、引火すれば簡単に火だるまになるだろう。
そう思いガスバーナーとカセットボンベも購入した。
ショッピングセンターから出てきた僕に対して、愛美は若干不機嫌だ。
「遅いよ!レン君!何を買ってたの?」
まさか重川君が敵と想定される場合の品を買ってたなんて言えない。
「はははは・・・・まぁ・・・ちょっとね・・」
と返すことしかできなかった。
僕がこの世界に来たときは何もできなかった無力な子供だった。
そして今だって財力以外はさほど大きな力を持たないのは事実だ。
しかし同時にある程度のコネクションは作り上げたし、僕にしか入手できないものを手に入れることができるようになったのも事実。
ならば、もし彼が敵だった場合は、僕が打てる手を全て打ってでも、今の僕が守りたいものを守る。
その結果、彼を切り捨てることになったとしてもだ。
僕は神様でもなければ、全てを拾えるような超人でもないのだから。
そして、打てる手を全て入手した僕は今度こそ保護区画へと向かうことにした。
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