第3部 裏切り

2-3-1

9月になった。

あれから僕たちの環境自体はあまり変化していない。

変化していることがあるとすれば、どういう行動をしているかという話だ。


戦争も小康状態に入っており、基本的には公国軍に迎撃を任せている。

僕らと同じ異世界人がかかわるのであれば、僕も関与するべきなのだろうが、そうでないのならば逆に過度な干渉となりかねない。

ゆえにこのスタンスに関しては以前と何も変えていない。


変わったのはまず、アリシアとレミリアだ。

前にも説明したが、彼女らは僕の家に居候のような形で住み込み、首都内にある学校に通う形になる。

そのため屋敷には彼女たちのメイドがいるのだが、流石に公爵家の人間がメイドだけを連れて毎日馬車も使わずに学校へ行くというのは、見栄え的なところで外聞が悪い。


そこで思いついたのが、僕の買った車を使うことだ。

王国が戦争を仕掛けてきたことによって異世界人がこの世界にいることは既に隠せない情報となった。

そのため『レンジ・ニシカド』という人物が真っ先にデミウルゴス公国側についていたということも徐々に隠すのが難しい形になった。


そこで以前話していたプランを実行することにしたのだ。

闇雲に隠し通すのではなくこちらからある程度の情報を与えて、逆に強制的に秘密の共有者にするというやり方だ。

この世界の者よりも均一に、そして品質のいい調味料や、この世界では入手できない食べ物を入手できる僕は、公国の利を考えると他国には漏らせない者となり、

同時に本来であれば貴族たちの為に販売を頑張る必要があったのだが・・・


そこは公爵様が窓口となってくれたおかげで大事に至らずに済んだ。

むしろ公爵様だけが窓口となる形になり、公爵様の発言権が余計に増したようだ。

加えて僕も含めて、結果的に公国側に利益になった異世界人の保護という事象が余計に拍車をかけた。


王国側の理由が不純であったにせよ、今となっては公国に勇者と聖女が属しており、その二人も僕の近くにいるという情報を総合して考えれば、

『レンジ・ニシカド』という人物に余計なちょっかいを掛ければ、痛い目を国として見ることになり、そうなれば貴族位のはく奪なども十分に考えられることもあって迂闊な手出しをする貴族は少なかった。

一部それをやる貴族もいたが、例によって爵位をはく奪されたり、領地を没収されたり、とんでもない金額の罰金を科せられたりと・・・

どの結果であろうと実質貴族を続けることが不可能な結果になったのも、それに拍車をかけた。


さらにその取引によって僕の資産自体も一気に増大している。

一応公爵様にとっての利益分を確保したうえでの販売額に設定しているが、

それでも元々の金額がとてつもなく高いため利益がでる。


それにこの世界では入手できないのは何も、チョコレートなどの高級菓子だけでなく、洗剤なども該当していたのも理由になった。


何はともあれ二人には僕が買った車をメイドさんに運転してもらって毎日登校してもらうことにした。

考えたのがクラ〇ンを購入することを考えたが、そうなると一般貴族や有力商人は一体何に乗って見栄えを張る?とも思った。

現時点で乗っている人はいないし、増やしたいわけでは無いけど乗る人がでるかもしれない、という想定をした方がいいだろう。


そうなるとそっちの人たちがクラ〇ンに乗ったほうがいいだろう。

それを考えた結果二人が乗る車はセンチュ〇ーにした。

金貨2枚もした。日本車で2000万円とは・・・

当然この車は公爵家そのものにも献上している。


2人が異世界の高級車に乗って登下校することによって首都の学校への登下校に車を使いたいという要望があったためスキルを確認すると、僕が認めた者が認めた者までであれば使うことができるようになっていた。

なので公爵様にそれを説明し、まず僕が公爵様を認める。そして公爵様が認めた者のみが車を扱うことができる。

といった形になったことで公爵様の影響力は絶対的なものに変化した。


どちらにせよこれによって今では首都をクラ〇ンが走るところを稀に見かけることになり、さらにセンチュ〇ーが走るところを極めて稀に見かけるようになった。


ちなみに当の二人であるが・・・

僕の家での生活に毒され・・・いや、慣れたようだ。

今となっては公爵家に居たころよりも快適なため戻りたくないそうだ。



愛理達や愛美の生活も変化した。

彼女たちにも車は渡している。

そのうえで保護した生徒たちに食料品や女子生徒たちに生理用品や化粧品を渡しにいく役割を請け負ってもらっている。

愛美は僕との関係性ゆえ、そして愛理達は僕との付き合いが他の生徒に比べて比較的長いためである。

公国の関係各所とのやりとりで忙しくなってきている僕が直接やりとりをすると手が回らなくなってくるため彼女たちが代理でやることになった。


また彼女たちが表に出ることによって別の利益が発生した。

食事だ。

保護区画で使用されている、この世界にはない食材のこともあるが、それと同じくらいに新しく、そしてこの世界からすれば斬新な料理などは徐々にこの国に浸透し始めている。

ジャンクフードなど庶民でも気軽に楽しめる物もあれば、砂糖を大量に使った貴族受けする菓子など生徒たちの活躍の幅が広がった。


それは戦争の為に兵器として召喚された彼ら彼女らが、生活の面でも十分に発展させることのできる知識を持っている証明になったため、最初は操られながらも侵攻してきたという悪印象は徐々に払拭されはじめている。



天神君の方も少し変化した。

彼はこの世界に降臨した勇者として公国の対魔物事情に大きく貢献している。

もちろん彼にもアイテムボックスの共有やオフロード向けの車の供与をしている。

それらを活かして迅速に現場に辿り着き、圧倒的な力で街に向かう魔物を殲滅することから公国の安全事情に大きく貢献している。

理由は不明だがこちらに戻ってきているときはアリシアと行動を共にすることが多いようだ。


しかし勇者を授かりながら肝心のところで王国に利用された負い目があるのか、表情が完全に晴れることはなかった。

少し心配だ・・・



そしてポーションの事情も変化した。

ヒーレニカさんが僕らに合流することで、ポーションの作成が円滑になった。

加えて彼女とも親愛の絆が生まれており、彼女の方で薬草を仕入れることが可能になったため僕がやるのはあくまでも資金の提供・・・となるはずだったのだが、

スタンピードの時や王国侵略の際に僕が渡した莫大な依頼料があるので今のところはいらないとのことだ。


気になるのは彼女との距離感が最近異様に近すぎることだろうか?

なぜか体を密着させてくることもあったりと疑問がわく。

同衾はまだしていないが・・・・時間の問題な気もする。




そういうわけで、僕らの生活が安定軌道に入ったころに一つの急報がやってきた。

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