2-2-α
SIDE:ベアトリーチェ
王国に戦争を仕掛けて数か月が経った。
最初は散発的な戦闘だったとはいえ、王国が優勢であった。
ここまでは私の計画に狂いはなかった。
しかし先兵に出した者たちが帰ってこない事案が発生した。
最初は使い捨ての道具。
それこそいてもいなくても変わらない者たちを選んだため、そういうこともあるか・・・と楽観視していた。
しかし次第に状況が変化してきた。
大人数にして出撃させたのだが、そのいずれも帰ってこないのだ。
それも1人も。
確かに隷属化の首輪は完ぺきではない。
強固な反抗の意思がある者は複雑な命令下すことができないことがある。
しかし簡単な命令に関しては絶対服従することになる。
例えば『逆らうのであれば死ね』という命令くらいであれば。
しかし戦闘が行われたと思われる場所に兵士が行っても、死体の一つもない。
とはいえ隷属化の首輪も嵌めている。
そうして徐々に戦力を失いつつあった私は一気に賭けに出た。
それまで温存していた勇者と聖女を戦場へと送り出した。
加えて敵国内での無差別殲滅を命じてだ。
それだけに王国兵士を帯同させることはできなかったが。
勇者の戦闘能力と聖女の回復能力があれば、もはや公国の一辺境領など容易く落とせる。
そう高を括っていた私はさらに追いやられた。
そう、勇者も聖女も帰ってこなかったのだ。
加えて街一つを落としたという報告すら入ってこない。
怒りに感情を支配された私はいよいよ王国軍主力を公国に向けて出撃させた。
その結果は惨敗だった。
確かに最初は王国軍が優勢だったとのことだった。
しかし敵は無尽蔵に思えるほどのポーションを用意しており、手傷を負わせて戦域を離脱させても、すぐに治して戻ってくるとのことだった。
中には瀕死の重体まで追い込んだはずなのにもかかわらず、上級ポーションすら使われて直ぐに戦闘に復帰してきた兵士すらいた。
隠密を使って領主軍の指揮をしている辺境伯領主に闇討ちを仕掛け、腕と足をもいでやったところまではよかったが、その後、霊薬エリクサーを使われて全てなかったことにされたと、かろうじて逃げ延びた隠密からの報告もある。
エリクサーだと!?
ありえん。
あれは霊薬と呼ばれるだけあって製造法もしっかりと確立していない。
今の時代には存在せず、神代といわれている時代に存在していたとされ文献にしかその証拠は残されていないのだぞ!?
そんなものを公国軍は用意できるのか!?
次々と襲い掛かる難題に頭を悩ませているとあの男がやってきた。
男の要求はとても大きなものであったが、用意できないものではない。
それにアレを再び使えるのであれば、あの男とて切り捨てても問題は無い。
いざとなればアレを使って消してしまえばいい。
所詮、アレもあの男もこの大陸を制したら不要なのだから
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SIDE :重川 一博
俺たちを召喚したアーガスト王国が、隣国デミウルゴス公国に宣戦布告と同時に戦争を仕掛けてから数か月が経った。
殆どの生徒たちは魔王討伐という王女の偽の情報を信じて、地味な訓練に必死になって参加していたが、俺を含めた一部の生徒は真相を知らされていた。
この世界に魔族は存在するが、魔王は存在せず、その魔族も亜人のようなもの。
ならば何故俺たちを召喚したのか?
それは他国侵略の為の戦力増強のためだそうだ。
当然最初は俺たちも怒りはした。
向こうの勝手な都合で日本での快適な生活を奪われたのだから。
だが王女はこういった。
「支配することになる民をどう扱ってもいいぞ?所詮奴隷として扱うのだから」
それを訊いた俺たちは押し黙った。
日本は確かに快適に暮らせる国だ。
加えて他国に比べて銃規制など安全性が向上した国家だ。
しかしそれだけに法律による束縛も強い。
そしてここにいる極一部の男女は俺と同類だ。
日本の生ぬるい法律なんざクソくらえ。
女なんぞ、ただの性処理の対象だろうが。
好きなように犯し、好きなように扱う。
けど日本じゃそれはできない。
けど、こっちの世界なら・・・・
さらに別の生徒が聞いた。
「聞くが、もし大陸を制覇したら、他の連中はどうするつもりだ?」
「切り捨てるつもりだ。用済みの道具を生かしても意味は無いだろう?
わざわざ隷属化の首輪を用意し、維持し続けるのも面倒であるしな」
なるほどこっちがこの王女の本当の姿のようだ。
「俺たちはどうなる?」
「あ奴らとは別れさせ、ここに呼び真実を話している時点でわからんか?」
「へぇ・・・なるほどな」
「なら戦争が終わったらそのあいつらを、どうしようと俺らの自由ってことでもいいんだよな?」
「それが望みか?」
「ああ、抱きたい女がいるんでな。あの自信に満ちた会長の顔が絶望する瞬間を見てみたいのさ」
「私も、子供産むならイケメン君の子供がいいし、好きなようにして良いイケメンがほしかったのよね」
と口々に、日本では到底言えない欲望を露わにする。
「なるほど。どうせ使い終わったら消す予定だった者たちだ。戦争が終わるまではそれに近い行為までだったら許してやろう。もし命令に反したものがいたならその時点で死ななければ好きにしてもかまわんし、戦争が終わったら文字通りお前たちの好きに扱うがいい」
「そうか。だったらこのことは黙っておいてやる。それに協力もしてやるよ」
そんなことを言いながら、それぞれが日本では描けなかった未来を描き始めていた。
しかし戦争が始まってみれば状況は一変した。
次々に送り出し、しかし帰ってこない生徒たち。
何を思ったのか王女は闇雲に軍を突撃させて戦力を減らす始末。
このままじゃ俺たちの・・いや、俺の理想郷は作られないで終わる。
ならばこの手で作り出すまでだ。
俺は王女に会いに行った。
「よう、ベアトリーチェ。大分疲れているみたいだな」
「何の用だ。それに理由ならわかっているだろうが?」
「まあな」
「失せよ、今の私は気が立っている。貴様を殺すことも厭わんぞ?」
「まぁまぁ、少し落ち着けよ。今日は提案をしに来たんだよ」
「提案だと?」
「ここまで生徒たちが帰ってこない。それも死体の一つも見つからない状態でっていのうはおかしいだろ?魔物に食われたにしても一つくらい痕跡があってもいいはずだ」
「それが分からないから苦戦しているのだ。からかいに来たなら早く失せよ」
「ちげえよ。提案だっていっただろう。俺が脱走兵の振りをして探ってきてやるよ。それに、もし可能ならば勇者と聖女も連れ帰ってきてやる」
「・・・・・・・・何が望みだ?」
「要求は2つだ。1つは俺にこの国の重要ポストを用意しろ。さすがに王家に婿入りさせろとは言わねえよ。そこまで勘違い野郎じゃねえしな。」
「よかろう。金があればあらかたのことはどうとでもなろう。財務大臣のポストでも用意してやる」
財務大臣か・・・ならある程度は国の予算を使えるかもしれないし、そのつもりでこの王女も提案してるのだろうよ。
頷きながら俺は言う。
「もう一つは・・・・聖女だ」
「・・・・・何?」
「あ~別に聖女の力が欲しいってわけじゃあ無い。俺が欲しいのはあくまでも女の方だ。だから王女の方で聖女に男に当てがったり、死んだりするようなこと以外の仕事であれば、好きに命じてやってくれて構わないぜ?
ただ聖女を得たらあの女を俺の好きにさせろ」
「つまり戦争が起きた場合は、そのものを守る代わりに仕事を依頼する程度であれば良い・・・と?」
「ああ。そういうことだ」
「それならばよかろう。確かクジョウ・・・とか言ったな。貴様ああいう女が好みか」
「それは俺の勝手だろう?」
「確かにな。貴様の好みに私が文句をつける筋合いはないな」
「なら話は決まりだ。早速で悪いが俺は準備したら行くぜ?」
「ああ。吉報を期待しているぞ」
よし。約束は取り付けた。
あとは勇也のクソと、愛美を俺の手中に収めればいい。
そうして脱走者らしい貧相な服装を調達し、森を抜けるかどうかで、そこそこ性能のいい武具を捨て去りデミウルゴス公国に入る。
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