2-2-7

王国が本格的に侵攻を開始して1か月ほど経過した。

最初は苦戦するかと思っていた戦局も、最近は公国側に傾きつつある。

なぜなら王国は一般的なスキルだけで鍛え上げた生徒たちを使い捨ての駒にしたからだ。


王国軍の正規戦力である兵士たちは基本的に安全な場所から指示を下すだけで、実際の危険な前線は召喚した生徒たちにやらせていた。

そこに僕たちも加わったことによって、戦力を削り取られるどころか、僕たちに懐柔させられ公国側の戦力について戦力アップした公国軍が迎撃するという構図が出来上がってしまった。


しかしここからが本番ともいえる。

なぜなら今までの戦力はあくまでも使だからだ。

ここから先は本物の戦力邪悪な生徒や勇者を使ってくるだろうからね。


そこで僕たちは新たに作戦を生み出した。

直接的な殺傷能力を狙ってのことではない。

酸欠状態にして行動不能を狙ったものだ。


【粉塵爆破】

詳しい理屈は知らないが、小麦をはじめとする可燃性の粉塵が空気中に浮遊した状態で着火すると大爆発する現象だ。

火が燃えるためには酸素が必要になる。


無風状態を作り上げる必要はあるが、直接的な風の攻撃魔法ではない為、警戒されるリスクが少ない。

直接的にある程度のダメージも狙えるが、それ以上に爆発に際して大量に使われる酸素で、酸欠を狙える。

動きを鈍らせたところで睡眠ポーションを使えば、恐らく成功するだろう。


そうして僕らは新しい作戦の準備に入った。

ちなみにそのためにショッピングセンターで小麦を買った際にはあたらしくテナントが解放されていた。

恐らく、生徒たちを積極的に保護した結果だろう。

あるいは公国軍に対して大量のポーションを供給したのが理由になったのか。


詳しくは分からないがメリットのあるものだ。

解放されたのはコスメショップと宝石店、そして酒屋が解放された。

とはいえどれも僕には関係ないとは思うが、女子はコスメショップは嬉しがるかもしれない。

あとで先輩たちに相談してみよう。





それから数日たったころ、いよいよ本命がやってきた。

そして、そこには僕がよく知っている顔ぶれがあった。

天神君・・・・九条さん・・・

重川くんは見当たらない。


ここで僕らは一気に行動に出る。

本来であればなんらかの話をして穏便な解決方法をとれないかと思っていた。

しかし先輩たちに諭された。

勇者と聖女の組み合わせは、おそらく敵国に入り無差別に殺戮をするように指示がだされていてもおかしくない、と。


確かに天神君と九条さんはそんなことを積極的にやる人間性ではない。

しかしあの王女であればそれくらいのことはするかもしれない。

少なくとも今まで保護した生徒たちの中には、すでに望まぬ性行為を共用され心にダメージを負っている人もいた。

加害者と同じ性別である僕が近づいても拒否反応がくるだろうということで彼女らは先輩たちに任せることになった。


報告では一応僕に対しては、なんとか否定的な言葉ださずに済んでいるようだが、そこはあまり抑圧しないで上げてほしい。

そして僕も相手から求められていない限りはそっとしておいてあげたい。


何はともあれ、勇者と聖女に対してはかなり強引な策がとられることになった。

粉塵爆破も使われ酸欠状態に持ち込まれて苦しむ天神君と九条さん。

幼馴染である彼らを傷つける行為はとても苦しかった。


加えて睡眠ポーションと脱力ポーションも投げ込まれる。

眠さで力が抜けやすい中で、さらに力を抜けさせる薬品を嗅がされることになった二人はあっというまに崩れ落ちた。


「「「「蓮司(さん)・・・・」」」」


仲間たちは何も言わない。言わないでくれている。

今声を掛けられたら恐らく泣いてしまう。

こんなになるまで救い出せなかった自分自身の不甲斐なさに、そしてそんな環境で苦しんできた彼らに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



こうして主力となる勇者は捕らえられ僕は少しホッとしてしまっていた。

しかし忘れていたのだ。

記憶の彼方に追いやっていたのかもしれない。

もう一人の幼馴染の存在を・・・


翌日、目を覚ました2人に、僕はすぐに謝った。

かなり強引な方法を使ってしまったこと。

苦しむ二人をもっと早く助けてあげられなかったこと。


「蓮司、なぜお前が謝る?謝らなければならないのは俺たちの方だ」

「そうだよ、レン君。私たちはレン君を守れなかった。勇者や聖女という希少なスキルを与えられておきながら、私たちにとって一番守るべき大切な幼馴染を守ることができなかった。

ごめん・・・・ほんとうに、ごめんなさい・・・・・!」


天神君は手を強く握りしめながら下を向いている。

九条さんも必死に隠そうとしていたが、もはや隠し切れないほどにボロボロと泣いている。

僕は・・・ふたりを癒してあげたい。


そして同時にに対して底知れぬ憎悪が沸きあがってくるのを感じた。

その瞬間、僕にとって、王女からあの女王女から敵へと明確に変わった。


必ず捕らえて、自身のやったことに対する報いを受けさせてやる!



そう決意を新たにして二人をそれぞれ用意していた部屋に案内した。

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