2-2-2

幡上先輩とのトラブル?が起きた翌日。

異性として認めてくれているのであろう言葉から考えると、あまりに強く謝ると失礼に当たる気はするが、そういう関係性ではない。

なので僕はタイミングを見計らってもう一度謝った。


あの場で謝罪しただけで済ませたことにするのは不誠実だと思ったからだ。

多分僕は人恋しかったのだろう。

自分自身の感情なのに自信が持てないが、単純に善意だけで保護しようとしたわけでは無いはずだ。


この世界に来てからというもの、同郷の人間はおらず、最終的に僕の事情を話した人は秘密の重大さを考えてみれば、それ相応にいる。

しかし誰に話して良いのかなど常に気が張っている状態だった。

だが、彼女達なら元々が同郷の人間であり、秘密にする必要はない。

というよりも出会ったときから秘密の共有者なのだ。


とにかく僕はもう一度謝った。

先輩も「気にしないで」と言ってくれた・・・

が、ここからが困ったことになった。

基本、僕たちは一つ屋根の下で共同生活を送っている。

しかし部屋は別々にしている。


彼女たちは同性であるのと、居候の身で1人1部屋というのは贅沢すぎるからと3人で1部屋を使っているが・・

最近は所謂「夜這い」というものをやってくるのだ。

それも3人全員が。

日によって誰がそれをやってくるのかは違ってくるが、全員がそれをやってくるようになったのは事実だ。


幸いにも、夜這いといっても添い寝といってもいい程度のことをしてくるだけで、具体的に何かをしてくるわけじゃ無い。

ただ幡上先輩の場合は時間の問題な気がする。

というのも服屋を使えるようにしてから、彼女たちは日本に居たころの服をこの家の中限定で着るようになった。

有栖川先輩と愛川さんは、しっかりとパジャマというべきものを着て夜這いをするのだが、幡上先輩は違った。

たしかネグリジェとかいう分類の服の・・・それも結構きわどい透け具合の物を着てくること少しずつ出てきた。


朝起きて横を見てみれば美少女が隣で寝ている・・

それだけでも心臓に悪いのだが、幡上先輩の場合はそのうえで手を出してしまいたくなるような服を着ていることもある。

幸いなのはまだそれを着てくれる点だ。

そのうち下着だけで寝ていそうで怖い・・・・・・



そんな心臓バクバクの生活が始まってから少し経った頃、ついにその時がやってきた。

いや、やってきてしまったというべきだろうか。


アーガスト王国は宣戦布告と同時にデミウルゴス公国へと侵攻を開始した。

ある程度の情報戦のやりとりはあったのだろう。

だが流石に王国軍は街一つが疎開しており、その街のほぼ全員が軍事にかかわることのある者にすり替わっているとは思っていなかったらしい

初戦は王国軍が甚大な被害を受けて撤退したとのことだが、ファスペル辺境伯の領軍も少し被害が出ていたとのことだった。


そして王国軍の戦力にはやはりいたのだろう。

明確に誰がいたかなどはわかっていない。

しかしこの世界においては珍しい、黒い瞳の黒髪の少年少女達の存在が確認されていた。

幸いにも王国が勇者召喚した者たちを軍事戦力として使っていることや、その者たちの特徴は領軍の指揮官には話されていた為、彼ら彼女らが強力な能力を持っていても大きな混乱にはならなかったそうだ。


この事態を何とかしたいが、僕一人の手に余る。

一応ヒーレニカさんに依頼を行い、一時的に無力化する手段を確保した。

となると後は公爵様に依頼している隷属化解除の手段と、その後の彼ら彼女らの説得だろう。

前者はある程度の見通しが立っている。

あくまでも過去には存在していた手法をもう一度使えるようにするだけだから、そう難しいことでは無いのだろう。

問題は後者だ。

自分自身を取り戻した後にどういう行動に出るか分からない以上、しっかりと考える必要がある。


できることなら彼ら彼女らにとってみて何か有益なものがあれば、それだけ引き込む・・とまではいかなくても戦う気を失くさせることができるはずだ。

しかし僕は彼ら彼女らとは悪い意味合いで違う。

息詰まっているところで思い出した。

ついこないだまで、そっち側にいた人たちが僕の近くに3人いるじゃないか。


善は急げだ。早速聞いてみることにした。


「うーん・・・多分だけど女子たちの方は何とかなると思うわ。問題は男子たちにとっての価値観ね」と幡上先輩

「というと?」


「蓮司君にとっては当たり前になってきているのかもしれないけど、シャワーが・・・それも風呂がある生活なんてあっちでは考えられないのよ。奴隷であっても無くてもね。それにシャンプーとかの石鹸類も質が悪すぎる。髪がゴワゴワするし、肌もカサカサになりやすいわ。

けど蓮司君の庇護下、というには大げさかもしれないけれど、蓮司君の友好的な関係者になればそのおこぼれにあずかれるというのは女子にとって大きなメリットよ。

それだけ女子にとっては『美』というのは重要なことなの。

日本に居たころも男子が気づかないだけで、女子はいろんな努力をしてたのよ?」


マジか・・・そこまで。


「とはいえ男子たちの方もそれである程度はどうにかなるんじゃないかしら?」

「なぜ?」


「その答えはあなた自身が一番よく分かると思うけど?」

「・・・・・・」


確かにそうだ。

僕はそこまで外見に気を使ったことは無いが、シャワーが浴びれないことや浴槽に浸かれないことは一応ストレスになっていた。

服や洗剤の類に関しても不満があったしね。

それに嗜好品といっていいだろうか・・・

そういう物を僕は積極的に食べたりはしなかったが、全くないのは若干不満だった。

それを大きな不満と捉えた者もいるかもしれない。

ならばそれは大きな武器にできるだろう。


ふとそのことが気になって聞いてみた。

「先輩、お菓子屋と飲み物屋もあるんですけど使えそうですかね?飲み物屋ではジュースとかも売ってるんですけど」

「「「!?」」」


「・・・蓮司君、服屋もありがたいとは思ったけど、できるならそのことも教えてほしかったわ。いえ、もちろん登録は服屋でいいのよ。

ただ甘いものは別腹っていう言葉を使う女子っているじゃない?それだけ女は甘いものに飢えている時があるのよ。

そしてこの世界で甘いものにありつけることなんて殆どなかったわ。それは奴隷状態になったこの先は恐らくないでしょうね」


「えーと・・・失礼かもしれませんが、なら生理用品とかって必要だったりします?」

「売ってるの・・・・?」


「は、はい。薬屋といっても薬剤と衛生用品で販売しているみたいで、一般的な薬なら・・・」

「ならそっちも時間のある時に買ってくれると助かるわ。保護してもらってる身で要求するのも心苦しいのだけど、生理用品とあと関連して痛み止めとかは欲しいわ。

あとで詳しい種類を教えるから頼めるかしら?」


「・・・・・・はい」


「それで話が逸れてしまったわね。

今の反応でわかってもらえたでしょうけど、生理用品やある程度の常備薬、そしてお菓子やジュース、シャワーにお風呂、それに石鹸類と簡単な化粧品。ここまで提示されたら日本に居た女子生徒たちは十中八九頷くわ。

それに一部を除いた男子たちもね。特に奴隷化されている者のなかでランクの低い者たちは簡単に傾くでしょうね。

あと、これはお願いなんだけど、その説得というか・・・捕縛も含めて私たちも協力させてもらえないかしら?


「なぜですか?」

個人的には反対だ。危険すぎる。

僕は、僕も同じ立場だということを勘定にいれないで思っていた。


「答えは簡単よ。見捨てられないわ。

彼女らは私たちなの。私たちは偶々能力が低くて追放されて、偶々逃げ延びて蓮司君に保護されて、偶々彼女らよりも良い生活を送れている。

でも、なにかの因果が違っていれば彼女たちは私たちになっていて、私たちは彼女達のように未だに苦しい生活を送ることを余儀なくされていたのよ。

それを黙って見ていることはできないわ」


「だから救ってあげたいの。蓮司君の心の本質が私たちに、そうしてくれたように。

私たちもそれに協力したい」

有栖川先輩も、普段オドオドした雰囲気の愛川さんすら強い眼差しで頷いている。


「ありがとうございます。

そこで『僕に任せてください』と言えれば恰好よかったのでしょうけど、生憎と僕にはそんな大層な力はありません。

僕のような、スキルが無ければ何も取り柄のない人間が言うのもおこがましいかもしれませんが、僕は彼らを助けたいです。

できることなら一人でも多く。

だから先輩たちの力を貸してください」


「任せて。といっても蓮司君のスキルに頼る形にはなってしまうけど、必ず交渉を成功させるわ。

だけどこれも覚えておいて。

おそらく法律に縛られない・・・と断言することもできないけど、そういう世界に来た以上、それまで抑圧された感情が解放されて価値観が大きく変わっている生徒もいるはずよ。

全員を助けられるわけじゃ無いだろうってことは・・」


「はい。それも承知しています」

「なら良いわ」


「一応、睡眠ポーションと脱力ポーションの開発には成功しています。

これを使えばある程度は楽になるかと。

あとは公爵様が隷属化解除の方法を調べています。過去にあった物を掘り返すだけなのでこちらも、ほぼ問題ないかと」


「・・・・・・・・・準備万端と言わんばかりね。というか、もうなんでもありね。

一度眠らせるかして無力化して、その間に隷属化を解除。あとは交渉材料というか、餌をちらつかせれば簡単に落ちるわよ」



「話は変わるんですけど、お米って必要ですか?」

「・・・・・あるの?っていうか、もしかして味噌もあったりする?」


「両方買えます・・・・・」

「「「・・・・・・・」」」


「ならそれもお願い。そろそろ白いご飯が食べたい」

他の2人も頷いている。



その後、僕は彼女らが希望する品を一通り聞いて商品を購入した。

余談ではあるが、電気屋で冷蔵庫も買った。

これで長期保存ができるようになるだろう。

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