2-1-7
翌日、朝ごはんを食べてから1時間くらいして屋敷へ向かった。
あまりに早くても失礼にあたると考えたからだ。
屋敷の門に到着すると、門番さんが通してくれる。
どうやら話を通してくれたようだ。
そして辺境伯様もそれにこたえてくれたようだ。
いつも通り客間に通される。
しかし今日はいつも通りの展開では無かった。
客間には辺境伯様ともう一人の男性が座っていた。
豪華な装飾が成された服を纏っている。
「久しぶりだな、レンジ殿。今日はすまないがもう
僕は会釈しながら椅子に向かい静かに座る。
「紹介しよう。現在の公国にておいて最も力のある貴族、アルコーン公爵家当主のマージグレイス・フォン・アルコーン様だ」
「今紹介にあずかったマージグレイス・フォン・アルコーンだ。レンジ君というそうだね。君のことはよく聞いているよ。今日・・・というか私はちょうど君のことも含め最近の公国の事情について細かく話そうと辺境伯のところに来ていたんだ。そこへちょうど君がやってきたという話を聞いて同席させてほしいと頼み込んだんだ。辺境伯の立場では私の要請は断りにくい。
ゆえに彼を責めないでやってくれ」
そうか。それなら致し方ない。
「初めまして。僕はレンジ・ニシカドと申します。私のいた地球の日本では基本的に全員が家名を持っています。ですがこの世界では貴族以外は家名を持つ者は少ないと聞いています。そのため家名を名乗るのを控えていました。ご無礼をお許しください。」
「そうか、そういう国なのだな。いや、家名を今まで名乗らなかったのは正解だ。どこかの有力貴族かと調べられ簡単に足がついたであろうからな。
それからそこまでかしこまる必要はない。気楽に話してもらって大丈夫だ」
「わかりました。固い言い回しは慣れていないので助かります」
「それでレンジ殿、今日は洗剤について―――「公爵様、失礼ですがレンジ殿の用件から伺った方がよろしいかと。彼から会いたいと言ってきた案件は軽く流せるものは今までございませんでした故」
「なるほど。そういうことならそうしよう。それで、どのような案件で辺境伯を訪ねようと思ったのかね?」
「二日前、僕が拠点にしている街から少し王国側に行った森の中で、冒険者の身なりと思われる女性3名を発見しました。王国との国境線付近であったため引き返そうかと考えましたが、この世界ではとても珍しい、僕と同じく黒い瞳に黒髪の者だったため接触を試みました。お二方はすでに気づいておられるかもしれませんが、女性3名は僕と同じく勇者召喚によってこの世界に呼び出された者でした。
そして僕と同じようにできそこないの烙印を押され、王国を追放された者でもあります」
驚きで言葉が出ないようだ。
「詳しく話を聞いたところ、王国は既に公国に対して戦争をする指示を出し始めているとのことです。王国との戦争が始まれば真っ先に被害にあうのはファスペル辺境伯領だと考えて、急ぎ連絡をするべきであると考えた次第です」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「なるほど。辺境伯が君のことをびっくり箱と揶揄するわけだ。納得がいったよ」
公爵様がそういう。
思わずジト目になり辺境伯様を見てしまった。
が・・・視線をそらされる・・
「ファスペルよ・・・今現在レンジ君が拠点にしているあの街だが、非戦闘要員を全員避難させた方がいいだろう。代わりに偽装もかねて領軍をそこに駐在させた方がいい。レンジ君、迅速な情報提供を感謝する。君には何か礼をしなくてはな」
「なら二つほどお願いがあります」
「ほう・・・もう何かあるのか。聞かせてくれ」
「一つは隷属化の首輪の解除方法を教えてください」
「隷属化の首輪だと!?」
僕が目を白黒させていると辺境伯様が答えてくれる。
「レンジ殿、この大陸においては隷属化の首輪を所持、使用することは禁じられているのだ。もちろん犯罪奴隷として鉱山送りにしたりということはあるが、それでも隷属化の首輪を付けることは許されていない。理由は簡単でそれを持っていればどんな相手でも隷属させることができてしまうからだ。相手が犯罪者であろうと、なかろうとね」
「一応知りたい理由を聞いても?」
「勿論です。王国は戦闘に対して消極的な僕の同級生たちに隷属化の首輪を付けて無理やり戦わせようとしているようです。何らかの方法で彼らを一時的に無力化したところで隷属化の首輪を解除する方法がなければ、彼らを殺すほか方法がありません。
ですが同級生の中には僕の幼馴染もいるんです」
「もしやそれは、以前レンジ殿が言っていた『アマガミ』というものと『クジョウ』という者のことか?」
僕は頷く。
「なるほど。それについては承知した。早急に過去の文献を当たらせて、解呪の方法を把握することにしよう。それで、もう一つは?」
「領都内で大きい家を買いたいです。改装とかは自分でやることを考えていますのでできる限り大きな家が欲しいです。僕は友人だけでなく、できる限り多くの同級生も助けたいと思っています。なので彼らを救助した後保護できる場所が欲しいと考えています」
「よし、分かった。公爵家の方で力になろう。君の家として十分な家の大きさの家と、保護した者たちを住まわせる家。両方を用意しよう。費用はこちらで持つから気にしないでくれ」
「そこまでしてもらうわけには・・・」
「代わりにと言ってはなんだが、洗剤の納品量を増やせないかね?」
「えっと、そんなことでいいんですか?」
「そんなことではない。これが成功しないと私は妻に殺される・・・・」
と公爵様。
「私も同様だ。こないだ首を絞められた・・・」
と辺境伯様。
え・・・なにそれ・・・・・・怖い。
というか二人の目がマジなんですけど・・・
「わ、わかりました。もしかしたらそのうち辺境伯様と懇意にしている貴族の方にお会いする可能性が高く、量が必要かもと思って今まで卸してた3倍の量は今日も確保してありますので、あとで辺境伯様と共有しているアイテムボックスに入れておきます」
「「おお!頼んだぞ!!!」」
頼むから両肩をがっしり捕まえてガン見しないでください。
怖いです・・・・
「女性の美の拘りとは怖いものだ」
「全くです・・・」
僕からすれば怖いのはあなた達です・・
「あの~、でしたら今度貴族向けの高品質な洗剤や化粧品の類も入荷しておきましょうか?」
「「ぜひ頼む!!!機会を逃したと知られたら殺される!!!」」
怖いです・・・二人とも・・
僕は必死に頷く。
その後は調味料などを卸して対談は終わったのだった。
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