2-1-6

翌日、僕は朝一番で商人ギルドに向かった。

目的は言うまでもなく、ファスペル辺境伯様に対しての紹介状を預かるためだ。

ファスペル辺境伯と僕の間にはすでに個人的な縁がある。

会うだけならば紹介状は必要ないだろう。


しかし事は公国の安全に直結する内容だ。

信憑性を疑われてしまう可能性もある。

となれば辺境伯様と旧知の仲となっているであろう人の紹介があったほうがいい。


僕はエコラックさんから紹介状を受け取った。

このまま直ぐに向かおうと思ったが、ヒーレニカさんのところに行く予定であることを伝える。

エコラックさんは気を利かせて、ヒーレニカさんとの仲介書も直ぐに作ってくれた。

ありがたい。


そして僕は彼女の店に向かった。

開店直後だったらしく、店内にお客はいない。

僕の顔を確認した彼女はすぐに店を一度準備中に戻した。


なんか申し訳ない・・・


「今日は何の相談でしょうか?」

「今日は中級ポーションと上級ポーションの作成依頼、それから質問したいことがあります。


「相変わらず、最近自分の常識が壊されそうになるようなことを言うんですね・・」

「その・・・ごめんなさい」


「いいわ。レンジさんのやることだからと思うようにしてるから」

「・・・・・・・・・」


「それで中級と上級は材料があれば作れるけど、質問したいこととはどのような内容でしょうか?」

「ヒーレニカさんは材料があれば『エリクサー』は作れますか?」


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」


お互い無言になる。


「そうね。レンジさんのやることですものね・・・」

「・・・・・・・・・・」


否定したいが、何も言い訳ができない。


「答えになるけど、『分からない』になります」

「というと?」


「普通に考えてくれますか?上級ポーションは作ったことはあるけど、それも1回2回の話よ。ただですら薬草は貴重なのよ。上級ポーションはその貴重な薬草を100株も使いつつ、さらに希少としか言いようがない材料を11株も使う代物よ。

伝承では上級ポーションとエリクサーの材料を混ぜながら作るとできると聞いてはいるけど、そんなもの作ったことがあると思うのですか?」

「・・・・・言われてみれば確かに・・」


「というわけで上級ポーションの材料とかをアイテムボックスに入れておいてくれると助かるわ。」

「わかりました。それなら中級ポーション1000本依頼料大金貨1枚、上級ポーション210本依頼料大金貨2枚金貨1枚、あとエリクサーは成功報酬として1本金貨1枚とします。エリクサーの原料である『聖草』は10株入れておきますので10本作れるか試してください。締めて大金貨4枚と金貨1枚、それから必要材料を明日までにアイテムボックスに入れておきますね」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かったわ」


今までで一番長い溜めだった・・・

僕の方は材料費と合わせると大金貨6枚と金貨2枚の出費になった。

わ~お~・・・・


「最低でも1か月はかかるものだと思ってちょうだい」

「先に上級ポーションを1本作って、それと聖草を使ってエリクサーを1本作れるか試してみてもらってもいいですか?」


「・・・・・・・・(コクリ)」

最早言葉も喋ってもらえない・・・


「そ・・・それじゃあ、お願いしますね~」

そう言って逃げるようにして店を出た。


そして今日中に領都についておきたいと思った僕は早足に街を出てジム〇ーを出した。

今まではラン〇ルしかなかったけど、今度からは一人旅の時は小さい方を使おう。

大きい方はなぜか落ち着かない。


そうして夕方前に領都へ到着する。

手早く宿の確保を行い、すぐに屋敷へ向かう。

門番の兵士さんにエコラックさんの紹介状を渡しつつ『レンジが明日会いたがっていることと、紹介状を領主様に渡してほしい』と伝えて立ち去る。


宿に戻り久しぶりにシャワーを浴びる。

やはり地球に居たころの文化が染みついているようだ。

貸し家にしても、今後自分の家を買うにしてもシャワーは絶対条件だな。

家を買うのであれば、できることなら浴槽も欲しいところだ。


シャワーを浴びて一休みする。

まだ時間的な余裕はある。

なら今のうちに辺境伯様へのお土産と卸し品を買っておこう。

あとヒーレニカさんに渡す薬草や水、聖草もだ。

加えて、お風呂のことが頭から離れないから、ホームセンターで浴槽とか他にトイレとかも見ておこう。


そう思いショッピングセンターに入る。

辺境伯様への卸し品はいつも通り調味料と洗剤でいいだろう。

ただここまでことが大きくなると公爵様となんらかのコンタクトを取っている可能性が考えられる。

普段の3倍仕入れておくことにした。


お土産に関してはお菓子屋でチョコレートを購入しておいた。

10箱ほどだ。

足りなければまたサクッと買えばいいだろう。


花屋と飲み物屋では中級ポーションの材料と上級ポーションの材料を購入する。

上級ポーションは初級の材料オトギリソウ100株と中級で追加されるユーカリ10株、そしてエゾウコギが1株だ。

それらを210組購入する。

加えて中級ポーションの組み合わせも1000組購入し、最後に1株1000万円もする聖草も購入する。

飲み物屋ではいつも通り水を大量購入する。

購入したものは全てヒーレニカさんとの共有アイテムボックスに入れておく。

当然依頼料と仲介書も添えてだ。


最後にホームセンターを見ておこうと思ったがその前に電気屋に寄った。

あれからかなり時間が経過している。

スマホの充電も終わっているだろう。

思った通り充電し終わっていた。

とはいえ今後いちいち充電しにショッピングセンターに入るのも面倒だ。

持ち運びができる電源を購入。

ついでに充電ケーブルも購入した。


そして最後のお目当てであるホームセンターを覗く。

見るのはユニットバスとトイレだ。

正直この世界のトイレは落とすだけで臭い。

昭和の時代に作られた『ぼっとんトイレ』なるもののようなものだ。


【異世界のトイレ】

スキルを持つ人間が認めた物のみが稼働する。

不思議な力が働いており、水は異空間から出され、排泄物は異空間へと流れる。

そのためおおもとの清掃は不要。

温水洗浄機能付き


【異世界のユニットバス】

浴槽とシャワーがセットになっている空間を購入できる。

スキルを持つ人間が認めた物のみが稼働する。

不思議な力が働いており水は異空間から出され、排出は異空間へと流れる。

支払う金額によって浴槽の大きさやシャワーの数を増設でき、広い空間へと変えることもできる。

浴室乾燥機能付き


マジか・・・ここまでとは。

そしてふと思う。

この二つがこれならと僕は急いで電気屋へ行ってあるものを確認する。


【異世界の洗濯乾燥機】

全自動で洗濯から乾燥までやってくれる機械。貴族に与えればその家の使用人が冬場は泣いて喜ぶ品。

スキルを持つ人間が認めた物のみが稼働する。

不思議な力が働いており水は異空間から出され、排出は異空間へと流れる。


うおおおおおおおおおおおおおお!!!!


あまりのことに泣いて歓喜する僕。

それほどにこの3つはありがたいものだった。

とは言え僕はまだ家を持っていない。

なるべく早いうちに家を購入しようと心に決め、僕はショッピングセンターをでた。



明日は辺境伯様に状況変化を伝える日だ。

そろそろいい時間なので今日は休むことにした。

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