2-1-5
ポーションを飲んで傷が治っていくところを見るのは3度目だ。
1度目はアビー達の時。
2度目はスタンピードの時
そしてこれが3度目。
2度目は遠目に見ていただけだったから間近で見るのはこれが2度目ということになる。
初級とはいえやはり凄い回復能力だ・・・と見ていると幡上先輩から言われる。
「あの・・・助けてもらって傷も治してもらっていうのも悪いのだけど、そんなに見つめられると恥ずかしいわ」
と顔を赤くして目を合わせないで言ってくる。
「す、すいません!その治ってるところを見るのは2度目でやっぱりポーションって凄いなーって思ってしまって・・・その・・・」
「いいわよ。そういうことなら。ごめんなさい。
自分で言うのも変な話だけど、私は胸が大きい方だからね。学校に居た時も男子たちが性的な目で見てくることもよくあったものだから・・・」
「あー・・・・」
返事に詰まりながらも納得する。
3人とも美少女だ。なにが美しい、可愛いかはそれぞれ方向性が違うし、物によっては犯罪の匂いがするので明言は避けておく。
ならそういう目線で見られることも少なくなかったのだろう。
そうして僕たちは街に向かう。
本来であれば彼女たちは少しでも早く休ませるべきだろう。
しかし彼女たちは、王国が非道な手段を使っていることの生き証人だ。
ならば早めにギルドマスターに知らせるべきだろう。
しかしこうなると悩むのは商人ギルドにしようか、冒険者ギルドにしようかという点だ。
少し悩んで商人ギルドのマスターであるエコラックさんに話すことに決めた。
トレーンさんはあくまでも辺境伯様から紹介されただけであって、僕の事情の全てを知っているわけでは無い。
それに対してエコラックさんは僕の事情を全て把握している。
その分必要な説明が少し省けるし、彼女たちを早く休めるためにも商人ギルドに向かうことにした。
「あの?ここは?」
疑問に思った有栖川先輩が聞いてくる。
「ここは商人ギルドです。僕は冒険者としてもやっていますが、本業は商人のほうだと僕自身は思っています。また商人ギルドのマスターは僕の事情の全てを知っています。秘密を明かす人間は少ない方がいいと思うので、冒険者ギルドと悩みましたがこちらを選びました」
と説明すると納得してくれたようだ。
カウンターについてエコラックさんを呼んでもらおうとしたら、いつもの如く
「少々お待ちください!」と職員さんが駆け出してしまった。
幡上先輩が
「西門君。何をしたの・・・・?」
「いや・・・まあ、その~。あと僕のことはレンジと読んでください。どうにもこの世界は貴族をのぞいたら家名を持つ人は少ないようなので名前で呼んでください」
と小声でお願いする。
「そ・・・そう?なら・・私も名前で呼んでくれるかしら・・・・・?」
と言われてしまう。
は、恥ずかしい。
女性を名前で呼ぶなんてやったことがない。
「わ、わかりました。それならよろしくお願いします。・・・・アイリ先輩」
最後の方はさらに小声になってしまったが、万年帰宅部だった僕にはいきなりは無理だ。
許してほしい。
そうしてエコラックさんがやってくる。
「おう。レンジ、久しぶりだな。って今日は美人3人抱えてんのか?冒険者か?なんで商業ギルドに来たんだ?」
小声にして僕は答える
「久しぶりです、エコラックさん。今日は火急的速やかに知らせたい内容があります」
と答えると事の重大さを感じ取ったのか、緩やかだった表情が引き締まり、
「わかった。個室で話そう。ついてきてくれ」
と個室に案内される。
個室に着いて僕はそうそうに彼女らと何処であったのか、彼女らの関係性、彼女らがどういう境遇かを説明した。
「そうか。しかし、一難去ってまた一難だな。ついこないだはスタンピードを解決に導いたってのに、今度は王国の戦争の話とはな。しかしなんで連れてきたんだ?説明するだけならレンジだけでも良かったんじゃないのか?」
僕は説明する。
「確かに本音では彼女らは長く危険な逃亡劇で疲れていると思いますから、できる限り早く休ませてあげたいです。ですが、ことは重大かつ慎重な対応を必要とすると思います。なのでファスペル辺境伯には僕だけで直接説明するとしても、ある程度の信憑性を持っていただくために彼女らにはエコラックさんに直接会ってもらう必要があると考えた次第です。
エコラックさんにはこれから辺境伯様に向けての手紙を急いで書いていただきたいです。
説明が大変でしたら『説明はレンジがしますが、レンジのいうことは全て事実であることを確認しています』といった内容だけでもいいです」
と説明すると。
「わかった。今日中に用意するから明日の朝に受け取りに来てくれ」
「ありがとうございます。それから相談なんですが、この街にシャワー付きの一軒家の貸し家とかってありませんか?
できれば部屋が2つ以上あって4人くらいで住める物件で」
「一応聞いておくが何故だ?」
「シャワーは完全に僕の趣味ですが、他は今の事情によるものです。
他の人には話せない秘密を抱えた4人がいつまでも民泊で生活するのはリスクが高いと思っています。なので家の中では気軽に話せるようにしたいんです。」
「なるほどな、理解した。ちなみに他の条件はあるか?」
「できれば1月あたりの予算は銀貨15枚までというのは可能ですか?」
「それだけの予算なら十分に探せるぜ。その件も任せな。今週中に用意してやるよ」
「お願いします」
そうして話がまとまり今日は休むことにした。
僕は彼女たちと僕たちが泊まっている宿に泊まってもらうことになった。
もちろん部屋は別にした。
1人1部屋で借りようとしたけど、さすがに悪いと断固拒否されてしまい、1部屋に3人という窮屈な環境になってしまった。
しかし彼女たちからすれば安全な宿で寝泊まりできるだけでも御の字とのことであった。
余談であるが、この宿は人数ではなく、部屋の数で料金が決まる形であった。
そのため大した出費にはならなかった。
僕はこの後1週間くらい不在にする可能性がある。
しかし彼女らはここでしばらく寝泊まりすることなるのだ。
そのため宿には先に1か月分の彼女らの部屋代と体を拭く桶のセット代を渡しておいた。
途中で出る場合は払い戻しもしてくれるそうだ。
良心的な設定だ。
夜になり彼女らの部屋をノックする。
「どうかしたのかしら?」幡上先輩が対応してくれる。
「ちょっと渡したいものがあるので・・・中に入っても?」
「ええ、大丈夫よ」
と中に入れてもらえる。
「僕が渡したいのは銀貨50枚の3人分。つまり150万円相当のお金といくらかの初級ポーションを渡したいと思っています」
「150万円!?そんな大金もらえないわよ!」
「安心してください。完全にあげるわけではありません。もちろん使用した金額に関しては返済等は不要です。部屋代等を既に1か月分支払っているとはいえ、食事や洋服など他にも必要なものはたくさんあると思います。
なるべく早めに戻ってくる予定ですが、いろいろと入用があるなかで、一人50万円というのは地球の感覚ならば多すぎる気もしますが、この世界は地球の物価では無いものもありますから。
1か月の生活費として計画的に使っていただければと思っています」
「わかったわ。つまり本当に必要な物だけ買って節約すれば残りの金額はちゃんと、にしか・・・レンジ君にもどるってことね?」
「は、はい。でも無理はしないでくださいね?」
唐突に名前で呼ばれて驚いてしまう。
「わかってるわ。私たちを心配してのことなのに、それを私たちが無下にしたら意味がないでしょう?節約はさせてもらうけど、無理をするつもりはないわ」
「それならいいです」
といいながら僕はポーションと生活費を渡す。
言えない・・・すでに資産が60億弱あるとは言えない。
そんなことを思いながらお互いに「おやすみ」と言いながら僕は部屋に戻った。
そういえば「おやすみ」なんて誰かに言ったのは、この世界に来て以来だ。
少しうれしい気持ちになりながら部屋に戻り休んだのだった。
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