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その後、目を覚ました2人は有栖川先輩の説明を受けて安心した様子で僕を見ていた。

僕と同じくらいの身長で胸が大き・・・いや・・・なんでもない、僕と同じくらいの身長の女子生徒が幡上 愛理はたがみ あいり。3年生の先輩だそうだ。

逆に僕よりすこし背が低そうな女子生徒が愛川 絵里奈あいかわ えりな

僕と同じ1年生らしい。


そして先ほどの身長が高くスレンダー体型と思われる先輩が有栖川先輩だ。

見事に学年が分かれている。

彼女たちはこの世界の人間がもっている身体能力強化や魔法適正向上といった一般的なスキルしか持っていなかった。

しかしそれでも戦闘訓練に積極的に参加していた者たちは徐々に実力を上げていったが、彼女らはそうならなかったそうだ。


性格ゆえなのか器用さに欠けるのかは分からないが、技能がなかなか上達しない彼女らは必然的に周りから浮き孤立していったとのことだった。

そのため僕と同じように・・・と称するの失礼な話だが、そういう人間同士で固まるようになったそうだ。

嘲笑われるのもつらかったが、自分ではどうしようもない苦しみを理解してくれる仲間がいたため何とか耐えられたそうだ。


しかしここであの悪逆王女が彼女たちを兵士たちの慰み者にしようと画策。

危うく性奴隷にされかかったところを何とか逃げ出したそうだ。


3年生の幡上先輩が言う

「性奴隷ってのは本当に比喩でもなんでもないのよ。王国は隷属化の首輪っていうものをもっているのよ。この首輪にはランクのようなものを設定することができて、これをつけられたものは、より上位の存在の指示に逆らえなくなるの。

例えば咥えろとか言われると自分の意志とは全く無関係にそういう行動をとるようになるのよ」


とんでもないものを持っているようだ。


「首輪をはめてないものがただ上位者ってわけじゃないわ。上位者は手首にバンドのようなものをはめているのよ。このバンドにある種のグループ分けとランク設定ができるの。だから別の人の奴隷には指示は出せない。同時に同じグループでもより上位の存在には逆らえないということね。」


なるほど、そういう仕組みか。


「そして偶然聞いてしまったのだけど、生徒たちのほとんどに嵌めようという計画だったそうよ。一部の悪逆な思想に染まった生徒はそのまま隷属化せず、他の生徒たちにはランク付けして隷属化させるってことらしいわ」


なんてことだ。

それが本当なら、日本にいたころよりも法律的な縛りが少ないこの世界の事情を考えればやりたい放題になる。

例えばより上位の生徒が、より下位の女子生徒に対して、兵士たちが彼女らにやろうとしたことを命ずることもできるようになってしまう。

先輩も同じことを思っていたらしく、


「当たり前だけどこれは危険な仕組みよ。単に王国から命じられるままに動くというだけじゃないわ。場合によってより上位の生徒たちが命令を下す場合もある。それは戦いの話に限ったものではないわ。日本では法律に抑圧されていた性衝動が解放されレイプが容認されるようになってしまうかもしれない」


「そんな!?」

「それじゃあ皆は・・・」

どうやらこの計画は幡上先輩だけが偶然知ることができた計画のようだ。

他の2人、有栖川先輩と愛川さんは知らなかったようだ。


「助けてあげたいところだけど、彼らから逃げるのがやっとだった私たちには無理な話よ。それどころか私たちとて、とりあえず西門君に保護してもらえるらしいけど、先行きは不透明で不安定すぎるわ」


色々と知れたことと、疑問もあるがまずは移動が先決だ。先輩たちに提案してみよう。

「とりあえずここから一番近いデミウルゴス公国の領、ファスペル辺境伯領に向かいませんか?

この森は割と穏やかとは言え魔物が全くでないというわけではありません。方法に関しては現時点では黙秘させてもらいますが、僕の力で皆さんを森の端まで移動させてますから、あと少しで森を抜けられます。

森を抜ければよく出現する魔物はスライムになりゴブリンもたまに見かける程度になりますから」


「そうね。確かに私たちが最後に見た光景とは若干風景が違って見えるわ。もう少し生い茂っていた気がするもの。どんな方法を使ったのかは気になるところではあるけれど、同じ学園の生徒とはいえあなたには私たちを助ける義務もなければ義理もないのだし、見捨てられてもおかしくない状況下で助けられたんだもの。これで秘密の詮索は恩を仇で返す行為に他ならないわ」


幡上先輩自身が分かっていることのようだが、他の2人に現状と、自分たちと僕との関係性をしっかり認識させるために牽制の意味で言葉にしたようにも聞こえる。


「確かにそうですね。西門君とて王国を追放された身。私たちが黒い瞳に黒髪なら王国の関係者を疑うべき状況です。ならその時の彼の正しい選択肢は私たちを見捨てること。なのに彼はそれをしないで助けた。なら知られたくないことを知ろうとすることは裏切り行為に等しいですね」

と有栖川先輩が答える。


「わ・・・わたしもそう思います」と愛川さんも理解してくれたようだ。


しかし彼女らは怪我をしている。まずは移動をスムーズに行うためにも怪我を直す必要があるだろう。

「まずはそれにあたって怪我を直す必要があると思います。初級ポーションですが品質が高く水を飲む感覚で飲めるので、まずはこれを飲んでください」

と初級ポーションを3本渡そうとする。


しかし幡上先輩が断ろうとする。

「そんな・・・初級とは言えポーションって確か貴族にしか手に入れられないはずよ。そんな高価なものはもらえないわ。それに流石に無傷ってわけじゃないけど歩けないほどじゃないもの」


残りの二人も首を必死に縦に振っている。


「いえ、こちらの国では高いと言えば高いですが、庶民でもなんとか手が出せるくらいの価格ですよ。まぁ『なんとか』なので庶民はなかなか手を出そうとはしませんが。それに移動がスムーズにいかなければ必然的に僕の負担も大きくなります。ここは僕を助けるためだとおもって飲んでもらえませんか?」


3人とも少し困ったような表情をしていたが、

「そう。ならそうさせてもらうわ。確かに歩けないほどではないけど痛くないわけじゃ無いしね。それによって西門君を困らせてしまうのは本望じゃないわ」

と言いながら受け取り飲んでくれた。


そして残りの2人も申し訳なさそうに、しかし納得し飲んでくれた。




優しい光に包まれながら彼女たちの傷は癒えていった。

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