1-6-α
SIDE:ファスペル
レンジ・ニシカド
アーガスト王国が異世界から勇者召喚によって呼び出された少年はおちこぼれの烙印を押されて召喚されたその日のうちに王国を追放された。
本来であれば、どこかで死んでしまっていてもおかしくない状況下の中で、運に恵まれこの領に辿り着いた。
だがその少年は私たちにこの上ないほどの利をもたらしてくれた。
最初は砂糖や塩といった調味料だけだった。しかし洗剤は革命的だった。
この世界の洗剤は泡立ちが十分ではなくしっかりと汚れを落とそうとすると衣服を傷めたり、石鹸であれば肌を傷つけてしまう。
しかしあの少年が手に入れることのできる石鹸はその常識を覆した。
心地いい香りに包まれ、サラサラになることのできる、もはや魔法の洗剤だ。
今となっては私はアレがないと不機嫌になってしまうほどだ。
私がお世話になっている公爵様に献上したところ、公爵様も同様であった。
何より私も公爵様もそうだが、それぞれ嫁が黙っていなかった。
美を追求した女性は本当に怖い・・・
簡単には手に入らないことを説明したら首を絞められたほどだ。
しかしその後にスタンピードが起きてしまった。
本来であればスタンピードが起きれば多くの死傷者が出てしまう。
だが、あの少年がもたらしてくれた物、そして知識はその常識を覆した。
死者はゼロ。けが人は出たが、それに関しても少年が予め用意していた大量のポーションによって結果的に怪我人ゼロ。
あり得ない結果だ。
それに実際には使うほどの怪我を負ったものはいなかったが、中には中級ポーションすらあった。
初級ポーションですら普通ならば入手が難しい。
少なくとも庶民にはおいそれと手が出せる物ではない。
しかしあの少年はそれを800本も用意し、貴族ですら努力しないと入手が難しい中級ポーションを150本も用意していたのだ。
しかもあの少年が今現在拠点に選んでいる街においても初級ポーション200本と中級ポーション50本の拠出がとある薬師からあったそうだ。
そして薬師は「レンジ・ニシカドという商人が持ってきた薬草と、彼の依頼のもとで作ったものだ」とエコラックに明かしたそうだ。
ということは彼は初級ポーション1000本と、中級ポーション200本を短期間で用意できるということになる。
もちろんその薬師の力も必要になるとは思うが。
彼は貴族たちに囲われるのを極度に嫌がっている節がある。
確かにこの選択は間違ったものなのかもしれない。
だがあの少年との繋がりを失くしてはいけないし、できる限り繋がりを強くしなくてはいけない。
そう思った私はマージグレイス・フォン・アルコーン公爵様に直接事のあらましを話すために、公爵領へと赴くことにした。
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SIDE:リーゼロッテ
「それで?彼らの戦力はどうなっていますか?」
「順調に育っております。なかでも勇者と剣聖の力の次元が違います」
私はリーゼロッテ・フォン・アーガスト。
この国の第一王女だ。
第一王女といっても国内においてかなりの権力を有している。
私には第一王子たる兄がいた。
優秀だが平和的な思考回路の持ち主で、他国との共存を唱えていた軟弱物だ。
両親は兄に王位を継がせたくないと考えていた。
国王も王妃も私と同様に、欲しいものは奪ってでも得るべきだと考えていた。
それゆえ兄の存在を私たち3人は疎ましく思っていた。
ゆえに私は兄を暗殺した。
私が直接手を下したわけでは無い。
だが何重にも降りていく暗殺命令をだし、足がつかないようにしつつ命令を出した。
結果、兄は死んだ。
兄を暗殺した暗殺者も捕まり処刑されている。
そして両親は表向きは激怒していたが、内心はホッとしていたようだ。
普通に行けば王位は第一王子である兄に譲渡し、わたしはどこかの有力貴族に嫁がせるのが普通だろう。
兄が王位を継承すればこの国は平和路線を歩むことになる。
それは避けたいと思っていただけあって、誰も部下のいないところでは笑っていることもあった。
どちらにせよ兄が死んだことによって残された王位継承者は第一王女である私へと移った。
そして私は国王に相談・・・・いや直談判した。
現在の我が国の力では他国を攻める力はないため、禁術指定されている勇者召喚をしてはどうかと。
禁術なだけあって迷っている様子だったが、禁術の訳を話すとあっさりと覆し、儀式を執り行うように指示をしてきた。
無能な王に導かれる我が国は風前の灯といってもいいだろう。
今はその地位に胡坐をかいているがいい。
いつかは私がその地位に就きこの大陸の覇者となるのだ。
「ならばよい。それで人格を見定めることはできたか?」
「はい。いかがいたしますか?」
「残虐な思想を持つものはそのままにせよ。それ以外の者には隷属化の首輪を奴らが寝ているときに着けよ。」
「仰せのままに」
「あと、あの無能どもはどうしている?指示通りに兵士たちにあてがったのか?」
「それが、こちらの目を盗んで脱走したようです。責任者は処分済みです」
「そうか。無能の所持品は?」
「剣と盾。あとは普段身に着けている防具類のみです。金銭は所持していないはずです」
「ならばよい。どうせどこかで野垂れ死ぬであろう。隷属化は一度に全員行え。必ず反逆者を出すなよ」
「御意」
そういって遣いは出ていく。
そう、所詮奴らは兵器でしかない。
我が国の民ですらないのだ。
ならば使いつぶしても問題ないだろう?
私は近い未来、公国を手中に収めた姿を想像しほくそ笑むのだった。
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