1-6-11

あの後、ポーションを受け取った冒険者は高品質ゆえに水を飲む感覚で飲めるポーションに驚いていた。

そしてその光景を見ていた辺境伯様は驚きの表情をほんの一瞬だけ見せた後、僕をジト目で見てきていた。


解せぬ。


アビー達とは一度ここで分かれる形になった。

彼女達は今回の討伐戦で報奨金を得られたとのことだった。

僕はホームにしていた街に戻ろうと考えているが、アビー達はまだ家族たちと過ごしたいし、今後はここを拠点に活動を始めようと考えていたそうだ。


僕の手助けがあったとはいえ、2度にわたり大規模な討伐に参加したことである程度の経験が積めて自信に繋がったそうだ。

加えて領都が危険にさらされたことを踏まえて今後は領都を守るために戦いたいと意気込んでいた。


彼女たちと再会することを祈りながら僕は領都を出ようとしていたが、辺境伯様に呼び止められた。


はて?なにか用事でもあるのだろうか?


客間に通された僕は会うなり辺境伯様から頭を下げられる。


「レンジ・・いや、レンジ殿と呼ぼう。貴殿のおかげでこの領都は守られた。それに君が拠点としているあの街も唐辛子を使った君の作戦を使って死者を出さずに乗り切ったとのことだ。領主として礼を言わせてくれ」


「領主様。僕は僕の為にやっただけです。僕はこの領に来てからいろいろな人たちに助けられてきました。その恩を少しでも返したいとおもってやっただけのことです。頭を上げてください」


「謙虚なのだな、貴殿は。もう少し強欲でもいいだろうに」


「それを過去にやって大失敗してますから。同じことはもうしたくありません」


「そうか。ならばこれ以上は言うまい。それでなのだが今回、討伐に参加してくれた冒険者にはギルドを通じて報奨金を払う形になった。しかし貴殿には私個人としても大変世話になった。ゆえに私個人からのお礼として直接報奨金を授けたいと考えたのだ」


「・・・・・・・いいのでしょうか?」


「レンジ殿、貴殿が成したことは、おそらく貴殿が考えているよりも遥かにこんなんで、そして誇るべきことだ。貴殿の活躍が無ければもっと多くの民が死んでいたであろう。ゆえにこそ受け取ってほしいのだ」


「わかりました、ありがとうございます」

そう返しながら涙を抑えるのが難しかった。

前の世界ではよくいる生徒の一人でしかなく、いてもいなくてもあまり変わらなかった僕がこの世界では多くの人を守れた。

そのことが嬉しく思うし、同時にこの国の人たちの優しさにありがたみを感じた。


「して、その報奨金なのだが大金貨50枚でどうだろうか」


「だい・・・、え?ええええええええええええ!?」


「それだけのことをやってくれたのだ、貴殿は。それに君が拠出してくれたポーションは好評だった。できることならばそのポーションを作った職人や貴殿を囲いたいくらいなのだぞ?

まあそういうのを嫌っているだろうからやらないがな・・・」


ありがたい限りだ。

まだ僕はそういうのとは縁遠い存在でいたい。

いつかはそういうのが必要になるのかもしれない。

でも今はまだその時ではないと思う。


そうして僕は大金貨50枚を受け取り、今度こそ領都を出た。

人気の少ないところでラン〇ルを出し、ホームへと戻る。

来た道をそのまま戻ればいいだけだ。

地球のように複雑な道があるわけでは無いので特に迷うことはなかった。


見慣れた景色が見えてきたところで僕は車を降りてアイテムボックスにしまう。


この大金貨50枚は僕だけの力じゃない。

ヒーレニカさんもかなりの無茶をしてくれたはずだ。

ならば彼女にも報奨金を受け取る権利があるだろう。

そう思った僕は彼女に会いに行った。


彼女は当然のように報奨金を断ってきた。

スタンピードに個人的に備えようとしたのも、作戦なども全部僕の功績だからと。

またこちら側にも余波が及んだ際に、彼女に預けていったそこそこ大量のポーションの拠出によって彼女にもギルドから報奨金が与えられたとのことだ。

元をただせば、僕のプランで大量のポーションを作り、預かっていただけだからこの報奨金を渡そうとすら考えていたらしい。


ならば僕はそれを受け取らないで、しっかりとヒーレニカさんにも、その頑張りとしてしっかりとその報奨金を受け取ってほしいと伝えると渋々あきらめてくれたようだ。


久しぶりに戻った街で、久しぶりに宿に入る。

「おお!戻ったんだね。心配したんだよ。スタンピードが起きたっていうからどこかで死んじまったんじゃないかって」

「いえ、大丈夫です。ご心配おかけしました。ご迷惑でなければ、またお世話になりたいのですが・・・」

「もちろん歓迎さ。ただししっかりとお金は頂戴するよ?」

「ははっ。もちろんですよ」

思わず笑いが零れる。


そういえば本心から笑ったのっていつ以来だろうか・・・

僕は宿屋に宿泊代を1週間まとめて払い、鍵を受け取った後商人ギルドに向かった。

事の報告と、乾燥昆布を卸しに行くためだ。


「おお!戻ったかレンジ。無事でよかった」

「ご心配おかけしました。今無事に戻ってこれました」


こちらの街でも被害はあったがヒーレニカさんのポーションのおかげ事なきを得たようだ。

「戻ってきてもらったところ悪いんだが乾燥昆布を卸せないか?デニスの店が昆布の在庫がなくなっちまって、柄の悪い客が暴動を起こしたりと大変なんだそうだ。

それから少し値上がりしてもいいから大量に購入させてくれって言ってたぞ」


「いえ、値段はそのままでいいです。とりあえず増量に関してはわかりました。

とはいえ今は手持ちがないので今日中に仕入れて明日納品します」


「そうか。戻ってきたばかりなのに仕事をさせちまって悪いな」

「商人の本懐では?」

「ハハハ、確かにそうだな」


そうして僕は宿に戻った。

夕方前にはついていたが、そのあとヒーレニカさんの店に行ったり、商業ギルドにいったりとで時間は夜になってしまっていた。



連日の騒ぎに加えて長旅で疲れていた僕は、ベッドで深い眠りにつくのだった。

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