1-6-10

辺境伯様に面会してすることにな4~5日慌ただしく動いた。

ショッピングセンターに入り必要なものを購入し、冒険者ギルドに納品しに行ったり。

そして塩や砂糖の調味料を大量に卸した代金ももらえた。


前回と同様の量を卸したので4億相当。大金貨4枚が入手できた。

これでポーション代や車代を考えても大金貨7枚と金貨5枚だ。

これだけあれば僕も家を持つことができるのではないか?

とは思ったが、現在の僕はしっかりと根を張りたい場所があるわけでもない。

フットワークが軽いのが現在のいいところだ。

どんな家を持つのがいいのかも分からないし、当面はいろんな宿に泊まる形にした。


また辺境伯様から別の日に僕自身の状態について聞かれた。

要はあまりにも身綺麗でいい匂いもしていたためどういうことかと質問されたのだ。

異世界の石鹸で洗った効果であることを伝えると、それも欲しいと懇願された。

そのためそちらも卸したりすることになり試し洗いや本格的な購入でそれだけの期間を要してしまったのだ。


ちなみにその本格的な購入で、貴族などに売りつけたりすることを想定していたらしくかなりの数を購入していってた。

その結果大金貨2枚が追加され、僕の資産は10億弱にまでたまっていた。


その後はアビー達と再び魔物の森に討伐にいったりということをやっていた。

もちろんアビー達にも洗剤のことなどについて聞かれたので、答えた結果、どうなったかは言うまでもないだろう。

あくまでも家族内だけで使うことを条件にして渡した。

彼女たちからはショップで売られている金額の小銀貨1枚分の利益だけもらった。


辺境伯様も個人的な利用であればそれくらいで提供することを考えたが、彼の場合は商売も絡んだものであったため、こちらも利益を追求させてもらった。

そうこうしている間にヒーレニカさんと約束した1週間がたったため、アイテムボックスを確認すると注文した初級ポーション1000本と、中級ポーション200本が納品されていた。

僕は受け取りのサインをしつつ手紙を添えて彼女と共有しているアイテムボックスに初級ポーション300本と、中級ポーション50本を戻した。


彼女には一つの依頼をさせてもらった。

スタンピードによって町が被害を受けた場合は、そのポーションで街の人や冒険者、兵士たちを癒してあげてほしい、と。


とはいえ人口密度がこちらの方が高く、それゆえに大量の魔物が押し寄せ被害が大きくなることが予想される、領都にいる僕の方にポーションを大量に確保させてもらったというわけだ。


何はともあれ、これでできることはやり切った。

あとは事が起こった時に迅速に動けるようにするだけだ。



・・・・少し呑気なことを思っていたら、その時がやってきた。

事の始まりは冒険者ギルドにいくつかのパーティーが駆け込んできたことだ。

魔物の大氾濫が起きたとの知らせが入り、一気に街中に情報が伝わった。


辺境伯様は軍隊を出動させ、冒険者ギルドも対応に協力する運びとなった。

宿で休んでいた僕は宿の人から避難するようにと言われたが、冒険者ギルドのカードを見せて冒険者ギルドに合流することを伝えると、驚きながら「お気をつけて」と言われた。


僕は冒険者ギルドに向かうが、ギルド内は既に閑古鳥がないているような状態で動ける冒険者はすでに魔物の森と街の間に構築された防衛拠点に向かったとのことだ。

場所を問い合わせ僕もそこに向かうことにした。


「レンジ!来てくれたのね!」

到着すると多くの冒険者や兵士たちがいるが、その中に見知った顔を見つけた。

アビー達は既に領都防衛のために陣地に着いていたのだ。

「もちろんだよ。僕もこの1週間、なにもしてこなかったわけじゃ無い。僕にできる手をできる限りで打ってきたんだ」

「レンジの考えたことなら安心ね!」とアビーは喜ぶが、

「確かに心強いのは賛同するけど油断は禁物よ」と長刀使いのジャネットが窘める。


その会話を聞いていたのか冒険者ギルドのマスターが近づいてくる。

「レンジ。来てくれたんだな。安心したぞ。あの作戦はやり方は大まかには聞いているが、細かいことは分からん。一応いくらか先の脇に穴を掘って、くだんの鉄の桶を仕込んではある。ここから先はどうすればいい?」

「冒険者ギルドに納品した大量の油は持ってきていますか?」

「勿論だ。作戦に必要なものであることは聞いていたからな」

「ならそれを桶が最低でも5分目になるまでひたすら注いでください」

「溢れかえるくらいじゃなくていいのか?」


「サラマンダーが入った後、その分の体積が増えて満水レベルまで行くはずです。大量に納品したとはいえ無尽蔵にあるわけでもないので、まずはすべての桶に5分目が入ることが条件になります。そのあと余裕があれば追加で注いでいけばいいかとおもいます」


ギルドマスターは頷いている。


「あとはもう少し前線を上げましょう。唐辛子と風魔法を使った戦法で、先に来るであろうゴブリンなどを駆逐する必要がありますから。ある程度間引いた状態でなければサラマンダーの誘導も難しいと思いますし、ここまで接近されたら誘導どころではなく、ひたすらに逃げるしかなくなります」


「わかった。そういうことなら前線を上げよう。俺は指示を出してくるからレンジは一応待機しておいてくれ」

「わかりました」


そうして防衛陣地には最低限の人員だけのこして残りは前線を上げる形で前にでる。

それと同時に脇に設置され、のちにサラマンダーを誘導する罠の桶に大量のサラダ油が注ぎ込まれる。


そして上がった前線と魔物の森との間に大量の唐辛子の粉が入った袋が等間隔に置かれる。

魔物の大群が接近してきたらまずは風魔法で巻き上げる作戦だ。


そうして迎撃準備が終わり僕たちは待つ。

5分なのか10分なのか1時間なのか分からない。

誰もが緊張しながらその時を待つ。


「レンジ。大丈夫よ。レンジが考えた作戦ならうまくいくはず。これだけの戦力もそろってる。きっとサラマンダーが出てくるまでは、あの時みたいな一方的な蹂躙になるわよ。もちろん油断しすぎもダメだけどね」


とアビーが安心させようとしてくれる。

そうだ。僕は今、王国に召喚されたときのように一人じゃない。

少なくともアビー達、信頼できる仲間がいる。

辺境伯様が用意してくれたたくさんの戦力がある。

この日の為に慌ただしく準備し続けた。

ならあとはやるべきことをやるだけだ。

覚悟は決まった。



そしていよいよ耳障りな鳴き声が聞こえてくる。

スタンピードが森の外に向けて押し寄せてきたのだ。

あの時は30体強のゴブリンであったが、今回は軽く見ただけで500体は超えているだろう数だ。

もしかすると1000体以上いるのかもしれない。

魔物たちがどんどん近づいてくる。


そして範囲内ギリギリになったところで魔法が使われる。

「「「「「「「ウィンドストーム!」」」」」」」


そして唐辛子の粉がぶちまけられる。

そこから先はあの時見た光景と同じであった。

ゴブリン・ウルフ・オークはのたうち回りながらもがき苦しんでいる。

作戦の効果を見た多くの冒険者や兵士は唖然としているようだ。


しかしこの機を逃すまいとアビーは全体に言い聞かせるように言い放つ。

「今が好機よ!向かってくるスライムを迅速に倒しつつ一気に殲滅するわよ!」


その言葉と同時にアビーをはじめ僕も含めたパーティー全員が突撃し始める。

ルーシーは既にファイアボールを形成しスライムへの攻撃を開始している。


「そ、総員!突撃!魔物を駆逐しろーーー!」


自分たちよりも年齢が低い少女たちが真っ先に攻撃に出たのを見て、慌てて駆け出す冒険者や兵士たち。

そうして僕らは魔物を殲滅し、殲滅が終わると後退し、再度襲い掛かる別の集団に唐辛子の粉を巻き上げて殲滅。

この工程を繰り返し続けた。


「このえげつねえ作戦を思いついたのはどこ野郎なんだか・・・」

「馬鹿野郎文句言うんじゃねえ。そのおかげで俺たちは生きてられんだぞ」

と話す声が聞こえる。


確かに今現在は転んだりどさくさでの怪我がある者はいるが、死人は出ていない。


1時間くらいが経過しようやく一度落ち着き始めた。

一息ついていたと思うと


「ゴアアアアア!!!」と何かの叫ぶ声が聞こえた。

すかさずギルドマスターが叫ぶ。


「いよいよサラマンダーのお出ましだ!各員第二作戦通りに動け!」


その指示を聞いたいくつかの冒険者が前に出る。

いずれも接近戦型で比較的小さな盾を持った冒険者たちだ。

彼らの役割は罠の場所までサラマンダーを誘導すること。

なのであくまでも攻撃は目的ではなく、囮として牽制と防御をしながら移動するのが役割のため足の速さとある程度の防御力を主体に置いた臨時パーティーだ。


引火を避けるため後衛の魔法使いはその時が来るまでは風魔法や土魔法を使っての援護となる。


そして森からいよいよサラマンダーが出現する。

全長が5メートルに達するのではないかと思う巨大なトカゲだ。

情報通り一部は火を吹きだしている。

餌を求めてか誘導役の冒険者に群がり始める。

冒険者はベテラン集団らしく、うまく分散しながらそれぞれのサラマンダーを罠の方に誘導していく。


誘導役の冒険者が軽装なのはもう一つ理由がある。

罠には蓋をしてあるが、誘導役が通る際に割れてしまうようでは意味がない。

そのためサラマンダーの巨体というか重量には耐えられず割れてしまうが、軽装の冒険者が通る分には割れない程度の蓋をすることにした。


そしていよいよサラマンダーが罠を通る


――バキンッ!――


そんな音がしながら蓋が割れサラマンダーが油の中に落ちる。

すかさず這い上がろうとするが、油で滑りやすくなっているうえに足元が薄手とはいえ鉄だ。

ゴムとは違うため余計に滑っているようで這い上がれない。


ギルドマスターが叫ぶ

「第二作戦第二段階発動!魔法使いはデカイ火球を油の中にぶち込んでやれ!」


「「「「「「「ファイアボール!」」」」」」」


そして大量の油に火が付きサラマンダーは火あぶりにされる。

流石にあの巨体なだけあって生命力は強いようだ。

「ゴアアア!!!」

「ギギギギギギ!!!」

「グルアアアア!!!」

と悲鳴?をあげていたが、それも段々と弱くなりやがて聞こえなくなった。


そして辺り一帯に静寂が訪れた。


「勝った・・・のか?」

誰かが呟く。

「勝った・・・」

「俺たちは勝ったんだ!!!」

その言葉をきっかけにして辺り一帯が歓喜にあふれる。


結果を見れば大成功と言わざるを得ない。

討伐が終わった段階で改めて確認してみたが、ある一帯だけで魔物の死体が100を超えている場所がある。

そしてそういった場所が13か所は見えている。

僕が見えないところも含めればもっとあるのだろう。


つまり魔物の数は1000を超えていたということだ。

確かに唐辛子作戦から回復した魔物との戦闘によりけが人は出ている。

だが死者はゼロだ。

1000を超える魔物の襲撃を受けて死者がゼロというのは喜ぶべきことだろう。


辺境伯様も戦場に来ていたようで、僕と目があう。

頷き頭をわずかに下げる様子が見えた。

僕も頭を、他に人に気づかれないようにしつつ下げて、同時にポーションの瓶を手に取りアピールする。


辺境伯様は気づいたようだ。

「諸君!君たちのおかげてこの領都は守られた!君たちの勇気と奮戦に感謝するとともに、こちらで用意したポーションを提供する!怪我をしたものは取りに来るように!」


そう、僕が最終的に受け取ったポーションの9割は、辺境伯様に預ける形にしたのだ。

一介の商人あるいは冒険者である僕が出すと悪目立ちしてしまう可能性がある。

そこで辺境伯様が拠出するという体裁をとったのだ。




そうして怪我人は出てしまったが犠牲者はゼロに抑えられた魔物防衛戦は大成功を収めたのだった。

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