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大泣きしてしまった後、ようやく落ち着いた僕は改めてラン〇ルを出した。


「これは僕の世界にあった自走する車なんだ。馬のように引く必要はない。

加えて鉄でできていてとても頑丈な乗り物で、短時間で長距離を移動できる乗り物なんだ。前の世界ではガソリン・・・特殊な油が動力源だったけど、この世界でのこれはなぜか動力源がなくても動くみたいなんだ」


他の人でも動かせるのか気になった僕は、鑑定を使えばわかるのではないかと思い確認してみた。

すると『所有者が認めた者のみが動かすことができる』とあった。スキル様様だね。


そのことも追加で伝えると、一様に驚いていた。


「ははっ。レンジってば本当にびっくり箱なんだね!」


いや・・・その呼び方やめてほしんだけど。


「なにはともかくこれなら辺境伯領まで今から出発しても夕方にはつけると思う。多分だけど早馬よりも速く走れるだろうからね」


「そっかー。びっくり箱だと思ってたけど覚悟が足りなかったみたい。これからはレンジのやることだからってことにしておくね」

と言われる。解せぬ。


その後僕たちは車に乗って領都付近の草原まで移動することにした。

「すごいわね。レンジの世界の乗り物は。馬車っていうと固い椅子に座っての移動になるから基本的にお尻が痛くなっちゃうのよね。それにずっと同じ姿勢だから次第に体中が痛くなるし。なのにこの乗り物の椅子はふかふかだし、揺れ自体もそんなに大きくない。これ・・・もし貴族が知ったら欲しがるわよ?」


言われて気づいた。もし僕の秘密が守ってもらえそうであれば公爵家に対してこの車を献上するのもいいのかもしれない。

候補の一つにしておくことにして移動を続けた。

時折人気が多くなる場所に関しては迂回して移動した。

ゴブリンやスライムが出てくることもあったけど、少数だったのと頑丈なこの車で跳ね飛ばしてしまったため特に問題はなかった。

元々かなりのスピードで移動していたのだ。


どっちが飛び出したのかは知らないけど、

飛び出しダメですよ、ゴブリンさん、スライムさん。


そんな移動を繰り返し、予定通り夕方前に領都付近の草原に辿り着いた。

ここからは徒歩移動だ。

当然だがこんな自走する鉄の塊で街の門まで行ったら大騒ぎになる。

彼女たちもそのことは理解していたらしく、頷いて降りてくれた。


ここからの予定を簡単に組み上げる。

僕の方は辺境伯に直接会う必要がある。

屋敷の門番に取り次ぎを依頼すれば明日明後日とはいかずとも近いうちに会ってくれるだろう。

というか早くしてくれないと焦りそうになる。


一方で彼女らは大切な仲間ではあるが、辺境伯様に直接会う理由がない。

それに加えて彼女たちはこの領都の出身だ。

家族もいるだろし、久しぶりに会いたい気持ちもあるだろう。

それにこの地出身ならある程度の値段で泊まれる民泊を知っているだろう。

加えてできることならシャワー付きの宿に泊まりたいところだ。


そう思い聞いてみることにした。

そして案の定知っていた。

民泊にしてはわりと高い宿らしく一泊銀貨5枚するらしい。

5万円相当とはいい値段だな。

この領都でも庶民はあまり手が出せないとのことだったが、今の僕にはそれくらいなら問題なく泊まれるだけの資産がある。

その宿の場所を聞き、そこに泊まることを伝えて彼女たちと別れる。


領都の冒険者ギルドや商人ギルドは情報としては僕のことを知っている可能性はあるだろうが面識があるわけでは無い。

いきなり行ったところで門前払いをされてしまう可能性は否定できない。


大して辺境伯様であれば面識がある。

それに辺境伯様からの紹介状を持っていけば、門前払いを受けることもないだろう。

今日のところは宿に泊まり、明日辺境伯様の屋敷に行くことにしよう。


宿に着きとりあえず1泊したいことを伝える。

「部屋はいかがいたしますか?各個室にシャワーがついている方は銀貨8枚。共用のシャワーを使用される場合は銀貨5枚になります」


と言われたので銀貨8枚を支払うことにした。

というのも地球に居たころのシャンプーやボディーソープを使いたかったからだ。

加えてそろそろ服をしっかりとした洗剤で洗いたかった。

ふろ場で洗うのはマナー違反なのかもしれないが、そろそろ限界に達していた。

物が無ければあきらめもついたであろう。

しかしものがある以上あきらめられるものではなかった。


渡された鍵の部屋に入るや否や、まっすぐシャワー室に直行する。

今まではシャワー室なんてなかったがあきらめがついたが、目の前にそれがあるのだ。

最早我慢の限界であった。


久々にシャワーを浴びる。

地球に居たころは毎日洗っていたから1回でそこそこの泡立ちになり、すぐに汚れは落ちた。

しかしこの世界に来てからというものの、そんな機会はなくかれこれ2か月弱経過している。

そのため1回では泡立たず、2回3回と洗ってようやく泡立つようになった。


久しぶりに身綺麗になった気がする。

しっかりと洗った服に着替えることができないのが残念なところではあるが、それは致し方ない。

洗ったところで直ぐに乾くようなテナント・・・コインランドリーみたいなものを持っているわけでは無いし、あきらめるしかない。

体だけでも綺麗にできただけでも良しとしよう。


明日は辺境伯様にお会いする約束を取り付ける日だ。

寝坊して夕方になってしまったら意味がない。

今日は早めに休むことにした。

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