1-5-9
街に戻り、1時間後に冒険者ギルドの前で待ち合わせをすることになった。
彼女たちは一度拠点に戻り着替えてくるそうだ。
確かにあの格好のまま街を出歩くのは、あまりよろしくない。
その後はギルドでパーティー加入の手続きをし食事処で歓迎会をやる予定になっている。
1時間の時間の間に僕はヒーレニカさんの店に行く。
目的は2つ。
一つは彼女にも僕の秘密の共有者になってもらうことが一つだ。
商人ギルドが紹介してくれた彼女だ。
僕の情報を漏らすということは、間接的に商人ギルドを裏切るということにつながる。
そう簡単には情報を漏らさないだろう。
もう一つはそのうえでポーションの供給量を増やしてもらうことだ。
より厳密にいえば薬草をたくさん仕入れてたくさん作ってもらう寸法だ。
ファスペル辺境伯も言っていたが、魔物の森からスタンピードがあふれてくることが可能性としてあるそうだ。
だとすればその時は普通に考えれば相当の死傷者が出ることになるだろう。
だがその時に初級ポーションでも大量のポーションがあれば救える命もあるのではないだろうか。
加えて今日、アビーたちがポーションを飲んで数は多くとも傷の浅いものは瞬時に治っていた。
ポーションの必要性を再認識した以上、手をこまねいているわけにはいかない。
ヒーレニカさんの店に入ると
「お久しぶりです。元気にしてましたか?」と声をかけてくれる。
挨拶をしつつ僕は辺境伯様に会う用事があって少し街を離れて領都に行っていたことを説明。
そして誰にも話さないで秘密にしてほしいことを伝えて、約束してもらい、
彼女にも僕の秘密を明かした。
話を聞いていた彼女は驚いていた。
だがその次に僕が放った言葉でさらに驚いていた。
「ヒーレニカさん。これから他の依頼が無い時に初級ポーション1000本と中級ポーション200本を作ってください」
「・・・・・・・・・・・・なぜでしょうか?」
疑問に思うのも当然だ
「ファスペル辺境伯はスタンピードも起こりうると言っていました。
ですがそういうことが過去にあっただけの話ならばそう言えばいいだけです。
しかし可能性を示唆したということはそれが高まっているということだと思います」
今日のゴブリン遭遇戦もそうだ。
いくら森に入っていたとは言え外縁部で街道からそう遠くない距離だ。
そこにはぐれたゴブリンであればまだしも、グループを形成したゴブリンがやってきていたのだ。
だとすればスタンピードの可能性は高まっているとみるべきだ。
可能性が高まっているのであれば、ただ座って様子を見守っているだけというのは愚策だろう。
「僕のスキルを使えば材料の確保は簡単にできます。
手間賃としての初級ポーション1本銀貨1枚、金貨1枚。
中級ポーション1本大銀貨1枚、金貨2枚。
計金貨3枚も用意できています。
勿論、実際に作っていただくのは仲介書を用意し金貨3枚を渡してからにはなりますが」
長い沈黙のあと静かに答えてくれた。
「わかりました。そういうことならあなたを信じましょう。
私は友人を魔物によって失いました。
傷ついた人たちを癒せるようになりたい。
そう思ったからこそ薬師を目指しのですから、ここで動かなければ私は過去の私に顔向けすることができなくなる」
静かだが強い決意が感じられた。
明日また来ることを伝えて僕は店を後にした。
もうそろそろ1時間立つ頃合いだろう。
そうおもってギルドに行くとすでにアビーさんたちがいた。
「すいません。待たせてしまいましたか?」
「いいえ。私たちも2~3分前に来たばかりよ。それじゃあ早速だけどギルドでパーティー加入の手続きをしましょうか」
冒険者ギルドに入り手続きをしようとする。
しかし僕の顔を見た担当者があわててギルドの奥に行ってしまった。
---これ、何回目何だろう---と思っていると
「あんた、一体なにしたのよ?」とアビーが聞いてくる。
どう答えたらいいのか迷ってるうちにマスターのトレーンさんがやってくる。
僕たちは個室に通された。
「そんで?何かあったのか?」
「いえ森でゴブリンに襲われて危ない状態の彼女たちに手を貸したら
、パーティーに入れてもらえることになりまして。その手続きに来ただけなんですけど・・・」
「本当にそれだけか?商人ギルドマスターや辺境伯様からはお前さんはびっくり箱だと思っておいた方がいいと言われたんだが?」
「え・・・いや、そのー」
「まあいい。それなら後で手続きしてやる。んでこいつらはお前の事情を把握してるのか?
僕は首を横に振った。
「そうか。ま、お前さんがそれでいいと判断したなら文句はねえさ。
あとお前ら。別にこの坊主が悪いことしたわけじゃねえ。
こいつの身元は保証してやる。ただあくまでもこいつの使える力をどこまで話してもいいのかっていう話だ。
悪いようにはしないでやってくれ」
アビーさんは戸惑いながらも頷いてくれた。
「そんで?今日はそれだけか?」
「はい。現段階でギルドにお願いするのはそれだけです。あとは僕個人の方で勝手に動いているだけですから」
「ちょっと待て、話を聞かせろ。お前さんの情報は聞き逃すと後が大変そうだ」
僕は自分の考えを話した。
ファスペル辺境伯がスタンピードを過去の産物として語るのではなく、現実に備えようとしていること。
街道からそれほど遠くない場所でゴブリン10体を超える(死体も混じっていたが)グループに出くわしていること。
それらのことから考えてスタンピードの予兆では無いかと考えて、ポーションの大量発注に踏み切っていること。
説明を聞いたトレーンさんはしばらく固まった後長い溜息の後に言葉を発した。
「そういう情報はギルドにもおろしてほしいんだがな・・・
いや、ポーションの件はまあいいんだ。
街道近くに魔物の集団となればやはりスタンピードの予兆の可能性は高い。
となるとその情報は見逃すことはできねえわけだ。
やっぱり先にお前さんのやってることを聞いて正解だったな・・・」
「アハハ・・・」と返してしまうと
「アハハ・・・じゃないんだよ。そういう情報こそ真っ先に連絡しろよな」
と注意されてしまう。
「なんにしても助かるぜ。そうなるとポーションの数が必要になるからな。お前さんの詳しい力まではしらんが、辺境伯様が目にかけるってことはお前さんにはそれをどうにかする手段があるんだろうよ。
いざってときは頼りにさせてもらうぜ?」
と言われる。
その後、歓迎会をやるために僕たちはギルドをあとにして食事処へと向かった。
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