1-5-8
「痛い!離してー!」
「やめてー!触らないでー!」
「いやあああ!誰か助けてーー!」
草陰からそっと覗き状況を確認する。
やはり女性冒険者とゴブリンのグループだ。
周辺にはゴブリンの死体がいくつか転がっている。
大して女性冒険者は既にいくらか怪我を負っており、着ていたと思われる防具は外されて、服を一部破かれている。
このままでは先ほどの危惧は、あと数分で現実のものとなるだろう。
どうする?どうやって助ける?
ゴブリンはまだ9体いる状態だ。
大して僕は一人。
一番可能性が高くなるのは助けた冒険者が直ぐに復帰し応戦してくれる可能性だ。
そうなると手数を重視したほうがいいだろう。
双剣が転がっている女性冒険者に近い位置へ、静かに、しかし素早く移動する。
敵はまだ取り巻きたちが警戒している。
ならばことに及ぶ直前こそ一番気が緩むはずだ。
焦る気持ちを抑えて、声を抑えながらその時が来るのを待つ。
そして徐にゴブリンがふんどしのようなものを卸し始めたタイミング草陰から飛び出し、剣を構えながら一気に距離を詰める。
ゴブリンの生態などは知らないが、人と同じような形を模している以上、頭が急所ではないことは考えにくい。
切るという動作には慣れていないが、スライムの核にむけて突きをし続けた僕の現在の得意技は突きだ。
剣が届く距離になったところで、込められる力を込めて剣を突き出す。
幸いにもゴブリンの頭はスライムと同じくらいの大きさだ。
そのため外すことはなかった。
この数を一人で相手にするのは不可能だ。
そう思った僕は次に別の人にまたがっていたゴブリンへ向かいながら叫ぶ。
「僕だけじゃ全員助けられません!あなたも早く武器をとって戦ってください」と
双剣使いに叫びながら2体目を倒す。
そのまま3体目に向かう。
ここで茫然としていた取り巻きたちが我に返る。
3体目を倒す。
4体目に向かい始めたころに、4体目も思い出したかのように武器を拾おうとする。
同時に取り巻きたちがこっちに群がり始める。
だがそちらはいったん無視だ。今は1体でも多く削り取る。
急いで4体目のもとに向かい剣を突く。
そうして不意打ちの奇襲で何とか倒せた。
残るは5体・・・・・
と思いきや最初に助けた双剣使いが先頭に復帰しており5体目を倒していた。
よし!これならこちらが5人に対してゴブリンは4体だ。
あともう少し削ることができれば、うまくいけば全滅させることは難しくともゴブリンを追い払うことはできるだろう。
そう思っていると
「ファイアーボール!!!」
魔法使いと思われる女性が攻撃魔法を放つ。
火球はゴブリンに飛んでいき1体が丸焦げになりながら絶命した。
そしてファイアーボールがゴブリンに着弾する直前に僕は駆け出していた。
ファイアボールは右から2番目のゴブリンへ向かっている。
ならば僕が狙うのは一番左のゴブリンだ。
火球が着弾した直後にそれに気を取られていたゴブリンを倒す。
しかし左から2番目に位置していたゴブリンとの距離が近い。
このまま攻撃に出る隙はない。
僕は盾をしっかりと構えてゴブリンの攻撃を受けとめる。
ぐっ!!確かにスライムよりも強い。
だけど受け止められないほどじゃない。
そうして耐えている間に、長刀使いの女性が横から切りかかり8体目が倒される。
不利を悟ったのか最後の9体目が逃げようとするが、もともと長刀使いのカバーの為か動いていた、最後の一人が逃げようとした9体目を倒した。
初めての殺すか殺されるかの戦闘。
スライムとの時は幾分の余裕はあったが、一切余裕のない戦闘を行った僕はそのまましりもちをつくように座り込んでしまった。
「ありがとう・・・助かったわ」
双剣使いの女性が話しかけてくる。
「いえ・・・本当なら一人で全部倒せたら格好良かったんだと思いますが、僕はまだ冒険者を始めて2日で・・・すいません」
「2日!?それでしっかりとした装備を整えられるの?」
そういえば何も紹介してなかったな。
「初めまして、レンジといいます。本業は商人をやってます」
自己紹介すると納得したようだ。
「なるほどね。
商人が本業なら始めて2日でしっかりとした装備を整えられるわけね。
私はアビー。このパーティーのリーダーを務めているわ」
それで?あなたの仲間はどこにいるの?
できれば仲間の人にもお礼を言いたいのだけれど」
「いえ、僕は一人で冒険者をやっていて・・・」
「一人で!?それはダメよ!危険すぎるわ!」
分からない顔で見ていると若干呆れの混じった声で説明してくれる。
「いい?冒険者というのは死と隣り合わせよ。
私たちみたいにパーティを組んでても、さっきみたいに死にかけるパターンも珍しくない。
一人となればなおさらよ。1つの小さなミスがそのまま死に直結するの。
誰もそのミスをカバーしてくれる人がいないからね・・・」
なるほど言われて納得した。
確かにそうだ。
今回はうまくいった。
でも常にそうなるとは限らない。
どこかで行動を、判断を、小さなミスを1つ下だけで僕は死ぬことになるかもしれないのだ。
秘密を守るためには一人がいい。
そう判断してしまったことを恥じた。
何にせよ詳しい話をするにしても、まずはこの場所から移動したほうがいいだろう。
この倒したゴブリンの死体も餌となって別の魔物がよってくることもあるようだ。
しかし彼女たちは怪我をしている。それもそこそこ酷い怪我だ。
物によっては傷跡が残るかもしれないものもある。
そう思った僕は初級ポーションを渡すことにした。
渡された物を見て驚いている。
「ポーション!?こんな高いものもらえないわ。自力で街に帰るくらいはできるし街に帰ったら薬草を使って手当てするからいいわよ」
と断られそうになるが、ここで見捨ててあとで傷だらけの彼女を見ることになっても目覚めの悪い結果だ。
そう思った僕は交換条件を付けてみることにした。
「いえ、受け取ってもらっていいです。ですが代わりに・・・といっては何ですが僕をあなた達のパーティーに入れてもらえませんか?
商人としてある程度の資金はありますから初級であればポーションの供給もできると思います。
代わりに僕が強くなるのに協力してくれませんか?」
と言ってみる。
彼女たちは顔を見合わせた後、頷いて
「ありがとう。そういうことなら受け取らせてもらうわ。
それから任せて頂戴。
私たちが教えられる範囲であれば教えるし、これからさき協力できることなら協力する。」
お互いに納得してもらったところで早速ポーションを飲んでもらった。
するといたるところに擦り傷や切り傷のあった彼女達の体が治っていく。
ポーションって凄いんだな・・・と思っていると声を掛けられる。
「あのさ、助けてもらって悪いんだけどあんまりジロジロみられると恥ずかしいのだけど・・・」
顔を赤くしながら言ってくるアビー。
「ごめん!ポーションで治るところを始めてみたからつい」
と謝る。
確かにそうだ、ただですら女性をマジマジと見つめるのはあまりよろしくない。
それに加えて彼女たちはいま服やらなにやら、いたるところが破けている状態だ。
確かにそこをマジマジと見つめられたら恥ずかしいことこの上ないだろう。
その後は急いで街道にでてそのまま街へと帰還することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます