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「冒険者か・・・確かに王国と争いながら友人を助けるためには武力が必要だろう。だが冒険者は商人とは違う。
商人は一度の失敗で商人をやめざるを得ないところまで行きついてしまうことがある。
だがそれだけだ。
冒険者は小さなミス一つがそのまま死に直結する可能性があるぞ。
「わかっています。
もし友人を含めて同級生たちがあの国の兵器として呼び出されたというなら、
今後、最悪の場合は彼らと対立し戦う可能性もあります。
でも、僕は彼らを助けたい。そして僕にできるならばそれ以外の人も助けたいと思うんです。
今のままじゃ子供の夢物語だってことは理解しています。
でもあきらめるのはいつだってできます。
なら今はあきらめるべきじゃないとも思うんです」
「そうか・・・
そこまでの決意が固いなら冒険者業をやってみると良い。
ただし当面は自分だけの人脈を駆使してやってみなさい。
私が手助けすること自体は簡単だが、それでは君の力にならない。」
言われるまでもないことだった。
辺境伯領の戦力はあくまでも辺境伯領を守るための物だ。
例え、僕が辺境伯領にとって有益になりうる人物であったとしても、
王国の兵士やそれこそ利用されている勇者集団と戦うのは命がけとなる。
僕の我儘で彼らの命を無駄にするわけにはいかない。
しかし現状では商人向けのスキルしかない状態だ。
僕が辺境伯に求めている手助けは、冒険者ギルドへの紹介状だ。
商人ギルドからの紹介状では弱い部分があるだろうが、
辺境伯様からの紹介状となれば冒険者ギルドも無視できないだろう。
権力を乱用しているように見えてしまうが、これくらいなら交渉の範囲だろう。
「もとより辺境伯様が持っている戦力に頼るつもりはありません。
僕が辺境伯様にお願いしたいのは冒険者ギルドへの紹介状です。
もし冒険者ギルドのギルドマスターが僕の秘密を守れるならば、その人に僕の素性や今持っているスキルも話していただいても大丈夫です。」
そこまで言うと領主様はとても驚いた様子であった。
「なぜそこまで信用できるのかね?」
「答えは簡単です。もしあなたが利権などに目がくらむ貴族なら、このような話に付き合わず僕を取り込むための話を真っ先にしているからです。
もちろん計算があってのことだとは思いますが、それでもこちらのことを考えてくれるだけでも信用に値すると思いました。」
領主様は再び少し驚いたような表情を一瞬したかと思えば、優しく微笑んだ。
「そうか。ならばその信頼にこたえるべきであろうな。それが君の為にもなり、わが領の為にもなり、そして国の為にもなるであろう。
しかし重ねて言うが、私は、君が冒険者をやることに対して直接的な支援は行わない。
私が支援するのはあくまでも商人の君に対してだ。
その伝手として、冒険者ギルドに紹介するだけだ。いいね?」
「わかりました。それでお願いします。」
そして僕たちは握手を交わした。
そう思ったときに頭の中であの音が鳴り響いた。
まさかと思ってステータスを確認する。
『条件を満たしました。スキルが解放されました』
『商人の絆が解放されました』
辺境伯様とエコラックさんが怪訝な表情をしている。
僕は新しいスキルが解放されたことを伝え、すぐに確認したいことを伝える。
2人は頷き、待ってくれるようだ。
ステータスの『商人の絆』を確認する。
【商人の絆】
一定以上の信頼値で結ばれた相手と、商人の絆を持っている人物のレアスキルまでのスキルを1つだけ共有できる。
ユニークスキルは共有できない。
レアスキル?
ユニークスキル?
僕の持っているスキルは現在のところ以下の通りだ。
・アイテムボックス(時間経過あり)
・鑑定
・異世界のショッピングセンター
・商人の絆
この4つだ。
ここでふと思った。
僕の持っている鑑定は人や物、そしておそらく魔物の類に対してもできるはずだ。
だがもしかしたらスキルに対してもできるのではないか。
そう思ってスキルに対しても鑑定を行ってみると可能だった。
その結果判明したランクは
・アイテムボックス レアスキル
・鑑定 レアスキル
・異世界のショッピングセンター ユニークスキル
・商人の絆 ユニークスキル
そして商人の絆にもう一度鑑定をかけて詳しく見てみると、現在スキル共有化ができる人が出てくる。
・エコラック・バーザス
・レッサーモンド・フォン・ファスペル
・天神 勇也(スキル解放後に近くにいない為、再度接触する必要あり)
・九条 愛美(スキル解放後に近くにいない為、再度接触する必要あり)
となっている。
ここで考えてみる。
僕はエコラックさんと辺境伯様を信用することにしたわけだ。
そしてエコラックさんも辺境伯様も僕を信頼しようとしてくれているのだろう。
だから二人とのパスができた。
天神君と九条さんも信頼度は達成しているが、スキル解放後に近くにいないから無理なんだろう。
最初にお世話になったロッサリーさんは僕の方からは信頼しているが、ロッサリーさんからの信頼が不十分なのだろう。
そして気になったのが重川君の存在だ。
僕の方としては今まで信頼していた。
しかしこのリストに無いということは、重川君は僕を信頼していないということになる。
だとすると今後、重川君を信頼するのは危険である可能性が高いというわけだ。
そしてある意味これは指標ともいえる。
今後、このリストに載った人には僕は今まで秘密にしてきた、このスキルや出自などに関して話したとしても秘密にしてくれる可能性が高い人たちということになる。
そこまで考えて僕は二人を待たせていることに気が付いた。
慌てて把握したスキルの内容を伝える。
同時に二人がその対象になっていることもだ。
「商人の絆というスキルが解放されたようです。
一定以上の双方からの信頼を築き上げると僕が持っているスキルを、その人と共有できるようです。
今現在、僕が2人と共有できるスキルは、鑑定と時間経過ありのアイテムボックスになります」
「!?」
「!?」
疲れたような様子で2人が言う。
「さっきの勇者召喚でも心底驚いたというのに、再び驚愕させられるとはな」
と辺境伯様が
「もうお前さんはびっくり箱そのものだと思った方がよさそうだな」
とエコラックさんが
いや・・・びっくり箱って・・・
何にしてもこのスキルは助かる。
これから先僕は冒険者としていろいろな場所で活動を始めていかなくてはならない。
このスキルがあれば2人との物のやりとりは実質距離なんてないようなものだ。
エコラックさんにはとてもお世話になったし、辺境伯様には僕の秘密を守ってもらえるだけでなく対等の関係で取引しようとしてくれている。
なによりこの領は僕の第二の故郷と言っても差支えがないくらいに身近に感じている。
冒険者として活動する間、この領のことが完全に後回しになってしまうのは心苦しい気持ちだったのだ。
僕が得られたスキルは戦闘向けでは無い。
それでも僕はこのスキルに感謝したい気持ちでいっぱいになった。
その後は具体的に何をどれくらい卸せばいいのか、その商談の話になった。
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