1-5-2

「伝えたいこと?」

辺境伯は疑問を投げてくる。

エコラックさんも何が何だか分からないような様子だ。


「その前にこれから話す内容は誰にも聞かれたくありません」

と伝えると。


辺境伯は扉で待機していた執事に人払いを命じた。

同時に誰もこの部屋に近づかせるな、と。



「単刀直入にお伝えします。僕はこの世界の人間ではありません」


「!?」

「!?」

二人とも驚いて声が出ないようだった。

1分くらいしてからだろうか

辺境伯が質問してくる


「それはいったいどういうことなのかね?」


「僕がいたのは、地球という世界の日本という名の国です。

私の世界では自走する馬車や、空を飛ぶ鉄の塊がありました。

僕からすれば、この世界は僕がいた世界の600年ほど前の時代に思える世界です。

僕たちはそこで平穏に暮らしていました。

学校という、子供たちが教育を受ける場所に僕もいました。

ある日、隣の国のアーガスト王国が勇者召喚を行いました。

その結果、僕が通っていた学校の生徒たちがこの世界のアーガスト王国に召喚されたのです」


説明してて僕は疑問を一つ感じた。

一日といなかったあの場所だが、そういえば学校の教師など大人の姿を見なかった。

彼らはいったいどうしたのだろうか。


「・・・・・・・・・・」


「僕は召喚されてすぐに行われた能力鑑定で、表示された文字がぐちゃぐちゃになっていて読めない状態でした。

勇者召喚したものが戦力にならないと判断したアーガスト王国の王女は、僕に王都から出ていくように命じました。

本当なら断りたかったところですが、断ればその時に後ろに控えていた兵士に殺されると思った僕は従うほかありませんでした。

そして途方に暮れていたところを公国に本拠地をおくロッサリーさんに助けられこの国に辿り着いたのです。」


「そうか・・・・・」


「公国に辿り着くまでにも、そして辿り着いてからもスキルが次々に発現しました。

僕の世界にはいくつもの店を一つの建物にいれたショッピングセンターという大型店舗があります。

僕のスキルは異世界のショッピングセンターを利用する力です。

条件を満たせば使用することのできる店舗が増えるというものです。

塩も胡椒も砂糖も薬草も・・・全部そこで入手しています。

条件に関しては僕もよくわかっていないので、ごめんなさい」


本当は条件は理解していたが言わない方がいい気がした僕は黙っていることにした。



長い沈黙の後、辺境伯が口を開く

「そうか。大変だったな。

しかしこれで合点がいった。

実は私の方で隠密をあの国に出していたのだが、何やら怪しげな術が行使されたとの情報が入っているのだ。

おそらくその術が勇者召喚なるものだろう。

しかしこの世界では勇者召喚は禁術指定されているはずだ。

それを行ったということと、最近の情勢を考えると・・・」


「え・・・?」

耳を疑う内容だった。

禁術指定されている?

どういうことか聞いてみた


「当たり前だろう。

勇者召喚と言えば聞こえはいいがやっていることは誘拐と何ら変わらん。

ゆえに禁術指定されているのだ。

ましてや勇者が必要な場面が想定できん」


「王女は魔王討伐に必要だと言っていましたが・・・」


しかめっ面になりながら辺境伯は答えた

「それは嘘だな。これでわかった。なぜあの国が召喚を行ったのかも。

先に言っておくが魔族は存在するが、魔王は存在しない。

それに魔法的な要素の扱いが得意であるがゆえに魔族と呼ばれることもあるが、

基本的には我々人間と大差はない。

つまり亜人のような扱いだ。」


---魔王が存在しない?---


「最近の噂話と怪しげな術・・・禁術指定の勇者召喚の行使。

間違いない。君たちはアーガスト王国が他国に戦争を仕掛けるための

戦力としてこの世界に呼び出されたのだ」


・・・・・・

つまり僕たちは戦争の道具、兵器として呼び出されたのか。

確かにそれを考えればあの王女の豹変ぶりも頷ける。

兵器としての価値があるから優しい目を向けてあげる。

兵器としての価値が見えない僕は切り捨てる。

そしてその存在を明かせないがゆえに死んでもおかしくない場所に追放する。


それを理解したときに唐突に怒りと恐怖、焦りの感情が沸きだした。


怒りは一発ぐらいは殴ってやりたいと思っていた王女を許せないという感情。

恐怖は天神君や九条さんが兵器として扱われて死んでしまうのではないというもの

焦りはそんな心配をしても今の僕には何もできないというもの。


「そんな・・・それじゃあ天神君や九条さんは兵器として戦うか死ぬしかないのですか?」


「アマガミ?クジョウ?・・・・それは友人かね?」


僕は頷く。


「残念だがこのままいけばそうなる。

いくら私でもそれに関してはどうしようもない。

しかし君のスキルを使えばどうにかなるのではないかと思う。」


え?


「今まで君が商人ギルドに卸してきたものは確かに食事や薬など身の回りのものに限定されていた。

しかしそれでもこの世界においては珍しいものばかり。

加えて条件次第では新しい店を利用できるのだろう?

ならば可能性その店にかけるしかないと私は思うがね」


言われてすんなりと受け入れることができた。

普通に考えれば最早詰んでいるとしか言いようがない。

しかし僕のスキルはこの世界の常識を破壊できるものだ。

良くも悪くも。

ならばその可能性にかけてみるしかない。



だけどそれだけじゃ足りない。

僕には足りていないものがある。

自分が生きていくということだけであれば今のままでも十分だろう。

しかしかけがえのない友人を救い出すためにはまだ力が足りない。




「領主様。お願いがあります。僕を冒険者としても鍛えてください」

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