1-3-10

宿に帰るなり次の仕入れを行う。

こういうのは早めにやっておいた方がいい。

安定していた前の世界とは違うのだ。

イレギュラーが発生したときに対応できないのでは困る。

貴族向けの塩や胡椒であれば僕の収入が得られるのが遅くなるだけで済むかもしれないが、

庶民向けの塩の納品が遅れればそれだけ一般市民の市場にも影響が出てしまうだろう。


自分のことを考えるのが精いっぱいだった前の世界とは違い、

カースト下位に居た僕でも世の中の役に立てることに喜びを感じていた。

そうしてショッピングセンターのスキルを発動し、いつも通り中に入る。


その時だった。

あの音が頭の中で鳴り響いた。


『貢献度が一定数値に達しました。条件を満たしました。』

『薬屋が解放されました』

『花屋が解放されました』


その言葉が表示されたステータスに現れると同時に

ガシャンガシャンという音とともに隣にあった2つのシャッターが上にのぼり始めた。


貢献度の上昇?

一体何だろうか。

確かに『異世界のショッピングセンター』の詳細には貢献度の上昇に伴い使用できるエリアが増えていく表記があった。

しかし貢献できるようなことをした覚えがなかったので首を捻る。


そして思い当たった。

庶民向けの塩だ。

ギルドが適正価格として10kgにつき銀貨10枚で購入しようと提示してきたのを、

世の中の人の助けになればと僕は銀貨5枚での買い取りを提案した。

即ち世の人のためになること=貢献度というわけだ。


僕は値下げを提案した、あの時の僕を褒めながら新しく解放されたエリアに足を踏み入れた。

その結果わかったのは、まず薬屋だ。


言うまでもなく総合風邪薬や衛生用品が取り扱われている。

僕は使用する用途がないが女性向けの生理用品なども置かれているようだ。

また薬剤全般が置かれている様子で、各種洗剤も取り扱われていた。


これで風邪にかかったとしても怯える必要はなくなる。

それに洗濯だ。

あの硬くてザラザラしてて大して泡立ちもしなかった洗剤から卒業し、

しっかりとした泡で衣服の洗濯ができる。


それにボディソープやシャンプーのも置いてあるし、これで体をもっと綺麗にできる。

シャワーがない以上、使いどころが難しいところではあるが、商人にとって信用は第一だ。

当然身綺麗にしておく必要があるだろう。


花屋の方は文字通り花が売られていた。

といっても植物全般が売られているようだ。

植物の育ち切った状態でも売られているし、逆に種も置いてある状態だ。

気になってしまったのが奥の一角に置かれている植物だ。

すさまじいほどに高値だ。

でもその理由も察することができた。

あれはテレビで何度か見たことがあるものと一緒だ。


『麻薬』


言うまでもなく日本では民間人が所持するのは違法とされている。

国によっては所持したりするのはもちろん使用するのも犯罪になってない国もあるらしい。

逆に所有しているだけ死刑になる国家もあるらしいしね。


確か日本では医療目的で使われることがあるらしい。なんでも神経を麻痺させる効果があるから激痛を伴う終末期医療では使われることがあるようだ。


これもどこかのサイトに載っていたが、

薬は正しい使い方をするから薬になるそうなのだ。

間違った使い方は身を滅ぼす毒となる。


ここに売ってある麻薬は本来は決して売ってはいけない代物だ。

でももし、その終末期医療に該当する人がいたら僕はどうするのだろうか?

今の段階では答えは決まっていない。



僕はまだそこまで人の命に対して責任が取れない。

僕はこの問題を棚上げにしてとりあえず塩胡椒と洗剤を買うことにした。

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