第2話 異能力学園
『異能力』それはこの世界において革新的な力だ。ここ日本では、遺伝子操作の研究によって人類の新たな可能性『異能力』を手に入れた。もちろん誰もが持っているものではなく、全体の1割ほどの人間しか異能力は使えない。それは後天的に身に付けられるものでもなく、先天的に遺伝子によって身につけることのできる能力だ。
近年、日本政府ではこれを軍事力として利用し、今や世界各国を脅かすほどの戦力として確立している。しかし、それは同時にリスクとも捉えられる。
では、もし悪意を持ったものが異能力者となった場合は?当然政府、一般市民にとって驚異となりうる。そこで政府は害のある異能力者達を総じてギルティ《罪人》と名付け、それに対抗するもの達の事を《守護者》と命名した。
「ここまでで分からないことはあるか?」
「先生〜私たちはどうしてこの学校に通わないと行けないんですか?他の学校でも良かったのに」
「いい質問だ。
そしてそれを野放しにすれば、いずれは国に仇なすギルティ《罪人》となる確率が跳ね上がるからだ。」
僕は人類育成機関学校『東雲学園』Eクラスにて講義を受けていた。
この学園では『S、A、B、C、D、E』の6クラスに分類されている。ただ均等に分けられているという訳ではなく、それぞれ各異能力の強さ=危険度によってランクが設けられている。なので僕は落ちこぼれのEランク能力者ということだ。まあ、落ちこぼれといえどこの学園へ入れば将来は守護者というレールが敷かれるわけだから高待遇なんだけどな。守護者と言えば国が認める国家公務員で高給取りだ。僕としてはなんの不満もない。
「さて、皆ここに来て二週間ほどになるが、そろそろ基礎訓練を行ってもらう」
「基礎訓練って何するんですか?」
「水野、お前は自分の異能力を把握しているか?」
「えーっと……人の声をコピーできます」
「ではそれを最大何時間持続できる?その人物の声を聞かずに写真を見ただけでもコピーできるのか?それは人間以外の動物でも可能なのか?それとも外国語でも通用するのか?」
「あっ……すみません。自分でもよく分からないです。」
「そうだろう。まずは己の能力を知るところから入る。利用条件、キャパシティ、持続時間、全て理解してから各々の能力を伸ばしていくんだ」
なるほど、確かに自分の能力の上限下限を知るのは重要だ。実際交戦中に「能力使えなくなりました〜」なんてことになったらシャレにならないからな。
「では、基礎訓練を行う。と言いたいところだが、本日はここまでだ。今日一日自分の能力とよく見つめ合うように。解散」
ーーーー
講義が終わり、僕は一人教室を後に……
「あ、神崎くーん!」
できなかった。
「なに?」
「いやさ〜一緒に帰ろうかなって思ってね?」
「僕は一人が好きなんだ。前も言ったけど、そっとしておいてくれるかな」
「じゃあ私も一人で帰るから、私はたま〜たま!同じ帰り道ってことで、そして偶然にもクラスメイトが傍にいたので話しかけながら帰ろうとしていたってのはどう?いや、レッツゴー!」
はあ……同じEクラスの水野
これ以上口論するのも面倒なので大人しく言うことを聞いておこう……。
ーーーー
「神崎くんはさ〜幽霊とお話ができるんでしょ?」
学園からの帰り道、水野は明日の課題について一人考察しているようだった。だったのだが、突然何故僕へ矛先が向いたんだ。確かに僕は幽霊と話ができる。常日頃から話しができる訳ではなく、能力を発動しなければ基本的には何も見えないし聞こえない。発動したところで会話ができる程度なので何の危険性もないとの判断で最下位ランクのEランク能力者なのだ。
「ああ、話しはできるが基本的には鬱陶しいだけだから自ら進んで能力を使うことは無い」
「ええ〜せっかく話せるのに?お友達たくさんいるようなもんじゃん?お友達無限大だよ!?いいの?」
水野は僕の肩を掴んで食い気味に僕へ、ってか近い。近いから、まじ離れて?パーソナルスペースっていう古くからある素晴らしい名言知ってる?
……そんなこと言えるわけもないのでそっと僕は歩みを進めた。
「あ、待ってよ神崎くんごめんて〜」
「おい」
不意に聞こえた聞き馴染みのない声に、僕は無意識に視線を向けていた。
「その制服……お前ら、イノベーターのヒヨっ子か?」
「な、なんですかあなたは」
「ああ?俺もイノベーターだ……!!」
黒いフードを被った怪しげな男はニヤリと笑みを浮かべ、その場にいた水野に掴みかかろうとしていた。
「水野さん……!避けて!」
「きゃっ!?」
「おいおい、逃げんなよ。遊ぼうぜお嬢ちゃんんん!!!」
くそっ、まさか学園の近くでギルティ《罪人》がいるなんて、どういう警備してんだこの都市は……!
僕は男の脇腹に飛び膝蹴りを入れようとしたが、呆気なく体を捻って避けられてしまった。
「どうしたあ?お前ら能力も使わねえのか?それとも戦闘じゃ役に立たねえEランクか」
「そうだったらなんだって言うんだ。言っておくがここは学園の近くだぞ?こんなことしてタダで済むと……」
「んなことは百も承知なんだよ。だが俺の仲間達が今同時に12ヶ所で奇襲をしかけている。相手の正体も分からねえ、まさか頭の固いお国様の犬共が、考えもなしにすぐに来るとは思えねえなあ!?」
「くっ!」
男のボディブローが僕の右脇腹に突き刺さった。
かなりの威力だ。明らかな格闘技経験者
そのまま男は素早いラッシュをかけてくる。
「てめえらの致命的な弱点は、上の指示無しに即時出撃することができねえところだ!!その場合どうしてもタイムラグが発生する。お役所仕事ってのはそういうもんだぁぁ!!」
どうする……敵の能力は不明、身体能力もあちらのが上ときた。どう考えても勝ち目がないじゃないか
「オラァ!!てめーらなんか守護者になる前に潰しちまえばそれで国は終わりなんだよ!!」
男の攻撃は止まらない。時折隙を見ては攻撃を返しているのだが一向に届く気配がない。
これでも昔は多少喧嘩もしてきたのだが……プロの格闘家には流石に手も足も出そうもない。
「神崎くん……!!」
ごめん、水野さん。僕には助けられそうにない。
僕はあの頃から何も変わってないんだ。
もし将兄がいれば……
「ははっ!これで終わりだぜ!!」
男はしっかりと踏み込み、渾身のアッパーカットを決めようとしていた次の瞬間ーーーー男は自身の顎へ強烈な衝撃を受けた。
「かはっ!?」
「ふう……今の効いただろ?」
「テメエ、わざと抜いてやがったのか?」
「はあ?何言ってんだお前?俺は今来たんだから手の抜きようがねえだろうが」
「なんだと?まさか、それがお前の能力か……?」
「いや?違うけど」
「か、神崎……くん?」
水野葵は神崎隼斗を怪訝な様子で伺っていた。水野葵の知る神崎隼斗は、穏やかな性格で乱雑な言葉遣いもしなければ相手を躊躇無く殴ったりなどすることのできない優しい青年だった。
しかし、今繰り出したのは掌底による神速のカウンター
しかも全く躊躇いのない攻撃だった。
「んあ?お前は確か隼斗の……水野葵だったか?」
「へ!?何を言ってるの?さっきまで一緒に話してたでしょ?」
「そうか、そういやそうだったな。どうにも人の話しを黙って聞いてるのは退屈でなあ」
「あなた……本当に神崎くんなの?」
「俺か?俺は神崎だぜ?……っと、話しは後だ」
男は重心を下げ、左右に体を振りながらこちらへと向かってくる。これは恐らくデンプシーロールというボクシングテクニックの一つだ。
「クソがあ!!しねえ!!!」
「おい、そこの友達ちゃん……俺の後ろに隠れてな、ついでに助けてやる」
「う、うん」
「そう怯えるなって、お前は俺が死んでも守ってやる。あ、もう俺死んでるんだけどな?」
神崎隼斗はニヤリと笑みを浮かべていた。
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