異能力社会 〜僕×俺で世界最強なんだが〜

@SAI7

第1話 最強なのに死んだんだが

 あの日、僕は兄の『将人』と守護者達との戦闘に巻き込まれた。もちろん直接的に攻撃受けた訳では無い。しかし、ギルティ《罪人》の攻撃によって目の前にあるビルが倒壊した。



「くそっ!?」



 人は命の危機に瀕した時、驚くほどに冷静になる。よく本当に死にかけた時は笑ってしまうというが、そうなのかもしれない。守護者の一人がこちらに気づき駆け寄ってくるが、途中で唖然とした表情を浮かべ、その足を止めた。その男はビルが倒壊したことに驚いたのだとその時の僕は思っていた。


そんな事を考えていると、突然僕の身体に強い衝撃が走り、まだ幼かった僕の体は宙に浮いた。



 僕はその時死んだのだと思った。しかしーー



 さっきまで僕の頭上に落下していた瓦礫の下敷きになっていたのは……兄の将人だった。



 ……え?



 自分はその状況がよく理解できなかった。先程足を止めた守護者の一人が、物凄い形相でこちらへ駆け寄って来ている。なにか叫んでいるようにも見えるが僕には聞こえなかった。 


この世界から音という概念が消え去ったように、僕の世界は静寂だった。



『に、逃げろ……隼斗……』



 その兄の声によって僕の意識が覚醒した。そうだ。兄が瓦礫の下敷きになっている。早く助けてこの場から離れなければ。


 そして二人で帰……




『はっ……悪いな隼斗、俺は逃げれそうに……ない』




 兄から言われた言葉の意図が僕には分からなかった。




「何言ってんだよ。将兄も逃げるんだよ……?」


『…………』


「どうし……て?」




 目の前の光景に僕は言葉を失ったーーーー。




 鼻を刺すように強烈な金属の匂い。そして無機質なコンクリートとはあまりに不似合いな鮮やかな赤。


 そうーー赤だ。


 赤、


 赤赤、



 赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤


 その鮮血は将人の身体から流れていた。途端に僕の思考は重く動かなくなる。目の前のそのあまりに非現実的な光景を受け入れられなかった。



「なんだよ……これは……」



 今まで見たことの無い虚ろな目をしている将人を目の前に、その時の僕はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。



「おい!しっかりしろ……!? 少年!」



 さっきの守護者が将人の上に乗っている瓦礫の山を一つ一つ取り除いていた。


そうだ……まだ助かるかもしれない。守護者の人もいるんだ。なんとかなるに決まってる。




『やめ……てくれ』




 将人が消え入りそうな声で守護者に向かってそう言った。その声に守護者の男は反応し、目を見開いたが、その後なにかを悟ったように静かに目を閉じた。




『隼斗のや……つを、呼んでくれ、俺の……唯一の弟なんだ』




 それを聞いた守護者は将人から踵を返して強く地面を踏みしめながらこちらへ向かってきた。



「少年。君の兄が呼んでいる。もう、ろくに目も見えていないようだ……早く最後の別れをしたほうがいい」


「え……?」



 男は横になって倒れている僕を拾い上げ、将人の近くまで運んでくれた。



『隼斗、そこにいるか……?怪我は、してないか?』


「いるよ。将兄のおかげで怪我はしてない。」



 虚ろな目をした将人の目を見ても、将人は一向にこちらに目を合わせてはくれなかった。



『昔二人でした約束……覚えてるか?』


「うん。覚えてる」


『ああ、俺はちゃんと守れたんだな……良かった。俺がお前を守っ……て』


「僕が将兄を守る」


『そうだ……隼斗、俺らは二人揃えば最強だ。』


「将兄……嫌だよ。死なないで、僕を一人にしないで……」


『ごめ……んな、もう、無理そう……だ』


「ダメだ……!僕は将兄を守れなかった……約束を、これじゃ守れてない……!」


『はっ、それは、大丈夫……だ。俺が死んでも守っ……てやるって、約束したから……な』


「そんなのいくら将兄でも死んだら意味ないじゃんか……!嫌だよ。こんなの、こんなの嫌だ……!」


『俺が、必ず……守っ……』



 その時将兄の目から完全に光が無くなった。



「ん゛あああああああああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーー!!!」


「……この少年に最上級の敬意を」



守護者の男が膝を着き何やらしているがそんなのはどうでもよかった。僕は喉が張り裂けるほど叫び続けた。


同時に自分の中で何かが壊れていく音がしていた気がした。




「あいつ……だ」




 忘れもしないあいつの笑った顔。あのギルティは確実に僕らを狙っていた。




「殺して、やる……殺してやる。殺してやる!!絶対に……!!殺す。殺す。殺す殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺スコロスコロスコロス……!!…………ぶっ殺してやる」


「少年!?待て!!落ち着くんだ……!今は離れなさい!」


「は゛な゛せ゛……!!離せ、離せええええ!」





 ーーそこから先のことはよく覚えていない。

 気がつけば知らない天井がそこにあった。




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