夜会での私たち

 王城内のダンスホール。煌びやかなのは光や装飾だけではなく、そこで踊る人々もまた様々な色合いの装いを身にまとい、宝石たちがあちらこちらで光を反射しておりました。

 建国記念日後初の夜会は、毎年とても華やかで。なにより唯一貴族に全員参加を義務付けさせている夜会だけあって、人も物も一年間で最も豪華な日と言われているのにもなるほどと頷けます。


「リィス? どうしたの? 疲れた?」

「あ、いえ。皆様素敵なドレスをお召しになっているので、少し見惚れてしまっておりました」


 あちらの公爵夫人とその令嬢は、同じ赤のドレスで色を統一していらっしゃったり。

 そちらでは大変仲が良いと有名な侯爵令嬢と伯爵令嬢が、同じデザインの色違いのドレスをお召しになっていたり。

 皆様この日を大変楽しんでいらっしゃるのだとわたくしの目からもよく分かり、ついお一人お一人を長い間見つめ続けてしまっていたようです。


(ホーエスト様にご心配をおかけするなんて、いけませんね)


 特に今日はまだ、夜会は始まったばかり。これからという時に、疲れてなどいられないのです。


「それならよかった。でも、もし疲れたらすぐに言ってね? 無理はしちゃいけないよ?」

「それはホーエスト様も同じですよ?」

「僕は男だからね。こう見えても、ちゃんと体力はあるよ」


 そう言ってはにかむように笑うのは、ホーエスト様の癖。痛んだバターブロンドの髪のカーテンの隙間から、ほんの少しだけ覗くブルーグレーの瞳は緩く細められていて。

 そして白い手袋をはめた手で、キレイに結い上げられた私の頭をそっと撫でてくださるのです。


「リィスは女の子だから、やっぱりドレスや装飾品が気になる?」

「身に着けるものにあまりこだわりはありませんが、見ている分にはとても華やかで楽しいですよ」


 そもそも私のような地味な色合いの娘が着飾ったところで、家族以外の誰が見たいと思うのでしょうか。無駄な努力と言われて終わりですもの。初めから、私には必要ないものなのです。

 なので本日の私のドレスも淡いミントグリーンのプリンセスラインに、髪色と同じオリーブブラウンの幅の狭い長いサテンリボンを腰で結んでいるだけの、とてもシンプルなもの。

 ドレスよりもさらに淡い色の糸で刺繍をあしらっているので、多少華やかには見えますが。宝石やスパンコールをちりばめるようなことはしていないので、比較的地味な部類に入ることでしょう。


「僕からリィスにドレスを贈れないのが、すごく残念だよ」

「ホーエスト様はもうすぐ大人の仲間入りをされるではありませんか」

「うん。だからドレス、必ず贈るから。楽しみにしていて」

「はい」


 成人して一人前と認められるまで、男女ともに身に着けるものは一切贈ることができないのがフゥバ王国の決まりなのです。

 なんでもその昔、とある成人前の女性に対して同じく成人前の男性たちが贈り物を貢ぐように競い合い続けた結果、お家断絶の危機にまで陥ったり犯罪に手を染めたりと、大変な騒動になったことがあるのだとか。

 そのため時の王がすぐに法を整備して、今のようになったと聞き及んでおります。


(恐ろしいのは、それを当然のようにすべて受け取っていた女性のほうだと、私は思っておりますけれど)


 どちらにせよそのような事が二度と起きないようにと、大人たちが成人前の子供たちに規制をかけた、ということなのでしょうね。正しい判断だと思います。


「リィスは何色が似合うかな? 今日のドレスも可愛いけど、もっとハッキリとした濃い色も似合うんだろうなぁ。いざとなったら迷いそう」


 ホーエスト様、何だか楽しそうですが……お忘れですか? 着るのは私ですよ? 皆様曰く、地味令嬢、ですよ?

 実際今の私たちは、この国の第三王子殿下とその婚約者とは思えないほどダンスホールの端も端で言葉を交わしているわけですが。


(けれどホーエスト様が楽しんでくださっているのなら、私にとってはそれが一番なのです)


 それに夜会での私たちは、いつも目立たない存在ですもの。

 時折向けられる視線は気持ちのよいものではありませんけれど、平和であればそれが一番大切なのですから、これでいいのです。





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