平均以下の地味令嬢

『第三王子殿下ほど醜いとは言わないが……』

『こう……地味、なんだよな。見た目も色合いも』


 そう。彼らに噂されているリィズ・フラッザ宮中伯令嬢とは、何を隠そうわたくしのことなのです。

 オリーブブラウンの髪とブラウンの瞳は、儚げな薄い色彩の持ち主こそ美人と言われるこの世界では、あまりにも地味すぎるのです。


 だからこそ、ついたあだ名が「地味令嬢」


 えぇ、えぇ。返す言葉もございません。だって、その通りなのですから。

 そもそも私のような見た目では、身に宿す魔力量も上位貴族としては平均以下。平均以下の地味令嬢など、一体どこの令息が娶りたいと思うのでしょうか。私だってそう思います。


(思うのです、けれど……)


 なぜか私は今、この国の第三王子殿下であるホーエスト様の婚約者としてこの場に出席しているのです。しかもこの、建国記念日という栄えある日に!

 当然この婚約には深い訳があるのですけれど、それはまた後ほどとして。


『そもそもフラッザ宮中伯は、名ばかり役職だろう?』

『魔術師団の監視役など、いてもいなくても変わらないからな』

『それ以前にどう見ても少ない魔力量で、どうやって有事の際に魔術師を止める気なんだろうな』

『まったくだ』


 小さく笑い合うあのお二人は、きっと次の行事からお見かけすることはなくなるのでしょうね。再び小さくため息をつきたくなるのをグッとこらえて、そっと空を見上げます。

 あぁ、なんていいお天気なんでしょうか。建国記念という日に素晴らしい晴れ模様。青い空が眩しいです。


「消しておこう」


 だから聞こえません。そう、聞こえないのです。私の隣で物騒なことをハッキリと呟かれたホーエスト様の言葉なんて、何も聞こえなかった。それでいいではありませんか。


(……などと、思ってもいられないのですよね)


 そもそも彼らは、どうして気が付かないのでしょう?

 本心ではどのように考えていたとしても、ホーエスト様はこの国の王族。そして私はその王族の婚約者。そんな人物を悪し様に、しかもこのような祭典の場で言うなど。


(ご自身の首を絞めるだけの行為なのですよ?)


 彼らが実際にどうなるのかは分かりませんが、少なくとも今後貴族名鑑に載ることはないのでしょう。王族への不敬とは、そういうことなのですから。

 ただ……。


(ホーエスト様の場合、その対象となるのがご自身に対する言動ではなく私に対するもの、というところが大変気になる点ではありますが)


 だって私、実際に地味な色合いをしているではありませんか。魔力量が他の方より少ないのも事実なのです。

 つまり彼らの言い方が悪くなければ、問題にならなかったはずなのですよ。普通ならば。


 ただ今回は、明らかに悪気、ありましたけれど。


 あれでは弁護のしようがありません。仕方のないことですけれど、こればかりは私も諦めるしかないのです。


(以前はお相手に悪気がなく事実を述べられているだけだったので、何とかホーエスト様を説得できましたけれど……)


 あちらのお二人に関しては、私ではどうすることもできないでしょうね。

 そもそも他の王族の皆様も、時折彼らに冷たい視線を向けていらっしゃいますもの。皆様その素敵なブルーグレーの瞳で射殺さんばかりの冷たさですから、彼らはその視線だけで凍てついてしまうことでしょう。

 もっともそれは、彼らが気が付くことができれば、ですが。


「両陛下のお出ましです!!」


 高らかに宣言されると同時に、鳴り響く楽器たちの音。

 晴れ渡る空の下、一年で最も華やかな祭典が始まるのです。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る