醜い王子様②
なぜホーエスト様が、王族でありながらそのような扱いをされているかといえば。
この世界は、美しさこそが魔力量の多さ。そう定義づけられていることに関係しているのです。
そもそも我が国の王族は、皆様揃って美形ばかり。当然といえば当然なのですが、建国以来それが当たり前だったのです。
ですが。
ホーエスト様がお生まれになってからご成長されるにしたがって、誰もが口にするようになったというのです。醜い第三王子様、と。
一つ、先に申し上げさせていただきますと。ホーエスト様は決して、不貞の子ではございません。
これに関しては王家の皆様が確認した上で主張しておられますし、魔力の質も王家のもので間違いないと魔術師団も判断しております。
では、何が問題なのかと申しますと……。
『どうしてあんなに瘦せていらっしゃるのかしら?』
『肌も髪も荒れ放題で、
そう、そうなのです。
決して! 決して王家にお仕えする方々が手を抜いているのではなく!
ホーエスト様は元々、少々病弱で食が細いお方だったのです。
そのせいで必死に痩せようとしている女性よりも手足は細く、肌も栄養が足りないのか乾燥気味で。さらには美しいはずのバターブロンドの髪も、年々痛みが激しくなってきているのです。
その上ご本人も醜いと噂されていることをご存じなのか、それとも荒れた顔を隠すためなのか、前髪すら長く伸ばして口元まで隠してしまわれていて……。
前が見えづらくないのですか?
以前気になってそう問いかけてみた時には、意外と見えているから大丈夫だというお返事をいただきましたけれど。
ただ正直、少々残念にも思っているのです。
(皆様、ご存じないでしょうけれど)
ホーエスト様は、とても美しいブルーグレーの瞳をお持ちなのです。
そしてそれこそが、王家の証。王族だけが持つ、特別な色。
(輿入れされた王妃様は別としても)
他の皆様は誰一人例外なく、同じ色をお持ちなのですから。これを王家特有と言わずして、何と言うのでしょう?
(最近では
それでもあの透き通るような美しいブルーグレーの瞳は、間違いなくホーエスト様の出自を表しているのです。
にもかかわらず!!
『いかな王族といえど、あの方にだけは嫁ぎたくありませんわ』
『あら、奇遇ですわね。
『きっとどこのお父様だって、いい顔はしませんわ』
『ねぇ?』
そんな風にホーエスト様のことを悪し様に言われて、私が何も思わないとでも?
正直、沸々とした怒りが湧いてくるのを感じてはおります。
そう。感じてはいるのです、が……。
『ねぇ、リィス? 無理はしなくていいからね?』
『……大丈夫です、ホーエスト様』
そのたびに、こうして私を気遣ってくださるホーエスト様が隣にいてくださるからこそ、今までもこの状況に耐えてこられたのです。
そう、あくまで私は。
『それにしても……』
『フラッザ宮中伯でしょう?』
『えぇ。よくお許しになったと思いませんこと?』
『まぁ、だって。宮中伯を名乗ってはおりますけれど、実態は……』
そんな声が聞こえてきて、思わず目だけでそっとホーエスト様を見上げれば。
(あぁっ!)
普段は見えないはずの髪のカーテンの向こう側で、ブルーグレーの瞳が鋭い光を宿していて。
『第三王子殿下もだが、フラッザ宮中伯令嬢も正直……』
『あぁ。男としても家としても、娶りたいとは思わないな』
どうにかしてやめさせたいけれど、今の私に彼らの会話に割って入る手段は存在しません。私の
そもそも両陛下の入場を待つこの状況で、彼らは何という話をしているのでしょうか。
「…………後で父上にご報告申し上げよう」
「っ!!」
凍てつくような声が隣から聞こえて、会話に花を咲かせている彼らからホーエスト様へと視線だけを移せば。
口元に、かすかな笑みを浮かべていらっしゃるお姿が、映って。
(これは……完全に、お怒りですね……)
ご自身が何を言われても我関せずのこのお方は、なぜか私に対する悪口だけは正確に拾ってしまわれるようで。
確かに私は、ホーエスト様の婚約者ですけれど。とても大切にしてくださっているのは、理解しておりますけれど。
(職権乱用になってしまいますっ、ホーエスト様っ)
そう思いながら見上げた先、傷んだ髪のカーテンの向こう側で。
美しいブルーグレーの瞳が、ほんのわずかに緩んで笑みの形を浮かべた。
……ような、気がします。
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