第25話 ヴァルプルギス
無事ダンに勝利した俺は、達成感と蓄積したダメージもあって倒れ込んだ。
「ジーク!大丈夫!?」
急に倒れ込んだ俺を心配してくれたのか、セレナは焦って駆け寄ってきてくれた。
「心配すんな、ちょっと疲れただけだ」
上から心配そうに顔を覗かせてくるセレナに問題がないことを伝えた。
「そう………良かったぁ………!」
「セレナこそ大丈夫か?あいつらに何かされてないか?」
「大丈夫よ。………ジークが助けてくれたから!」
そう言って、セレナは笑顔を浮かべた。
「それなら良かった」
セレナと話していると、シルが近づいてきて勢いよくセレナに抱きつく。
「大丈夫!?セレナちゃん!あいつらに変なことされてない!?」
「だ、大丈夫よ。シルヴィ。くすぐったいわ」
「良かったぁ………!」
抱きついたまま問題がないか、シルはセレナの身体のあちこちを触って確認していた。
「ジークも大丈夫??」
シルは心配そうにしながら、倒れている俺に視線を移した。
「あ、ああ。なんとかな………」
「待ってて!今、回復させるから。《ヒール》!」
シルがそう言って、詠唱すると俺の身体が白く光り、みるみると傷が治っていく。
痛みも消え、身体を起こすことができるようになる。
「おお………!すごいな。ありがとう、シル!」
「えへへ!どういたしまして!」
シルにお礼を言っていると、師匠が近づいてくる。
「なんとか勝てたようじゃの」
「ああ。師匠もシルも他の2人の足止め、ありがとな」
「ほっほっほっ、どうってことないわい」
「おじいちゃんの言う通り!気にしないで!」
そうして、
セレナが無事だったこと
奴らに勝利することができたこと
を全員で喜んでいると、洞窟の入り口の方から声が聞こえてきた。
「あららー、ダンさん達負けてしまったんですか」
「「「「っ!?」」」」
突然後ろから聞こえたので、俺たちは驚いてしまった。
声の主は、男で燕尾服で身を包み、黒のシルクハットを被っている。
ダン達の仲間なのかと思い、聞く。
「誰だ!?こいつらの仲間か!?」
「んふ、まぁ仲間といえば仲間ですかねぇ」
「どういうことだ!」
なにやら意味深なことをいう謎の男は、辺りを見渡す。
「そんなに警戒しないでください。
そう言って、アクシアはお辞儀をした。
「ヴァルプルギス………」
「闇夜三傑………?」
シルとセレナが聞き慣れない言葉に首を傾げている。
俺もヴァルプルギスや闇夜三傑というのは、初めて耳にした。一体それらが何なんのか検討もつかない。
「お前も賢者の石を狙ってここまで来たのか!」
「そうですねぇ。確かに賢者の石は欲しいですが、今日のところはそこの負け犬どもを回収して帰らせていただきますよ」
「そんな簡単に見逃すわけないだろ!」
俺はそう言って、身体強化をしてアクシアに向かって行こうとする。
「やめるんじゃ!ジーク!」
「………っ!?」
俺がアクシアに向かって行こうとしたら、師匠が声を荒げて止めてきた。
普段あまり聞かない師匠の声だったので、思わずびくっと驚いてしまった。
「な、なんでだよ、師匠!このままほっといていいのかよ!」
「それは良いわけではないが、おそらく今のお主ではそやつに敵わん」
今の俺ではアクシアには勝てないと思って、止めてくれたみたいだ。
「んふふ、流石は火の賢者といったところでしょうか。
今止めていなかったら、その者の息の根を止めているところでしたよ」
「くっ………!」
何もできないことが悔しいが、師匠がそう言うなら多分勝てないのだろう。
「では遠慮なく回収させていただきますね」
アクシアはそう言うと、地面に穴ができ、それぞれ別の場所で倒れていたはずのダン、バリ、ボリがその穴から出てきた。
何らかの魔法なのだろうが、あんな魔法は初めて見た。
「まったく情けないですねぇ」
アクシアは、ゴミを見るような目でダン達3人を見る。
「おっと、これ以上長居するとグレイブ様に怒られてしまいますね」
「グレイブじゃと………!?」
「んふふ、これはお喋りが過ぎました。
では私はこれにて退散させていただきます。
またいつかお会いできる日を楽しみにしていますよ」
そう言って、アクシアは先ほど見せた魔法で自分とダン達を地面にできた穴の中に入って消えてしまった。
師匠は、アクシアが去り際に残したグレイブという名前に反応していたが、なにか心当たりでもあったのだろうか。
「なんだか不気味な人だったね」
「………そうね。ヴァルプルギスって一体何なのかしら」
「そいつらが賢者の石を狙っているってことか………」
さっきまで喜びに浸っていたのに、アクシアというやつのせいで、不穏な雰囲気になってしまった。
「まぁ今はそんなこと良いじゃろ。
それよりみんな無事じゃったことを喜ぶべきじゃ」
3人で暗い気持ちになっていると師匠がそう言って励ましてくれた。
「そうだね!」
「ええ、そうね」
「そうだな」
そうして、俺たちは今回の騒動で誰も負傷者が出ることなく、退けたことを喜んだ。
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