第26話 強大な敵
(とある国のとある城)
アクシアによって持ち帰られたダン、バリ、ボリは、玉座に座る男に頭を下げて跪いていた。
その男から放たれる雰囲気により、その場の空気はどんよりとして重苦しくなっている。
その玉座の両隣には、アクシアと白髪で白髭を生やした中年の男がいる。
「………それで火の賢者の意志はどうした?」
玉座に座る男がダンに聞く。
「も、申し訳ございません!
想定外の邪魔が入り、グレイブ様より与えられた任を遂行することができませんでした………」
ダンは、明らかに緊張しており声を震わせながら答えた。
バリとボリは、先ほどから声を出すことすらできず、顔を下げたままにしている。
「………ほう。邪魔だと?」
グレイブと呼ばれた男は、漆黒のような髪で妖しく光る瞳をダンに向けながら興味深そうにしている。
ダンはその瞳に気圧され、グレイブの顔を直視することができていなかったが、なんとか顔を上げて答える。
「情報にあった火の賢者とエルフの他に若い男と女が1人ずつ………。その2人が思った以上に強く………」
「………お前は自分ができなかった理由を敵が強かったからで済ませるのか?」
「い、いえ!決してそういうわけでは………!
もう一度我々にチャンスをお与えください!
次こそは必ず火の賢者の石を手に入れて見せます!」
グレイブに問い詰められ、ダンは次こそは成功させるという覚悟を見せて、挽回の機会を求めた。
しかし、ダンの望みが叶えられることは無かった。
「………もうよい」
「え………?」
グレイブがそう言った途端、ダン達3人は黒い闇の触手のようなもので拘束される。
ダンは突然のことに驚き、目を見開いている。
「なんだこれ!?」
「絡みついてくる!?」
バリとボリも急に拘束されて驚きの声をあげている。
「グ、グレイブ様!?なにを………」
「んふ、見てわからないのですか?
貴方達のような無能な負け犬は【ヴァルプルギス】にもう必要ないとグレイブ様は判断されたのですよ」
訳がわからないという顔をしていたダンに対して、アクシアが事実を述べた。
「なっ!?何故ですか!
我々はグレイブ様のためにこれまでも、これからもこの身を捧げる覚悟だと言うのに………!」
「………一つ教えといてやろう」
声を荒げて抗議をするダンにグレイブは諭すように話しかける。
「俺は、強大な敵よりも無能な味方の方が嫌いだ………!」
その言葉を聞いたダンの顔は絶望に染まっていた。
グレイブが話し終えると、拘束をしていた触手以外にも触手の数が増えて、ダン達を覆い尽くそうと動き出した。
「こいつら急に!?うぷっ!」
「あ、兄貴ぃ!助け………べぷっ!」
迫ってくる触手に恐怖を感じたバリとボリは、ダンに助けを求めるが、ダンよりも先に触手の大群に呑み込まれてしまう。
「バリ!ボリ!くそぉ………!ぐあっ!
グ、グレイブ様!おやめ下さ………ぃ………」
なんとかグレイブにやめてもらおうとしたが、それが叶うことはなく、ダンも呑み込まれ声がしなくなった。
触手は呑み込んでからしばらく激しく動いていたが、しばらくすると、落ち着き消えてしまった。
先程まで3人が居た場所には、何も存在しておらず、まるで何事も無かったかのように静かになっていた。
「………よろしかったのですか、グレイブ様。
失態を犯したとはいえ、ダンは元B級冒険者。
まだ使い道はあったかと………」
ずっと黙ってグレイブの横に控えていた白髪の男が口を開いた。
「………ラルク。先程も言っただろう。
計画において無能な味方が1番の敵だ。
それにこの程度いくらでも補填がきく」
「………確かにおっしゃる通りです」
ラルクと呼ばれた男は頭を軽く下げ、グレイブの言葉を肯定する。
すると今までどこに居たのか、玉座の後ろから急に15歳くらいの少女が現れた。
「あはっ♡グレイったら、ひっど〜い!
あんなあっさりと殺しちゃうな・ん・て!」
「………うるさいぞ、ティア」
ティアと呼ばれた少女は、グレイブと同じで漆黒のような髪色をしており、ツインテールで小悪魔のような見た目をしている。
この厳格な雰囲気の中で、ティアの明るく高い声は非常に場違いであった。
しかしそれがまた不気味さを引き立たせていた。
「それでこれからどういたしましょう?
グレイブ様のご命令とあれば、私が火の賢者の石を手に入れて見せますが………」
「………」
「グレイブ様………?」
ラルクは自らが賢者の石を手に入れてくると提案をしたが、それを聞いたグレイブは黙っている。
しばらく沈黙が続いていたが、それは急に破られた。
「あたしつまんな〜い!グレイはあたしのこと楽しませてくれる………よね?」
「………ああ、心配するな。ティア。
これからが面白くなるところだ」
「あはっ♡さっすがあたしのグレイ!期待してるね?」
ティアはグレイブの返答が気に入ったのか、妖しい笑顔を浮かべている。
「ラルク」
グレイブはラルクに呼びかけた。
「………何でしょう?」
「火の賢者の意志のことだが………俺が行く。
お前たちも準備をしておけ」
「「はっ」」
グレイブはアクシアとラルクに命じ、口元をにやりと歪ませた。
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