第20話 賢者の意志

 なんとか家まで帰ってくることができた俺は、ドアを開けて中に入る。

 中に入ると、師匠は椅子に座りながら本を読んでいて、シルはファイとじゃれて遊んでいた。


「あ!やっと帰ってきた!おかえりジーク!」

「ガァ!」


「今日は随分と遅かったのう」


 いつもより帰りが遅かったので、師匠とシルが不思議がっている。


「あれ?ジーク1人?セレナちゃんとは一緒じゃなかったの?」


 シルがセレナの行方が気になっているのか聞いてくる。

 その質問に対して、歯切れが悪くなりながらも答える。


「………レナが………れた」


「………え?ジーク?」


 俺の声が小さくて聞こえなかったのか、シルが恐る恐る近づいてくる。

 近づいてきたシルに対して俺は、歯を食いしばりながらもう一度言う。


「………セレナが攫われた………!俺の目の前で………!

 俺のせいだ………!何も………何もできなかった………!」


 我慢していたのに2人の顔を見ると、安心感と情けない気持ちが混ざって感情がぐちゃぐちゃになり、涙が溢れてきた。


「大丈夫、大丈夫だよ。ジークのせいじゃないよ」


 目の前で取り乱す俺をシルは優しく抱きしめてくれた。

 彼女に包まれてその温もりを感じている内にだんだんと気持ちが落ち着いてくる。


「落ち着いた?」


「………ああ。ありがとう、シル。もう大丈夫だ」


「そう。よかった!」


 シルのおかげで落ち着きを取り戻すことができた俺は、改めてセレナを助けることができなかったことを悔やむ。

 そんな俺の顔を見かねたのか、師匠が励ましてくれる。


「そんな険しい顔をするでない。シルヴィちゃんの言った通りジークが悪いわけじゃないわい」


「師匠………」


「事の経緯について教えてくれるな?」


「はい」


 師匠に事の経緯について聞かれ、俺は起こった事の全てを2人に話した。


 謎の男達によってセレナが攫われたこと。

 そのうちの1人に一瞬でやられてしまったこと。

 セレナを返してもらうためには、火の賢者の石【イフリート】を約束の時間までに洞窟まで持ってくること。


 これらの全てを隠すことなく伝えた。


「………なるほどのお。やはり狙いは火の賢者の石だったか」


「さっきから気になってたんだけど、火の賢者の石ってなんなんだ?」

「おじいちゃん、それってどんなやつなの?」


 師匠はセレナを攫っていった奴らの目的に察しがついていたみたいだ。


「………お主らには話してもいいかもしれんのう。

 賢者の石とは、儂ら七賢者が持っている賢者の証じゃ」


「賢者の証?」


 賢者の証になるものがあったのかと思い、聞き返した。


「七賢者とはその名の通り、火の賢者、水の賢者、風の賢者、土の賢者、雷の賢者、そして光の賢者と闇の賢者の7人のことを指す。

 そしてそれに対応するように賢者の石も7つあるのじゃ」


「どうして賢者の石が賢者の証になるの?」


「それは賢者の石を持ってるものが賢者なのではなく、賢者の石に選ばれたものが賢者になるんじゃ」


「賢者の石に………?」

「選ばれる………?」


 俺と同様にシルも理解しきれていないようで、2人して首を傾げている。


「賢者の石は、それぞれが意志をもっておるんじゃ。じゃから一般的には賢者の石と呼ばれておるが、儂等の間では賢者のと呼んでおる」


「え………!?じゃあ石に自我があるってことか!」


 にわかには信じられない話に思わず声を荒げて驚く。


「そうじゃ。

 儂の持つ火の賢者の意志【イフリート】、水の賢者の意志【ウィンデーネ】、風の賢者の意志【シルフィード】、土の賢者の意志【ノーム】、雷の賢者の意志【ヴォルト】、光の賢者の意志【ティアナ】、闇の賢者の意志【ティアマト】

 これらの7つがある。そしてこれらの意志に選ばれたもの達が賢者になるというわけじゃ」


 そう言いながら、師匠が自分が持つ火の賢者の意志【イフリート】を俺たちに見せた。

 火の賢者の石は、手のひらサイズの石で透き通るような赤色をしている。


「………!」

「………え………それって………もしかして………!」


 初めて見る賢者の石や初めて知った驚くべき事実に俺は言葉が出ない。

 一方でシルは目を見開き、何かを呟いている。

 それにしても賢者の意志に選ばれて賢者になることができるのか………。

 それなら賢者のだけを奪ったとしても何の意味も無いんじゃ………。

 その事を疑問に思った俺は、師匠に聞いてみる。


「賢者の意志に選ばれないと意味が無いなら、それを奪ってどうするつもりなんだ?」


「それは………多分じゃが、全ての賢者の石を集めて大賢者の石を復活させるつもりなのじゃろう」

 

「大賢者の石………」


 また師匠から聞いた事のない言葉が出てきた。


「これから先の話は儂らがまだ賢者と呼ばれる前の事じゃ。

 昔、この世界には偉大なる大賢者ヴィクトリアス・ノーランドという者がおった。大賢者の力は凄まじく、あの人に勝てるものなど存在しないと思わせるほどじゃった」


「そんなに凄かったのか………」


「そして儂ら七賢者は皆、大賢者の弟子じゃった。様々な種族、様々な人種が集まり、師匠の教えを乞うていた」


「え、七賢者が全員弟子!?」


 その大賢者ヴィクトリアス・ノーランドという人はなんと七賢者の師匠だったらしい。

 先ほどから知らないことが多すぎて、驚くことばかりだ。


「その時に大賢者が持っていたのが大賢者の石じゃ。その大きさは儂らが持つ賢者の石よりも遥かに大きかった」


「その大賢者の石と賢者の石は何が違うんだ?」


「大賢者の石を持つ大賢者の力はあまりにも強大すぎた。強すぎるその力を危ぶんだ大賢者はその大賢者の石を砕いて力を失わせようと考えた。

 大賢者の石を砕くことは出来たが、完全に力を失わせることは出来ず、7つの石に分かれた。分かれた7つの石を大賢者は、信頼できる7人の弟子渡すことにした。それが今の七賢者が持つ賢者の石じゃ」


 つまり元々1つの石であった7つの石を集めることで、元に戻すことができるというわけか。


「………じゃあその7つの賢者の石を集めることで大賢者の石を復活させることができるのか」


「………それはわからん」


「え………?」

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