第21話 光の賢者
わからんってどういうことだ?
師匠の話を聞く限りでは、そうすることで大賢者の石を復活させることができるように感じる。
「わからないってどういうことだよ、師匠」
俺に聞かれ、少し間を置いて師匠が答える。
「………それはまだ一度も7つに分かれてから全ての賢者の石が集まったことがないからじゃ。
じゃから本当に集まったら大賢者の石に戻るのか、それとももう戻ることはないのか、真実がわからないのじゃ」
一度も全ての石が集まったことがないと言う師匠の言葉に引っかかり、聞いてみる。
「全てのってことは何個かは集まったことがあったのか?」
「そうじゃな………。
大賢者が7つの賢者の石を弟子達に託してしばらく経ったある時、悪き心を待ち、力に溺れた闇の賢者が全ての賢者の石を我が物にしようと考えた。
その結果、風、土、雷の賢者の石が奪われたのじゃ」
合計で4つの賢者の石が1人の手に渡ってしまったことがあるということか。
「それでどうなったんだ?」
先ほどの話の通りなら例え賢者の石を奪っても、賢者の意志に認められなければ力は得られないはずだ。
「闇の賢者は闇の力によって、奪った賢者の石の力を取り込み、それはもう恐ろしい力を手にしたのじゃ」
「闇の力………」
「その力に対抗し得る力を持っていたのは、大賢者ヴィクトリアス・ノーランドと光の賢者だけじゃった」
「どうしてその2人だけが?」
「闇の賢者が扱う闇の力には、光の賢者の光の力が有効なんじゃ。逆もまた然りじゃがな」
つまり光には闇が、闇には光が有効であり、互いが互いの弱点であるらしい。
「光の賢者については分かったけど、どうして大賢者も対抗できたんだよ。
大賢者といえど、その頃はもう大賢者の石は持っていないんだろ?」
「それは………大賢者がジークと同じスキル『魔力回復魔法』を持っていたからじゃ」
「え………!?大賢者が俺と同じスキルを………?」
なんと大賢者は、俺と同じく『魔力回復魔法』を持っていたらしい。
そう言われてもなんだか実感が湧かない。
「儂がジークのスキルを聞いた時は耳を疑った。
なにせ儂の師匠と同じスキルを持っていたんじゃからのう。今や、そのジークは儂の弟子じゃ。
………これは運命なのかもしれんのう」
「運命………」
師匠に言われ、俺は考える。
大賢者と同じ『魔力回復魔法』を持っていること。
火の賢者である師匠の弟子になったこと。
確かにこれらの事は偶然という言葉だけで片付けることはできないのかもしれない。
「………それでその後はどうなったんだ?」
「他の賢者の石を狙う闇の賢者に対して、大賢者、光の賢者、火の賢者、水の賢者の4人で立ち向かったのじゃ。
その結果、大賢者と光の賢者の犠牲を出したが、どうにか闇の賢者を倒すことができたんじゃ」
「犠牲が出たのか………」
それだけの戦力で挑んでも、大賢者と光の賢者の犠牲が出てしまったと聞き、驚く。
力を取り込んだ闇の賢者とは、一体どれほどの力を持っていたのだろうか。
「風、土、雷の賢者の石を解放し、元の持ち主の元へ戻すことができた儂らは話し合った結果、光と闇の賢者石を封印することにしたのじゃ」
「どうしてその2つを?」
「正直言って光と闇の賢者の石の力だけ突出しておった。
じゃからその力を再び悪用されないようにするための封印という決断じゃった」
「じゃあ今もその2つは封印しているのか?」
「その筈じゃ」
それならやはりあの襲撃者達が何の目的で賢者の石を狙っているのかがわからない。
力を求めているのだとしても、賢者の意志に選ばれなくちゃ意味がないだろうし。
「じゃあ、なおさら襲撃者達はどうして賢者の石を欲しがっているんだろうな。
さっきの話の感じじゃ、大賢者の石のことも光と闇の賢者の石が封印されていることも知らないはずだろう?」
全ての石を集めても大賢者の石になる保証もないし、そもそも光と闇の賢者の石は封印されているのだから、全ての石が集まるとは思えない。
「そうはそうなんじゃがな………」
そう言って師匠は、なんだか煮え切らない返事をした。
シルの意見も聞こうと思い、さっきから何かを考えているのかずっと黙っていた彼女に話しかける。
「シルはどう思う?」
「………」
話しかけても今だに考え事に夢中になっているのか気付かない。
「シル?」
「………え?わ!ジ、ジークどうしたの?」
顔を近づけてもう一度呼ぶと、急に俺の顔が目の前にあったからかシルが驚き、こちらに気付く。
「どうしたって、呼びかけても返事がないから」
「ご、ごめん!ちょっと考え事してた!」
「それは良いんだけど、何を考えてたんだ?」
やはり何かについて考えていたらしいシルにその内容について聞くと、少し考えてから彼女は師匠に質問をする。
「それは………。ねぇ、おじいちゃん」
「ん?なんじゃ?」
「光の賢者の石を封印してるって事は、光の賢者様は今はいないんだよね?」
「そういうことになるのう」
シルはなにやら意味深なことを師匠に確認する。
話を聞いた限りでは、闇の賢者、光の賢者どちらも今は存在していないはずだ。
「………じゃあこれって何かわかる………?」
そう言ってシルは、ポケットの中から透明感のある白みがかった石を出した。
大きさは先ほど師匠が見せた火の賢者の石と同じくらいだった。
「それってまさか………!?」
「なっ!?なんじゃと!?何故シルヴィちゃんがそれを持っておる!?」
俺も驚いたが、いつも余裕のある師匠が大きく目を見開き、声を荒げて驚いていた。
こんな師匠は、ここに来てから初めて見る。
「………やっぱり。そうなんだね」
「あ、ああ………。そうじゃ。
それはまぎれもなく光の賢者の意志【ティアナ】じゃ。
じゃが、一体どこでそれを手に入れたんじゃ?」
「それは………」
師匠にどうして光の賢者の石を持っているのかと聞かれたシルは、それを手にした時のことを話した。
子供の頃、魔物に襲われた俺とシルを助けてくれたのがこの石だった事。
謎の声に言われるがまま契約して瀕死になった俺の傷を癒し、命を救ってくれた事。
確かにあの時何故俺は助かったのかと不思議に思っていたけど、そういうことだったのか………。
「なんと………。ではもう【ティアナ】の声まで聞いたという事か………」
「ちゃんと覚えてるわけじゃないけど、多分あの声はそうだったんだと思う」
「ということは正式にシルヴィちゃんは【ティアナ】に選ばれた光の賢者ということじゃ」
「私が光の賢者………」
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