第19話 謎の襲撃者

 ーーーーー3年後


 俺とシルが師匠の家に来て、3年の月日が流れた。

 俺とシルとセレナは共に18歳になった。


 師匠に課された身体強化の修行もあれから毎日している。

 始めたての頃は、魔力10の身体強化を半日持続させることも難しく、体力が続かず幾度となく倒れたり、『魔力回復魔法』を使い損ねて魔力切れを起こしたりしていた。


 しかし、3年間毎日欠かさず続けていたおかげで、今では魔力40までの身体強化は、丸一日持続させることができ、魔力切れを起こすことも無くなっている。

 ちなみに魔力40の身体強化は、普段の5倍の身体能力になっている。


 セレナのおかげで俺とシルの部屋が別々になり、ようやく1人で寝ることができると思っていたが、2つの部屋を行き来するためのあのドアによって、結局シルは毎朝俺のベッドの中に潜り込んできていた。


 今日もいつもの日課の特訓をするために、早朝に起きると、横で薄着のシルが抱きついて寝ていた。


「えへへぇ………じーくぅ〜………」


 18歳になったシルは3年前よりも成長し、美しい銀髪も相まって可愛らしさと綺麗さを兼ね備えている。

 そんな彼女が薄着で寝ている姿など正直いって目に毒で、耐えているこちらの気持ちも考えてほしい。


 前にも何度か注意した事があるが、


「だってジークのそばが1番落ち着くんだもん!」


 と言われて、それ以降なんだが注意しにくくなってしまっている。

 俺に抱きついているシルを起こさないように引き剥がして、静かにベッドから出る。

 そのまま外に出て、いつもの湖に向かうために走り出した。

 

 シルを引き剥がすのに、思ったより時間がかかってしまったので、いつもの時間より少し遅れてしまっている。

 セレナはもうとっくに着いている頃であろう。


「急がねーとセレナに文句言われちまう!」


 遅れたことに文句を言ってくるセレナを想像しながら、俺は足を早めた。


♢ ♢ ♢


「もうそろそろだな。セレナ、怒ってなきゃいいが………」


「きゃあ!」


 あと少しで湖に着くというところで女性の悲鳴が聞こえてきた。


「………っ!!」


 その声がセレナのものだと気付いた俺は、急いで湖まで向かう。

 視界が開けて、声の聞こえた場所を見る。

 そこで俺の目に入ってきたのは、気を失っているセレナを抱えている黒いフードを被った男とその周りにいる同じ格好の2人の男だった。


「誰だ!?お前達!」


「あぁん?なんだこのガキ………。おい!バリ、ボリ!ちゃんと周り見張っとけって言ったよなぁ!」


「すいやせん、ダン兄貴!」

「もうその女捕まえたからいいかなーって思いまして!」


「ちっ、使えねぇな。で、てめぇはなんだ?」


 奴らのやり取りを見ている限り、セレナを抱えてるダンと呼ばれていた奴がリーダーで、バリとボリと呼ばれてた2人が部下なのだろう。

 

「いいからセレナを離せ!」


「ギャーギャーうるせぇなぁ。………質問には答えろよなぁ。バリ、この女持っとけ」


「は、はい!兄貴!」


 俺に向かってリーダーらしき男がそう言った瞬間稲妻が走り、だいぶ距離があったはずにもかかわらず、一瞬で目の前に現れる。


「雑魚は寝てろや」


 急に目の前に現れたことに対応できず、その男の蹴りをもろに腹に喰らってしまう。


「がはっ……!?」


 身体強化すらしてなかったので、そのダメージで立っていることもできず、地面に倒れ込んでしまった。


「ヒュー!さすがダン兄貴!」

「俺らのリーダー!」


「うるさいぞ、お前ら。

 ………ガキが、ちゃんと身の程を弁えろよ。

 今回は殺さずにおいてやるよ。感謝しろよな?」


 うつ伏せで倒れ込んでいる俺の髪を引っ張り頭を上げさせてその男は言った。

 俺は相手を睨みつけることをやめずに言う。


「セレナを………離せ………!」


「かははっ、こいつまだ言ってるぜ。

 ちょうどいい。火の賢者マーリンに伝えろ。この女を返して欲しければ今夜月が真上に昇る前に、この湖から南に真っ直ぐ行った先にある洞窟まで火の賢者の石【イフリート】を持ってこいってな」


 その男はそれだけ言い残すとセレナを抱えたまま洞窟の方へ向かうため歩き出した。

 それを追いかけるべく、身体を起こそうとするが動かない。


「待て………!セレ………ナ………」


 意識がなくなるその瞬間まで、俺は最後まで奴らを見ていた。


♢ ♢ ♢


 目が覚めると俺はまだ湖のところにいた。

 もう日が昇りきっているので、大分時間が経ってしまっていることが分かる。

 俺はダンと呼ばれていた男の攻撃を喰らって気を失ってしまっていた。


「ちくしょう………!!」


 何もできずにセレナを連れ攫われたことが悔しくて、近くにあった木を思いっきり殴る。

 

「………とりあえず早く師匠に知らせないと……!」


 重い足取りの中、俺は師匠の元へと急いだ。

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