第18話 空間拡張と魔力操作

 無事、『ルフの神木』登りの修行を終わらせた俺は、次の修行について師匠から説明を受けていた。


「次の修行は、身体強化の練度を上げる修行じゃ」


「練度って強度と持続力ですか?」


「そうじゃ。これからジークには、毎日寝る時以外ずっと身体強化の状態を維持してもらう」


「え!?1日のほとんどを身体強化!?そんなことできるんですか?」


「それをできるようにするための修行じゃ」


 なんと次の修行はただでさえ体力の消耗が激しい身体強化を丸一日ずっと持続させていくというものだった。

 正直言ってできる気がしない。

 今でさえ、1ヶ月の特訓を経て1時間持続させるのがやっとという感じである。


「最初からできなくても、徐々に持続させる時間を増やしていけば良い。初めは魔力10で1日持続できるまで。それができたら20、30という風に段階的に強度を高めていくのじゃ」


「なるほど………。よし!やってやる!」


「頑張ってね!ジーク!」


 師匠の説明を受け、シルからの応援をもらってやる気を漲らせた。


「それでマー爺、私とシルはいつも通りの魔法の修行でいいの?」


「それで良いぞい。ジークにも身体強化をしながら参加してもらうかのう」


「は、はい!」

「はーい!」

「分かったわ」


「明日から修行はしていくので、今日は好きに過ごすとよい」


 明日から身体強化の修行をしていくとのことで、今日はそれぞれ自由に過ごすことになった。


♢ ♢ ♢


 暇になった俺、シル、セレナは3人で俺とシルが同じ部屋で寝ていることについての話をしていた。


「あなた達ほんとにまだ一緒の部屋で寝ているの?」


「そうなんだよ。いい加減別々の部屋がいいよな?シル」


「え!?あー、う、うん!ソウダネー…………。私はジークと一緒の部屋の方が…………」


「ん?なんか言ったか?」


「な、なんでもないよ!」


 そろそろ自分の部屋が欲しいだろうと思い、シルに聞いてみると、なんだか煮え切らない返事が返ってきた。


「じゃあ私が新しい部屋作ってあげるわよ」


「ほんとか!?」

「ほ、ほんとに作っちゃうの………?」


 なんとセレナが新しい部屋を作ってくれると言ってくれた。

 それだというのにシルはなんだか悲しそうな反応をしている。


「どうしたんだよ、シル。やっと狭い2人部屋から解放されるんだぜ?嬉しくないのか」


「別に……………ジークのばか」


 シルが何かを言うとそっぽを向いて機嫌が悪くなってしまった。


「どうしたんだ?シルのやつ。なぁ、セレナ」


「はぁ………。ジーク、もう少し女心を理解しなさいよ」


「??なんのことだ?」


「もういいわ………」


 セレナにシルの状態について聞くと、女心がどうのと呆れられて、彼女はシルに近づいていく。

 セレナが落ち込んでいたシルに耳打ちをしている。

 暗い顔をしていたシルがセレナの話を聞くにつれて、顔色が良くなっていく。


「え!?ほんと!?」


「ええ、ほんとよ」


「ありがとう!セレナちゃん!」


「ちょ、ちょっと!急に抱きつかれるとびっくりするじゃない!」


 突然シルが大喜びして、セレナに抱きついた。

 急に抱きつかれたセレナは、文句は言いながらも嫌がってはいないように見える。


「お前ら何の話をしてたんだ?」


「ジークには教えてあげなーい」


 シルは俺には教える気は無いみたいだ。

 困った俺はそのままセレナを見て、助け舟を求める。


「今回はジークが悪いわ。諦めなさい」


「………はぁ」


 全面的に俺が悪いらしい。

 女の子は難しいな。全くわからん。

 シルには後で謝っておくか……。


「それで一体どうやって部屋を作るんだ?

 前から気になっていたんだが、あの小さい家の中があんなに広いんだ?」


「あ、それ私も気になってた!」


 シルも俺と同じくあの家の謎について気になっていたようで共感してきた。


「それは私のスキル『空間拡張』のおかげよ」


「あの王級スキルか」

「空間……拡張……?」


 俺は一度鑑定で見ているからすぐに分かったが、シルは初めて聞いたみたいで首を傾げている。


「それでどんなスキルなんだ?」


「私が【指定した空間に魔力を流し込むことでその空間を広げる】というスキルよ。

 広さが増えるにつれて必要な魔力も多くなるわ。人が住めるくらいの広さなら魔力20000くらいかしら」


「20000!?それはとんでもない量だな……」


 セレナの説明を聞き、その必要な魔力量に驚く。

 魔力20000なんてそうそう用意できるものではない。

 シルのような規格外は別だが、普通の人なら20人は必要だろう。


「誰かの魔力を使うならそうね」


「その言い方だと人間以外の魔力を使うのか?」


「ジークもよく知ってるものよ。ついてきて」


 言われるがままにセレナについていく。

 俺もよく知ってるものだと言っていたがまさか……。  

 ついていくと『ルフの神木』の前で止まる。


「このルフの神木はこの場所に大昔からあって膨大な魔力を有しているの」


「でもどうやってこの大きな木から魔力を使わせてもらうの?」


 俺も気になっていたことを代わりにシルが聞いてくれる。


「私のもう一つのスキル『魔力操作』でルフの神木の魔力を『空間拡張』で指定した空間まで流して使うのよ」


「なるほど……すごいな!」

「ほえー、すごーい!」


 説明を聞いた俺とシルは、セレナのスキルの性能に驚かされた。


「さっさとやっちゃうわね」


 そう言ってセレナは、ルフの神木に手を触れる。

 そしてしばらくすると、彼女が触れていた場所から光の粒子のようなものがすぐ近くにある師匠の家に向けて流れていく。

 全ての光の粒子が家の中に入りきると、セレナが手を離し、こちらを向く。


「はい、これで終わりよ。中に入ってみましょ」


「え?もうか?」

「早いね!」


 予想を遥かに超える速さで終わったことに驚いたが、セレナに続いて中に入る。 

 中を見てみると、いつも俺とシルが過ごしていた部屋の右隣にもう一つドアがある。

 恐る恐るドアを開けてみると、隣の部屋と全く同じ広さの部屋が目の前に広がっていた。


「おお………!」

「すごい……!本当に部屋ができてる!」


「これで部屋の問題は解決ね」


「ああ!ありがとな、セレナ!」

「ありがとー!セレナちゃん!」


「わ、私はスキルを使っただけよ。感謝されるほどのことではないわ」


 恥ずかしがりながら謙遜するセレナを横目に俺は部屋の中を歩き回っていた。

 それにしても王級スキルはほんとに凄い効果ばかりだな。

 俺のスキルも師匠のスキルも優秀なものだった。

 セレナのスキルに感心していると、部屋の左側の壁にドアが一つ付いている。

 この場所にあるということはもしかして………。

 俺がそう考えていると、シルもそのドアを見つける。


「あ!本当に作ってくれたんだ!」


「シルヴィにはお世話になったからその恩返しよ」


「ありがとう!セレナちゃん!」


 なにやらこのドアはシルの為にセレナが作ったものらしい。

 一体何のために作ったんだろう?

 この位置にあるって事はこのドアの先は隣の部屋だよな?


「なぁ、シル。このドアって本当に必要………」


「必要だよ」


「い、いやでも、わざわざ………」


「必要だよ」


「あっ……はい……」


 シルの謎の圧力に負け、必要なことを認めざるを得なかった。


「ジーク、諦めなさい」


 セレナに肩にぽんと手を置かれ、そう告げられた。

 まぁ、いいか。これでシルも満足しているようだし。

 その後、俺とシルのそれぞれの物を部屋に運んでその日は終わった。

 

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