第6話 人の価値

「え?ジ、ジーク……今なんて………?」


「だから……俺の魔力値が100だと言ったんだ!」


 シルは何も悪くないのに俺は、彼女に当たってしまった。


「そう………。ちょ、ちょっとジーク!どこ行くの!」


 気まずくなった俺は、無言で神殿から出た。

 追いかけてくるシルを無視して。

 外へ出ると、俺の魔力値の事を知っているのか、町の住民たちの声が聞こえてくる。


「おい、知ってるか。フリードのところの息子のこと………」

「知ってるぜ。なんでも歴史上最低の魔力値らしいな………」

「ありゃ、人生終わったな………」


「でも、スキルは、すげんだろ?」

「バカ!スキルを発動させるのにも魔力がいるだろうが」

「結局魔力がなきゃ、どうにもなんねーよ」


「魔力値100っていくらなんでも低過ぎないか」

「ああ、今までの最低値でも500だもんな……」

「そんな町の恥晒しを町から出す訳にはいかないよな」


 これまで友好的だった人たちすら、魔力値が低いというだけで態度を変えてしまう。

 その現実を突きつけられ、俺は、泣きながら走った。


「くそぉぉ………なんで……なんで俺なんだよ!」


 俺は、なにも悪くないのに!なんで!なんでなんだよ!

 そのまま家に帰るわけにはいかないし、1人になりたかった俺は、町を出て森の方へと向かった。

 そして、俺は森の中で泣き疲れ、寝てしまった。


♢ ♢ ♢


「……ク………ジーク……お……きて………起きて」


 誰かの声が聞こえ、うっすらと目が覚める。

 起きてすぐ感じたのは、頭のところに柔らかい感触だった。ゆっくり目を開けると、にっこりと笑ったシルが上から覗き込んでいた。

 えー!?なんで俺、シルに膝枕されてるんだ!?


「大丈夫?ジーク」


 目を開けたまま固まっていた俺に心配そうな顔で見てきた。


「う、うん。大丈夫大丈夫」


「それならいいんだけど………心配したんだからね!急に走りだしたと思って追いかけて来たら、森のど真ん中で倒れているし!」


 涙目になりながら、シルが訴えてくる。

 ああ、そうか。俺は泣き疲れて、眠ってしまったのか………。


「あはは……ごめん。ちょっと疲れたみたい……」


 俺は、愛想笑いしながら誤魔化した。


「そっか……。さぁ、ジーク帰ろ!おじさんもおばさんも心配してたよ」


 そう言って、シルが手を差し伸べてくる。

 俺は、その手をにぎることは出来なかった。


「シルは、気にならないのか………?」


「……なにが……?」


「俺の魔力が100だという事。こんな恥晒しに無理してかまう必要なんて……ないのに……」


 そこまで言った瞬間、バシーンと澄んだ音が森に響いた。

 俺がシルに頬を叩かれた音だ。


「ジークのバカ!無理なんてしてない!私が無理してジークと一緒にいると思ってるの?もしそうなら、一緒に冒険者になるなんて言わないよ!」


「仕方ないだろ!こんな魔力値じゃ、この先なにもできない!シルに迷惑をかけるだけだ………。魔力は、人の価値なんだ……!」


「そんなことない……そんなことないよ……!魔力で人の価値が決まるわけないよ!私は、そんなことでジークを見捨てたりしないよ!」


「シル…………」


「ジークは昔私に言ってくれたよね。忌み子かどうかとか関係ないって。私もそう思うよ。魔力が高かろうが、低かろうが、ジークはジークだよ!」


「………うっ…うっ…ありがとう……!」


 互いに涙を流しながら、気持ちをぶつけ合った僕とシルは、最後にお互いの顔を見て、にこっと笑った。


♢ ♢ ♢


 その後、シルと一緒に俺の家に向かった。

 ドアを開けると、玄関に事情を知っているであろう父さんと母さんが立っていた。


「父さん………母さん………」


 俺が二人に話そうとした瞬間、母さんが走って来て、抱きしめられた。


「いいのよ…ジーク…。なにも言わないで……辛かったでしょう……」

「今日は、もう休んで明日ゆっくり話そう。シルヴィちゃんも泊まっていくといい」


「い、いいんですか!?それじゃあ、お言葉に甘えて」


 なぜか頬を赤く染めながら、こちらを見てくるシルをそのままにして、俺は自分の部屋に戻った。

 森で寝たにもかかわらず、その日は泥のように眠った。

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