第7話 私の光(前編) side:シルヴィ
side:シルヴィ
「…………魔力値100…………」
ジークが『魔晶石』に手を当てて、自分の魔力値を弱々しく呟いた。
私はその瞬間、自分の耳を疑った。
ほんの数秒前まで、誰の目から見ても分かるくらいに、期待でわくわくしながら、目をキラキラさせていたジークはそこにはいなかった。
目に映ったのは、目の前の現実を受け入れきれていないのか絶望を身に纏ったような雰囲気を漂わせながら、映し出された自分の魔力値を呆然と眺める姿だった。
「え?ジ、ジーク……今なんて………?」
おもわず、私はジークに聞き返してしまった。
「だから……俺の魔力値が100だと言ったんだ!」
「そう………。ちょ、ちょっとジーク!どこ行くの!」
ジークに突然怒鳴られて、私はその場に固まってしまう。
どうやって声をかけたらいいか迷って、立ち尽くしていると、ジークは何も言わずにその場から走り去っていってしまった。
しばらく放心してから、ジークの後を追おうと外に出た。
だけど、もうジークの姿はどこにも見当たらなかった。
♢ ♢ ♢
その後私は、もしかしたらすでに帰宅しているかもしれないと思い、ジークの家に向かった。
「すみませーん、ジーク帰ってきてますか?」
「あら?シルちゃんじゃない。家には今私だけだけど、ジークとは一緒じゃなかったの?」
家を訪ねると、メルさんだけが居たらしく、出てきてくれた。
フリードさんは仕事で今は家には居ないとのことらしい。
「そのことなんですけど、実は…………」
私は、さっき起きたことを全てメルさんに話した。
「そうなの………。あの子にそんな事が起きてたのね……。教えてくれてありがとう、シルちゃん。私の方でも探してみるわね」
「その事なんですけど、メルさんには家で待っていてもらえませんか?
ジークは私が必ず見つけてきます!それに、家に誰か居ないともしジークが帰ってきたときに出迎えてあげる人が必要だと思うので、お願いします」
「分かったわ、ジークのことお願いね」
「はい、任せてください!」
メルさんに伝えて、ジークの家を後にした私は、ジークを探すのを再開した。
ジークがいるとしたら絶対あそこしかない!
森を抜けた先にある草原、あそこはいつもジークが行く場所だ。あの場所はジークのお気に入りの場所だからきっとそこにいる!
♢ ♢ ♢
草原を目指して森を歩いていると、遠くの道の方に倒れている人を見つけた。
それが誰なのかを察した私は、急いでその人の元に駆け寄った。
「ジーク!」
よかったぁ。倒れてるから何事かと思ったけど、眠っているだけみたい。ジークの顔をよく見てみると、目元がうっすらと赤く腫れている。きっと泣き疲れてそのまま寝てしまったのかな。
すぐ近くの木陰に座り、そのまま眠っているジークの頭を膝に置いた。
安らかな寝息を立てているジークの頭を撫でながら、私は過去の頃を思い出していた。
♢ ♢ ♢
(過去)
まだ5歳くらいの頃、私は町の子供たちにいじめられていた。
理由は髪の色にあった。
私のお父さんもお母さんも暗めの茶髪なのに、2人の子どもである私の髪色は白みがかった銀髪だった。
当然、周りの目にはそれが異常に見えたらしく、すぐに私は忌み子としての噂が町中に流れた。
それでもお父さんとお母さんは、そんな噂が流れても変わらずに私に愛情を持って、接してくれた。
でも、周りの人たちが私のことを避けているのは、子供である私でも感じるほどだった。
ある日のこと、お母さんが病気で寝込んでしまい、代わりに私が買い物に出掛けた。その帰り道に町のいじめっ子である3人から石を投げつけられた。
「いたっ!」
「よし!当たった!」
「やーい!忌み子!」
「もっと投げろー!」
私のことを忌み子と蔑みながら、次々と石を投げつけ、当たるたびに彼らの中で歓声が上がった。
私は怖くなってしまい、泣きながらその場で蹲り動けなくなってしまった。
そんな私のことを周りの人達は見て見ぬふりをしていた。
「お、忌み子が泣いたぞ!」
「化け物でも泣くんだな!」
「銀髪なんて気持ち悪いんだよ!この町から出てけ!」
「「「出ーてーけ!出ーてーけ!出ーてーけ!」」」
「うっ……うっ……」
(こわいよぉ………いたいよぉ………誰か助けて………。)
いじめっ子たちの罵倒の言葉を浴び続けながら、来るはずもない助けを求めていた。
(やっぱり私いない方がいいのかな………。いない方がお父さんもお母さんも喜ぶのかな………)
私がそんなことを考えていると、その人は現れた。
「やめろぉーーー!!みんなで寄って集って女の子をいじめて恥ずかしくないのか!」
「げぇっ!ジークが来やがった!」
「めんどくさいやつが来たぞ」
「なんだよ、ジーク!この忌み子の味方をするっていうのかよ!」
「忌み子?そんなこと知ったもんか!その子がお前たちに何か悪いことをしたのか?先にちょっかいをかけたのはお前たちの方だろう!」
「うるせーな、分かったよ」
「帰ろー帰ろー」
「ちっ……!覚えとけよ、ジーク」
ジークと呼ばれていた子は、私といじめっ子たちの間に入り、私を庇うように手を広げ、守ってくれた。
いじめっ子たちの言葉に怯みもせず、自分の意見を言うその子の姿は、とても輝いて見えた。いじめっ子たちを追っ払うと、その子は蹲ってる私の元に近寄ってきた。
「大丈夫?立てる?」
そう言いながら、私に手を差し伸べてくれたジークの姿は今でも鮮明に思い出すことができる。
今まで真っ暗で希望もなかった私の世界に、一筋の光が差し込んだ瞬間だった。
「だいじょうぶ………。助けてくれてありがとう………。でもあまり私に関わらない方がいいよ………。私は忌み子だから………」
「そんなこと関係ない、君は君だよ!
この髪色のせいで忌み子って言われてるの?」
「………うん………」
「ふーん、こんなに綺麗な髪なのにそれのどこが忌み子なんだろうな」
「え……気持ち悪くないの……?こんなみんなと違う色なのに………」
「別に周りと同じだからいいってわけじゃないよ。
僕は好きだよ、君の髪。
僕はジーク、よろしく!君の名前は?」
みんな気持ち悪がっていて、今まで誰にも、一度も、言われたことがなかった綺麗という言葉をかけられ、また一段と涙を溢れさせた。
しかしこれまでで間違いなく、1番いい笑顔で彼の手をとった。
「私の名前は………シルヴィ!よろしくね!」
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